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しおりを挟むドサッと倒れ込み、フィミリアは強かに体を打ち付け呻く。
「んぐ…っ!」
「暫く大人しくここで待ってろよ」
男の低い声が頭上から聞こえて、そしてドアの閉まる音、ついで施錠されるような音が響いた。
その間、フィミリアはじっと身動ぎせず部屋の内部の様子を探っていた。
(私がここに連れてこられた時に聞こえた細い叫び声と、すすり泣く音…ここにいるのは私だけじゃない…?)
その自分の考えを確信に変えたくて、フィミリアはわざと大きく音を立てながらずり、と地面を倒れたまま這った。
その瞬間、怯えるようにまた細い叫び声が上がり、すすり泣く声が聞こえた方向からも物音がする。
(さっきの男は私で最後、と言っていた)
その事から、この場所には複数の自分と同じく拐かされた女性がいるのではないか、という考えに至る。
それならば、未だに目隠しも猿轡も手首の拘束も解かれない事に納得する。
複数の女性達が結託し、逃げる算段を得られないようにしているのだろう。
(やっぱり、どこか手馴れているこの行動…計画的に仕組まれていたのかしら)
そうしたら、何故自分がターゲットにされたのか。
実家であるハーツウィル子爵家は確かに裕福だ。
子爵家とはいえ豊かな領地に子爵家特有の特産物がある。
身代金目当てで、裕福な家の女性を狙った犯行?
それとも…
(考えたくはないけど、娼館へ売ったり、そういった性的暴行が目当て?)
この状況では情報を得る事も出来そうにない。
フィミリアは自分が落とした手がかりをミアが気付いてくれる事を祈るばかりだ。
(ミアが気付いてくれれば、お父様へ知らせてくれる。そうしたら、今日の会場には騎士隊がいたわ。複数の女性が姿を消している、という事に気付けば事件性があると考え騎士隊が捜索に加わってくれるはず)
ならば、自分の行動は拘束を解かれてからが勝負だ。
目に見える情報を整理して、そして会話が出来ればもしかしたら時間稼ぎが出来るかもしれない。
時間稼ぎをしている内に、騎士隊やお父様が自分を見つけてくれるかもしれない。
フィミリアは暗く沈みそうになる思考を、必死で強く保ち続けた。
「フィミリアお嬢様!」
ミアはフレディの居る客室へ向かいながら、大きく叫びながら周囲を確認する。
バタバタと走りながら大声を上げるミアに、何事だ?と視線を向ける者もいれば、顔を顰める人もいる。
そんな中、通り過ぎる場所場所から小さく「娘がいない!」というような小さい悲鳴が上がっている所が複数あった。
似たようなタイミングで娘を見失っている人達が居ることに、ミアは焦燥感を滲ませ客室までひた走った。
ざわざわと、どこか異変の混じったざわめきが舞踏会の会場から感じ、フレディは肩越しに扉の方へ振り返った。
「何やら騒がしいですな」
エイブリッドがその扉の方に視線を向けてたっぷりと生えた顎髭に指をかけた。
「ああ、何があったのか…」
「もしかしたら聖女様が現れたのかもせれませんな!とても美しいお方だと我が国にもその麗しい美貌の噂が届いております」
一目見て、土産話にしないと!とエイブリッドがソファから腰を上げると、タイミング良くその扉がノックされた。
扉の横に控えていた使用人が扉を開け、話しを聞いている。
何か良くない事でも起こったのだろうか?
とフレディは逸る気持ちを落ち着かせようとした。
そうしていると、話を聞き終わった使用人がエイブリッドの名前を呼び、こちらに近付いてくる。
不思議に思いながらもフレディはその使用人と、使用人になにやら耳打ちをされているエイブリッドに視線をやった。
話しを聴き終わったエイブリッドは口の端を持ち上げ笑むと、フレディに申し訳なさそうに口を開く。
「ハーツウィル子爵、申し訳ない。いい商品が手に入ったそうで、急ぎ国に帰らねばならなくなってしまったようです。」
「…そうか、残念だがまたの機会があれば話しをしよう」
「ええ、是非お願いしますよ」
にこやかに笑うエイブリッドに、フレディが退出の挨拶をしようとしたその時
客室の扉をノックもなく大きな音を立てて転がり込んできた尋常ではないミアの様子に、フレディは驚きに目を見開いた。
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