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国王陛下の御前と言うのにも関わらず、セリウスはメニアの姿を確認した途端、声を荒らげメニアの元へ行こうとしたが当然拘束されている身は動かす事が出来ず、更に側に控えていた護衛騎士に体を押さえ付けられて裁きの間への床へと引き倒される。

ぎり、と強く後ろ手に縛られた手首の上から騎士がセリウスの手首の上に膝を付き、全体重を掛けて床へと縫い付けている。
騎士の手はセリウスの後頭部を掴み、この国の国王陛下の許しも得ずに頭を上げ、発言した事を許さないとでも言うような乱暴な対応だ。
セリウスが元高位貴族の子息だとしても、次期侯爵になる人物だったとしても、今はただの罪人である。
そんな罪人に対する慈悲の気持ち等持ち合わせていないと言うような騎士の態度に、シャロンは横目でセリウスと騎士のやり取りを見て、怯えるように深く頭を下げたまま震えている。

「国王陛下のお許しも無く顔を上げ、声を発するなど……まだ罪人と言う自覚が足りないのか……!」

騎士の鋭い叱責が飛び、セリウスは悔しそうに奥歯を噛み締めて唇を噤む。

やり取りを見ていた国王陛下、ヘンリーは抑揚の無い声音で「良い」と一言言葉を掛けると続けて言葉を紡ぐ。

「──古くからの盟友である、魔の者の王ネウス殿と、ネウス殿の奥方、メニア・ハピュナー嬢の前だ。あまり暴力的な行為をしていては、王妃殿の目に毒だ……。……さて、此度の説明をしてくれ」

ヘンリーの言葉に、俄に裁きの間がざわり、とざわめくが国王の言葉が続く中、言葉を発する者は誰も居ない。

何故、国王陛下の隣に同列で玉座が用意されていたのか。
何故、その玉座の隣にもう一つ豪奢な椅子が用意されていたのか。
何故、この国の聖女であるメニア・ハピュナーが魔の者の王の隣に座するのか。

その全ての疑問が先程のヘンリーの言葉で解決し、周囲は緊張と、戸惑いと、焦燥感に包まれた。



それは、床に縫い付けられたセリウスや、深く頭を下げているシャロンも同様で。
セリウスは床に縫い付けられたまま、信じられない思いを抱いていた。

(何故、メニアがあの男──魔の者の王の王妃、に……?あいつは、ただの護衛だった筈なのに……、護衛が、本当は魔の者の王だった?その、せいでメニアの様子が段々と変わっていってしまった、のか……?)

いつから、メニアの態度が変わって行ってしまったのか。
いつから、メニアはネウスと出会ってしまっていたのか。

セリウスは、ぐるぐると混乱する頭で必死に考えるが、今ここでその事を考えても何も結果は覆る事は無い。
全て、自分達の計画は全て失敗してしまったのだ。

セリウスがそう考えていると、先程の国王ヘンリーの言葉に従い、セリウスとシャロンが捕らえられている裁きの間の中央に誰かが歩み寄って来る気配がして、少し離れた場所でぴたり、と静止したようだ。

「レブナワンド侯爵家の子息であったセリウス・レブナワンド、タナヒル侯爵家の子女であったシャロン・タナヒル両名の犯した罪は重く、国家を転覆しようと画策した罪は到底許されざる所業である。──今ここに、両名の犯した罪を述べる」

裁きの間での執行官だろうか。
厳格そうな見た目の男性がつらつらと口上を述べ、セリウスとシャロンが犯した罪をその場に集まった貴族達に聞かせるように手の中の書類に視線を落としながら声高に読み上げる。



貴重な光属性、後に聖属性の適性を持っていた事が判明したハピュナー子爵家の令嬢を自分達の利益の為に幼い頃に婚約と言う見えない鎖で縛り付け、長年苦しめ続けた事。

いつからか魔の者と交流を持ち、この国では禁止されている魔の者の使用する「魅了」の魔法をメニアに掛け続けた事。
周囲に助けを求めれないように長年魅了と信用の魔法を重ね掛け続け、孤立させ、自分達の意のままに操ろうとした事。

聖女となったメニアの権限を悪用し、無理矢理立ち入り禁止区域に侵入し、国の重要な資料を魔の者に渡した事。

聖女であるメニアを、「偽りの聖女」だと吹聴し、国民を、貴族達を混乱させた事。

そして、シャロン自身が禁術と呼ばれるような物を用いて人外の存在と契約を結び、メニア及び魔の者の王であるネウスを害そうと画策していた事。

そして、最後に魔の者と手を組み、魔の者の王であるネウス自身を害する手助けをしていた事が述べられ、周囲からは小さく悲鳴を上げる声などが聞こえて来る。

ざわざわとざわめく周囲の気配など気にも止めず、ネウスは「まだある」とおもむろに口を開いた。

「──まだ、こいつらが犯した罪はあるぜ」

憤りを隠しきれないようなネウスの恐ろしく低く威圧感のある声音に、罪状を読み上げていた執行官の男は、びくりと体を震えさせるとネウスへ視線を向けた後、窺うようにヘンリーへと視線を向ける。

ネウスが怒りを顕にしている事に気付いたメニアは、そっと気遣うようにネウスの腕に手を添えるが、ネウスはメニアに向けて「全部話すぞ」と口にする。

ヘンリーは、執行官に向かって頷くとネウスの言葉に応えるように唇を開いた。

「我々の調査漏れにより、全てを把握し切れて居らず申し訳ない……。して、ネウス殿。この両名にまだ罪がある、とは……?」
「……計、二回だな。二回、メニアが王都の街で平民から石を投げられた。どうやら貴族連中からメニアが"偽の聖女"だと聞いたらしく、メニアに暴行を働こうとした。……二回目の時は実際、メニアは怪我を負っている。メニアに対する悪評をわざと流した者共がいやがる。──それと、メニアの子爵家だな」
「なんと……そのような事、まで……」

平民から石を投げられた事は、ヘンリーの元まで報告が行っていなかったのだろうか。
それとも、セリウスが手を回した貴族達が上に報告が上がらないように画策をしたのか、関わった者を口封じしたのかは今は知る事は出来ないが、ネウスは驚きに表情を歪めるヘンリーに向かって言葉を続けた。

「メニアの、ハピュナー子爵家だが、こいつらが裏で手を回したんだろう。取引を全て潰され、商人達との取引も全て押さえられている。このタイミングでそんな事が出来るのはこの両侯爵家だけだろう」
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