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第二十六話
しおりを挟む「フィー!待たせてごめんね」
「エヴァンお兄様、大丈夫ですわ。お気になさらず」
エヴァンとの話が終わり、アルヴィスとエヴァンはエレフィナが待つサロンへと戻ってくるといつも通りエヴァンはエレフィナの隣へと腰を下ろしにっこりとエレフィナに向かって微笑んでいる。
アルヴィスは、先程の重い話を聞いてから上手く気持ちの切り替えが出来ずにどんな顔でエレフィナと話せばいいのか分からず、無言でソファへと腰を下ろすと冷めてしまった紅茶のカップを手に取ると自分の口元へと運ぶ。
一先ず目下の目標は明日のコンラット殿下からの呼び出しをどう対処すればいいかを考えよう、とアルヴィスは気持ちを落ち着ける。
(あれこれと同時進行で策を巡らせるのは公爵家に任せて、俺はただエレフィナ嬢を守る事だけを考えよう)
単純明快な事柄だけを決めておけばいい。
難しい事は得意な面子に任せてしまい、自分は自分の出来る事をやればいいんだ。と開き直るとアルヴィスは公爵家の当主が来るのを待つことに専念した。
「待たせてすまないね。ラフラート副団長もエレフィナを送ってくれてありがとう」
サロンに姿を表すなりエレフィナの頭を撫でながらアルヴィスに穏やかな視線を向ける公爵家の当主、エドゥアルドにそう言われアルヴィスは慌ててとんでもございません、と答える。
以前会った時よりも些か疲労感を滲ませるエドゥアルドに、やはり今現在公爵家はかつてないほどの忙しさに見舞われている事が伺える。
エヴァンが話していた得体の知れない男がやはり鍵、か。とアルヴィスは考えるとラビナに落ちた振りをして情報を探るべきかとも考える。
男をターゲットにするより、あの女をターゲットにした方がやりやすい気もするがあの女にべたべたと自分の体を触られる事に我慢が出来るかどうか分からない。
(自分一人で動くのは危険だな)
アルヴィスはそう結論を出すと公爵の案内の元前回と同じ客間へと皆で移動した。
「皆、座ってくれ······今後の話をしておきたい」
重苦しい雰囲気の中、エドゥアルドが口を開く。
先程エヴァンから聞いた話全てをエレフィナの前で話す事はしないだろう事は分かっているが、公爵家がどう動くのか。
そしてエレフィナにはどう動いて欲しいのかをこれからの話の中で伝えるつもりなのだろう。
「······私の独自の判断で物事への収拾を付けても良いと王家から許可を頂いた。この許可に対する範囲は公爵家としてではなく、大公としての権限だ」
王印が押された許可証をテーブルの上に載せると、エドゥアルドは腕を組んでしばし考える素振りをする。
アルヴィスはここまで早く王家から許可をもぎ取ったエドゥアルドに口元を引き攣らせると、エドゥアルドへと視線を向ける。
「······だが、裁こうにもまだ証拠が弱い。権力により不当な行いをした、と貴族や国民に判断されては情勢がひっくり返る可能性がある。第二王子を担ぎ込まれて表舞台に引っ張ってこられては力技でねじ伏せようにも他国からの侵攻があった場合対応が後手に回る」
「その為にはやはりまずラビナ・ビビットの洗い直しですね」
エヴァンの言葉にエドゥアルドは「そうだ」と頷くとエレフィナとアルヴィスへ視線を向ける。
「私達はこれからスロベストと水面下で同盟を結べるよう動く。ラビナ・ビビットの標的は今も昔も変わらずエレフィナだ。······今はラフラート副団長にも興味を示している」
アルヴィスは嫌な予感に自分の心臓がどくどくと脈打つのを感じる。
「ラビナ・ビビットに関する事柄には私が許可をする。素性をどうにか洗ってもらいたい」
アルヴィスとしっかりと視線を合わせてそう告げるエドゥアルドに、アルヴィスはやはりこうなったか。と胸中で嘆息するが、エドゥアルドをしっかり見つめ返し唇を開いた。
「······エドゥアルド大公の仰る通りに」
頭を垂れるアルヴィスに倣い、エレフィナも「お任せ下さいませ」と言い頭を下げた。
エドゥアルドからの言葉は言うなれば"ラビナの事はお前達に任すから大公の権限使ってギリギリの所までやってくれ。"という事だ。
「······明日の殿下からの呼び出しにも二人の判断で対応していい。何か殿下から抜き出せそうな情報があれば何でもいいから探って来てくれ」
「······っ、もうお父様もご存知だったのですね」
「ああ、報告を受けたよ。エレフィナを信じるから好きにやってみなさい。······ラフラート副団長頼んだよ」
にこり、と威圧感溢れる笑顔でそう言われアルヴィスは承知しました、と答えた。
話は終わりだ、と言って退出を促すエドゥアルドに頭を下げると先に部屋を出ていくエレフィナとエヴァンに続こうとアルヴィスが足を踏み出した所でエドゥアルドから声を掛けられる。
「ラフラート副団長」
「っ!はい、何でしょうか」
きっちりと姿勢を正し、エドゥアルドに向き直るアルヴィスにエドゥアルドは少し砕けた雰囲気でアルヴィスの隣に肩を並べると唇を開いた。
「······エヴァンから聞いていると思うが、きな臭い展開になるであろうと私は予測している。······沈黙を保っていた東の帝国が最近活発に軍備を整えている。タイミングが揃いすぎているんだ」
「······そうですね、私もそう感じます」
「裏から手を出しているのがいるな?」
「ええ、恐らく······」
「君には忙しくさせるが頼んだよ。ラビナ・ビビットを揺さぶってくれ」
「······っ、承知しました」
フィーには傷一つ付けたら駄目だよ?
と本気だか冗談だかわからない言葉を投げかけられ、アルヴィスは乾いた笑いを零すしかなかった。
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