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第三話
しおりを挟む「お父様、今宜しくて?」
エレフィナが書斎の奥にいる父親に話しかけると、扉の向こうからガタガタと物音が聞こえる。
その物音のすぐ後、扉が自分で開けるより早く開け放たれた。
「フィー! どうしたんだい? 父様に用事かな?」
「お父様!」
開け放たれた扉から勢い良く出てきたその男性は、とても二人の子供がいるとは思えないくらい若々しく、端正な顔立ちはしっかりと子供二人に受け継がれている。
エレフィナとエヴァン二人と同じアッシュグレーの髪の毛は、短く切りそろえられている。
二人とは違うローズピンクの瞳が優しげに細められ、父親の目にはエレフィナしか目に入っていないようだ。
「父上、俺もいるんですけど?」
エレフィナの横に立っているエヴァンが冷たい声を出す。
敢えてエヴァンの姿を無視していたようなそのいつもの父親の態度にエヴァンは苦笑すると、入りますよ。と言い残しすたすたと室内へと入り込んで行った。
「あっ! こらエヴァン! エレフィナより先に入るんじゃない!」
「……お父様、早く中に入りましょう?」
エレフィナが苦笑してそう伝えると、ぱっと笑顔になった父親がエレフィナの手を引いて書斎へと進んで行った。
「……さて、エレフィナ。それで私に話とは何かな?」
書斎のソファに三人は座り、向かい側へ腰を下ろしたエレフィナに二人の父であるエドゥアルドはそう告げる。
先程の優し気な瞳のまま、エレフィナから話される言葉を待っている。
「お父様……、私は恐らく近々コンラット様から婚約破棄されると思います」
背筋をしゃんと伸ばし凛と言い放つ娘のその言葉に、エドゥアルドはきょとん、と瞳を丸め、その言葉が理解出来ないとでも言うように唇を開いた。
「……? 何故、私の可愛いエレフィナがあの男に婚約破棄される羽目になるんだい? 年々、ローズマリーに似て清く美しく成長しているエレフィナに婚約破棄? これ以上美しくなりようがない程美しいのに、まだその美貌を、輝きを成長させていくエレフィナを振るのか? あの青二才が?」
王族だからといって何でも出来ると思うなよ……。
と、低く呻くような父親にエレフィナは落ち着くよう父親を宥める。
「父上の仰る通りだよ、フィー。こんなに美しく清らかな女性は他にいない。それなのに、何故こちらに有責でもあるように破棄されるんだ?」
「お兄様……、それが……」
エレフィナはもごもごと口ごもる。
これから二人のあの場面を見てしまったのだ、と言わなくてはいけない事にエレフィナは恥ずかしそうに頬を染めると、二人から視線を逸らして小声で伝えた。
「その、えっと……見てしまったのですわ。コンラット様と、ラビナさんが口付けをしている場面を……そして……その、恐らくそのままお二人は体を重ねたのだと思います……」
最後はカァーッと顔を真っ赤にして蚊の鳴くような声で二人に告げる。
エレフィナの言葉を聞いた瞬間、二人の男は信じられない、とでも言うように目を見開きわなわなと体が震え出した。
「いいだろう……我が公爵家への侮辱……、受けて立つ」
「今だけの至福に酔いしれていればいい」
父親と兄が、末恐ろしい事を低く呟いているのを聞いて、エレフィナは「やっぱりこうなると思ったわ……」と眉間に皺を寄せてはあ、と溜息を零した。
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