31 / 82
31
しおりを挟むフィミリアは、自室のベッドからゆっくりと立ち上がると窓際にゆっくりと足を向ける。
今日は、サミエルとその他彼の部下である騎士団の団員達が先日の事件について話を聞きに来る、と言っていた。
先程、サミエル達がハーツウィル子爵邸にやって来たのを見たフィミリアは話が終わって玄関から出てくる近衛騎士団の面々を自室の窓からそっと見下ろしていた。
「──……っ、」
未だにぶるり、と自分の体が震えるのが分かる。
フィミリアは自分の体を自分の腕で抱き締めるようにして必死に眼下に居る騎士団の姿をじっと見つめる。
──今はまだ、会えるような心境ではない。
「分かってる、分かってるのよ……サミエル様を恨んでも仕方ないって言うのは……だけど……っ」
フィミリアはあの時に男達から話された言葉が頭から離れない。
「婚約者がいない女性等を狙っている」と言っていた。
サミエルとあんな形で婚約を解消しなければもしかしたら自分はあんな目に合わなかったかもしれない。
サミエルが、聖女に心を移してしまったばかりに自分はこんな目に合ってしまったのだ、と言う気持ちが昨日から消えてくれない。
そして、もし万が一自分がまだサミエルと婚約をしていて、運良くあの事件を免れたとしても、自分以外の令嬢達は変わらず被害を受けていただろう事を考えると、卑怯な事を考えてしまった自分にも嫌気がさす。
だからこそ暫く顔を見たく無かった。
今、サミエルの顔を見てしまえばみっともなくサミエルを責めてしまいそうで、人を傷付ける言葉をかつて婚約者で、大好きだった人に投げつけたくない。
フィミリアは、自然と滲んで来てしまった涙を乱暴に自分の手で拭うと父親に会いに行く為、部屋を出る事にした。
男性使用人にはち合わせてしまう事を避けるように、昨夜戻ってから父親が配置換えを行ってくれている。
自分をこれ以上傷付けないように、昨夜父親も疲れていただろうにすぐさま配置換えを行ってくれた父親に感謝する。
自分への愛情を確かに感じて、フィミリアは拭った涙が再びボタボタと床に落ちてしまうのを感じたが、気にせずに扉を開けるとそっと廊下へと足を踏み出した。
父親と侍女のミアが居るであろう部屋へと向かいながら、フィミリアは自分の前に姿を表さないように気を使って行動してくれている使用人達の気配を感じて、有り難さにさらに涙腺が緩んでくる。
フィミリアは扉の前に辿り着くと、何度も深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
「──……っ」
息を長く吐き出して、そっと自分の腕を上げて扉をノックすると、声を出して中に居るであろう父親へ言葉を掛ける。
「──お父様、私です、フィミリアです……少し宜しいでしょうか?」
フィミリアが言葉を掛けると、直ぐに中からバタバタと扉に駆け寄る音が聞こえて来て、扉が勢い良く内側へと開かれる。
「フィミリア!どうしたんだ、大丈夫なのか……?」
扉を開けて姿を表したフィミリアの父親、フレディの心配そうな顔を見て、フィミリアは何とか微笑みを浮かべるとこくりと頷いた。
「ええ、お父様に相談がございます。お話をさせて頂いても宜しいでしょうか?」
フィミリアの言葉にフレディは頷くと、中へ入るように促して、扉をそっと閉じた。
廊下にはぱたん、と小さく閉じる時の音が響いて普段は人の姿が行き来い、賑やかな廊下には今は誰もいないせいか、寂しく悲しくその音が響いた。
41
お気に入りに追加
5,410
あなたにおすすめの小説
はっきり言ってカケラも興味はございません
みおな
恋愛
私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。
病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。
まぁ、好きになさればよろしいわ。
私には関係ないことですから。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約者様にお子様ができてから、私は……
希猫 ゆうみ
恋愛
アスガルド王国の姫君のダンス教師である私には婚約者がいる。
王室騎士団に所属する伯爵令息ヴィクターだ。しかしある日、突然、ヴィクターは子持ちになった。
神官と女奴隷の間に生まれた〝罪の子〟である私が姫君の教師に抜擢されたのは奇跡であり、貴族に求婚されたのはあり得ない程の幸運だった。
だから、我儘は言えない……
結婚し、養母となることを受け入れるべき……
自分にそう言い聞かせた時、代わりに怒ってくれる人がいた。
姫君の語学教師である伯爵令嬢スカーレイだった。
「勝手です。この子の、女としての幸せはどうなるのです?」
〝罪の子〟の象徴である深紅の瞳。
〝罪の子〟を片時も忘れさせない〝ルビー〟という名前。
冷遇される私をスカーレイは〝スノウ〟と呼び、いつも庇護してくれた。
私は子持ちの婚約者と結婚し、ダンス教師スノウの人生を生きる。
スカーレイの傍で生きていく人生ならば〝スノウ〟は幸せだった。
併し、これが恐ろしい復讐劇の始まりだった。
そしてアスガルド王国を勝利へと導いた国軍から若き中尉ジェイドが送り込まれる。
ジェイドが〝スノウ〟と出会ったその時、全ての歯車が狂い始め───……
(※R15の残酷描写を含む回には話数の後に「※」を付けます。タグにも適用しました。苦手な方は自衛の程よろしくお願いいたします)
(※『王女様、それは酷すぎませんか?』関連作ですが、時系列と国が異なる為それぞれ単品としてお読み頂けます)
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる