気付くのが遅すぎた

高瀬船

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「聖女様、お足元お気を付け下さい。よろしければお手を。」

差し出された掌に、聖女と呼ばれた女性は「ありがとうございます」と顔を綻ばせ差し出された掌にそっと自分の手を重ねた。
重ねられた女性の手を愛おしそうに、宝物のように大切そうに包み込み、男は頬を染め表情を綻ばせる。

目の前で繰り広げられるその情景は一枚の絵画のように美しく、また、当たり前のように「しっくり」と絵になった。
「聖女」と呼ばれた女性は艶やかな金の髪をたなびかせ、美しい空色の瞳を細め男に優しく微笑む。
男は聖女と見つめ合いながらゆっくりと聖女をエスコートし、そして「私」の目の前から去って行った。




聖女は、我が国に古から伝わる不思議な力を持った女性で、昔から国が窮地に陥った際にどこからともなく聖女が現れ様々な奇跡を起こし国を救うと言い伝えられている。
ここ数年、我が国アレンドール国では原因不明の病が流行し、国民がぱたりぱたりと倒れ、田畑は荒れ果て
農村部は野党や山賊が横行し経済は破綻した。
とどめとばかりに「魔獣」と呼ばれる魔素を纏った獣が各地に出現し、国や民を守る騎士隊や、王侯貴族を護る近衛騎士隊も魔獣の鎮圧に駆り出され、国は大いに荒れた。

そんな、国も民も疲れ果てた時にどこからともなく「聖女」が現れた。
「魔法」という文化が廃れて数百年、王侯貴族ですら魔力を纏うものがいないこの昨今に不思議な力で国を、民を癒す女性が現れた。
聖女が一度祈れば各地に出現していた「魔獣」達は浄化されるように塵となり消滅し
大怪我をした人の為に聖女が祈れば神々しい光が負傷した人間を優しく包み込み、傷が癒された。

アレンドール国に現れた聖女は「救国の聖女」と呼ばれ、国の為、民の為に慈愛の心を持った素晴らしい女性だった。
そんな聖女を国王は国を上げて歓迎し、各地に発生している魔獣の討伐を依頼した。
魔獣は騎士達でも倒す事が可能だが、物理耐性がとても強く、かなりの人数と時間を要する為聖女の浄化による討伐が有効だった。
その為、聖女は各地の浄化が必要な場所に自ら赴き国の為に行動していた。
尊い存在の聖女は、今や全国民の希望である。
その聖女を害そうと企む人間も少なからずいて、害のある人間や魔獣からその尊い御身を守る近衛騎士団が常に聖女と行動を共にしている。



子爵令嬢であるフィミリアの婚約者、サミエルも近衛騎士団に所属しており、また第二師団の団長であるサミエルは聖女と深く関わる機会が多い。
その為、聖女に常に付き従う近衛騎士団長であるサミエルはここ数ヶ月婚約者であるフィミリアの元へ姿を表す事がなく、王都への帰還の際に群衆に紛れて駆けつけたフィミリアに気付く事はなかった。
そして二人は寄り添いながらフィミリアの視界から姿を消した。

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