141 / 155
141
しおりを挟むヘンリーの冷たく、凛とした声にセリウスの隣で俯いていたシャロンは遠目にもぶるぶると体が震えているのが分かる。
これから自分達が恐ろしい場所へ連れていかれ、罪を償わされると言う事に恐慄いているのだろう。
メニアは、それを傍目から見ていて瞳を細めた。
自身の胸に満ちてくるこの感情は何なのだろうか、と何処か冷静な自分がふと考える。
身知った者が裁かれる事への憐憫の情か、それとも未だに自分はこの二人に対して友愛や親愛の情を持っていたのか、とメニアは考えてふるふると緩くかぶりを振り、その考えを払い落とす。
(セリウス様とシャロン様は結局、私を言う事の聞く都合の良い人形に仕立てようとしていた……この数年、友人だ、婚約者だ、と大事にして来たのは都合の良い人形を手元に置いておく為──そんな酷い人達を気にする必要なんて……っ)
メニアは自分の唇をぐっ、と噛み締める。
夜会の会場で貴族達から向けられた鋭い視線を思い出す。
自分の家が、自分の大切な家族が窮地に陥った時の感情を思い出す。
王都で平民達から向けられた悪意有る視線と感情を思い出す。
そして、子供達から投げられたこちらを害そうと放たれた石がぶつかった時の痛みを思い出して、メニアはその時の悲しみや、怒りを思い出してセリウスとシャロンへ強い視線を向ける。
メニアの鋭い視線を感じたのか、セリウスが僅かにピクリと体を震えさせてうろ、とメニアの方へと視線を向けた。
瞬間。
──パチリ
と、セリウスとメニアの視線が合ってしまい、メニアは表情には出さないものの、ビクリと肩を震わせる。
メニアとセリウスの視線が合った事に気付いたのだろう。
ネウスが不愉快そうに眉を顰めたが、自分の直ぐ側にいるセリウスを特に咎める事無く成り行きを見守っているようだ。
メニアは、自分とセリウスに視線が集まっている事を感じて、居心地悪く僅かに身動ぎしたが、セリウスはメニアに視線を向けたままじっ、と動かず、何を考えているのか震える唇を開いた。
「メニっ、メニア……っ!──悪かった、悪かった……!俺と、シャロンが悪かった……っ、俺が、減刑されないのは分かるっ、だけどっ」
「──何を……っ、」
メニアが小さく呟いた声はセリウスの耳には聞こえなかったのだろう。
セリウスはメニアが顔を歪めた事を気にもせず、言葉を続ける。
「だけどっ、せめてシャロンと、家族達だけは……!もし家族達が難しいのなら、シャロンだけでも減刑してくれっ!」
「──厚かましいな」
セリウスの側にいたネウスが不快感を顕に口にする。
婚約者であったメニアに、他の女性の減刑を希うなどどれだけ図太い神経をしてやがんだ、とネウスが思い、口を聞けなくしてやろうか、とセリウスに一歩近付いた所で。
メニアが震える声音で言葉を発した。
裁きの間に居た人間達は皆、セリウスとメニアへ視線を向けて固唾を飲んで見詰めていたが、メニアが言葉を発した事でメニアへと視線を向けた。
「──私に、"それ"を言うのですか……。始めに捨てたのは、貴方達でしょうっ!?私の気持ちも、信頼も全て捨てたのは貴方達です!酷い事をしたのは貴方達なのに、自分達が窮地に陥った時だけ救いを求めるなど、許されざる行為です!」
メニアは、悔しさや当時の辛さを思い出し、悲鳴を上げるような声音で叫ぶ。
メニアの声に、セリウスはぐっ、と唇を噛み締めると俯いた。
ネウスはセリウスとシャロンを何の感情も篭っていない瞳で見詰めると、そのままセリウス達に背を向けて踵を返すとメニアの元へと戻る為足を動かした。
その時、ぽつりと小さく、極小さな声音でセリウスがメニアに向かって憎しみが篭った声音で小さく呟いた言葉を聞いた。
「──くそっ、メニアだって……、メニアだって浮気をしたじゃないか……っ、いつの間に魔の者の王と出会って、気持ちを通わせたんだっ、自分だって俺を裏切ったくせにっ」
60
お気に入りに追加
3,380
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
【完結】可愛くない女と婚約破棄を告げられた私は、国の守護神に溺愛されて今は幸せです
かのん
恋愛
「お前、可愛くないんだよ」そう婚約者から言われたエラは、人の大勢いる舞踏会にて婚約破棄を告げられる。そんな時、助けに入ってくれたのは、国の守護神と呼ばれるルイス・トーランドであった。
これは、可愛くないと呼ばれたエラが、溺愛される物語。
全12話 完結となります。毎日更新していきますので、お時間があれば読んでいただけると嬉しいです。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
婚約者様にお子様ができてから、私は……
希猫 ゆうみ
恋愛
アスガルド王国の姫君のダンス教師である私には婚約者がいる。
王室騎士団に所属する伯爵令息ヴィクターだ。しかしある日、突然、ヴィクターは子持ちになった。
神官と女奴隷の間に生まれた〝罪の子〟である私が姫君の教師に抜擢されたのは奇跡であり、貴族に求婚されたのはあり得ない程の幸運だった。
だから、我儘は言えない……
結婚し、養母となることを受け入れるべき……
自分にそう言い聞かせた時、代わりに怒ってくれる人がいた。
姫君の語学教師である伯爵令嬢スカーレイだった。
「勝手です。この子の、女としての幸せはどうなるのです?」
〝罪の子〟の象徴である深紅の瞳。
〝罪の子〟を片時も忘れさせない〝ルビー〟という名前。
冷遇される私をスカーレイは〝スノウ〟と呼び、いつも庇護してくれた。
私は子持ちの婚約者と結婚し、ダンス教師スノウの人生を生きる。
スカーレイの傍で生きていく人生ならば〝スノウ〟は幸せだった。
併し、これが恐ろしい復讐劇の始まりだった。
そしてアスガルド王国を勝利へと導いた国軍から若き中尉ジェイドが送り込まれる。
ジェイドが〝スノウ〟と出会ったその時、全ての歯車が狂い始め───……
(※R15の残酷描写を含む回には話数の後に「※」を付けます。タグにも適用しました。苦手な方は自衛の程よろしくお願いいたします)
(※『王女様、それは酷すぎませんか?』関連作ですが、時系列と国が異なる為それぞれ単品としてお読み頂けます)
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
断罪された商才令嬢は隣国を満喫中
水空 葵
ファンタジー
伯爵令嬢で王国一の商会の長でもあるルシアナ・アストライアはある日のパーティーで王太子の婚約者──聖女候補を虐めたという冤罪で国外追放を言い渡されてしまう。
そんな王太子と聖女候補はルシアナが絶望感する様子を楽しみにしている様子。
けれども、今いるグレール王国には未来が無いと考えていたルシアナは追放を喜んだ。
「国外追放になって悔しいか?」
「いいえ、感謝していますわ。国外追放に処してくださってありがとうございます!」
悔しがる王太子達とは違って、ルシアナは隣国での商人生活に期待を膨らませていて、隣国を拠点に人々の役に立つ魔道具を作って広めることを決意する。
その一方で、彼女が去った後の王国は破滅へと向かっていて……。
断罪された令嬢が皆から愛され、幸せになるお話。
※他サイトでも連載中です。
毎日18時頃の更新を予定しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる