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しおりを挟むぽたり、ぽたり、と涙が地面に零れ落ち点々と黒い痕を付けていく。
自分のこの恋焦がれる気持ちも涙と共に全部流れ落ちてしまえばいいのに、とフィミリアは自嘲気味に息を吐く。
「…、今回の休暇期間はどれくらいあるのかしら…」
魔獣討伐は、国の各地に赴いている為久々の王都への帰還となる。
前回はまだ暖かい日差しが差し込む時期で、今は日が暮れるのも早くなり、肌寒い日が続く日が多くなってきた。
夜になれば冷たい風が頬を叩くような季節になり
フィミリアはそれだけ長い間サミエルと顔を合わせていない事になる。
まさかフィミリアが聖女一行の帰還に合わせ出迎える群衆の中にいるとは思わなかったのだろう、
サミエルは恋焦がれるような熱い視線を聖女へと向けていて、それを見てしまった瞬間フィミリアは涙が溢れ出てしまった。
今まで共にすごした穏やかな時間や、寡黙な彼と交わした言葉たち、婚約者としての軽い触れ合い。
その全てを思い出して、そして全てを諦めた。
「さよならの前に、せめて一度だけでも…」
恋焦がれて恋焦がれてこの数ヶ月、サミエルを思わなかった日はない。
夢にまで見てしまうくらいサミエルを好いていた。
何故こんなにも彼を好きになったのかもはや思い出せない。
幼い頃に決まった婚約に伴い、何度も二人は逢瀬を重ねていた。
会う回数を重ねる度、寡黙な彼は少しづつ会話をしてくれるようになって。
微笑んでくれるようになって。
手を繋いで街中や郊外に二人で赴いたこともあった。
二人でいる時はサミエルの瞳にも穏やかだが、確かに同じ気持ちを抱いているような熱を感じれた。
だから、将来は二人で幸せな家庭を持つ事が出来るだろうと疑いもしなかった。
当たり前で、平穏な家庭、暖かな家庭。
でもそれはきっと全てフィミリアの思い過ごしだったのかもしれない。思い込んでいただけかもしれない。
優しいサミエルの事だ。
幼い頃に決まった婚約者を彼なりに愛そうとしてくれてはいたと思う。
だけど親愛と愛情は違う。
聖女へ向ける熱い眼差しを貰った事などない。
あんなに愛おしそうに手を握られた事もない。
頬を染め、幸せそうに破顔した表情など見た事がない。
「サミエル様は、あんなに愛おしそうに微笑むのね」
全てを諦めたように立ち上がる。
地面に膝を付いてしまい、汚れたドレスを軽くはたくと家の馬車が待っている車停めの場所へ向かう。
ゆったりと歩きながら、フィミリアは次に会うのが最後になるだろう彼との時間を想い、そっと息を吐き出した。
「早く気持ちを入れ替えなくてはね。お父様にもお母様にも心配はかけれないもの。」
馬車の横に、心配そうに佇む自分の侍女を見つけ
フィミリアは困ったように眉を下げ微笑んだ。
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