125 / 155
125
しおりを挟むメニアが悲鳴を上げる前にセリウスの体が後方へ吹っ飛んで行ってしまった事に、周囲に居たラドの護衛達を始め貴族達もぽかん、とセリウスが落ちた方向へ視線を向けている。
護衛の数名は、メニアを庇おうと手を伸ばしていたがメニアの側には一瞬目を離した隙に既にネウスがメニアを守るように立っており、護衛達はメニアとネウス達の前に自分達の体を入れるとセリウスから再度メニアが攻撃されないように自分達の体を盾にして並んだ。
「……随分吹っ飛んだな。そんなに効果の高いのを仕込んでたのか、メニア……?」
些か呆気に取られたように唇を開くネウスに、メニアは「おかしいですね」と自分の懐にしまい込んでいた魔石を取り出す。
「ネウスさんから頂いた書物に載っていた、普通の防御結界を魔石に掛けて、発動したんですけど……」
メニア自身も何故あれ程までセリウスが大きく弾かれてしまったのかは分からないらしく、首を捻っている。
その様子を後ろから眺めていたロザンナがゆったりと二人に近付き、背後からメニアの手の中にある魔石をひょい、と覗き込んだ。
「──元々メニアが掛けていた魔法に、咄嗟に魔力を乗せちゃったんじゃない?本能で自分を守る為に魔力を放出したのだったら、効力が上がっても頷けるわ」
「そんな事が出来るのか?」
ロザンナの言葉に、関心したようにネウスが言葉を返すとロザンナは吹っ飛ばされたセリウスの倒れている方向へ視線をやって「あれがいい例じゃありませんか?」と笑った。
セリウスは、自分自身に起きた事が理解出来ていないようで戸惑いの色濃く、狼狽えている。
セリウスの元へ駆け付けた護衛達に再び地面へと押さえ付けられると、今度は自由に動けないよう行動制限を与える枷を手足に嵌められている。
「ハピュナー嬢、ネウス様、ご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ございません。お二人共お怪我はございませんか?」
「え、ええ……、私は大丈夫です。ネウスさんは?目に土が入ってしまってはいませんか?」
ラドが申し訳なさそうな表情を浮かべてメニアとネウスに近付くと二人に声を掛けて来る。
メニアは大丈夫だ、と返事をしてネウスへと視線を向ける。
メニアとラドの視線を受けたネウスも「俺も大丈夫だ」と言葉を返すと、ラドは素早く護衛達に指示を出してセリウスとシャロンを連れて行くように声を掛けた。
その後、ラドはくるりと体を反転させるとメニア達に向かって一礼し、今度こそ国王の待つ場所へと案内をした。
「お待たせして申し訳ございません……。陛下の元へご案内致します」
ラドの案内に従い、王城の中を進んで行く。
謁見の間や、裁きの間がある王城の中心地では無く、王族の居住区に迷わず進んで行くラドの背中を追いながら、メニアはそわそわと周囲を見回した。
メニアの隣を歩いていたネウスは、そわそわとしているメニアに苦笑して、軽く頭を小突いてやると唇を開いた。
「──あまりキョロキョロとしてると迷子になるぞ」
ネウスに小突かれたメニアは、むうっと不満そうに唇を尖らせるとネウスから視線を逸らして唇を開く。
「子供扱いしないで下さいよ……っ、しっかり着いて行きますもん……!」
「子供扱いはしてねえんだけどなぁ……」
笑いながらネウスはそう言うと、自然な流れでメニアの手をさっと自分の手のひらで攫う。
思いの外、力強く握られた自分の手のひらを驚きに見開いた瞳で見詰めてから、メニアは頬を染めてネウスを見詰めた。
ネウスはメニアの視線に口端を持ち上げて笑むと、そのまま指を絡めて再度手を繋ぎ直す。
「──……っ、ネウスさんっ」
「何だよ?別にいいだろ?」
頬を真っ赤にするメニアに、ネウスは手を繋いだまま躊躇うメニアを引っ張り、ラドの後を着いて行った。
ラドが案内してくれたのは、王族が住まう居住区にある私的な来賓室だ。
王族にとって、とても重要な人物を個人的に招く際に使用されるその場所は絢爛な装飾が施された扉を開けると、室内も品良く豪勢な調度品が設置されていて目が眩む程の豪奢な室内に、メニアはくらりと目眩を覚えてしまう。
「──へえ、ここには入った事は無かったが……こんな創りをしてんだな」
ネウスは何処か懐かしむように愉しげに呟くと室内をぐるり、と見回す。
メニアの手を引いたまま室内に一歩足を踏み入れると、先に室内に居た数人がメニアとネウスが姿を表した事に気付き、腰掛けていたソファから腰を上げて頭を下げた。
「メニア・ハピュナー嬢、魔の者の王であるネウス殿。良くぞ居らしてくれた」
落ち着いた重厚な声音で言葉を発した人物こそが、この国の国王陛下であり、名をヘンリー・イービス・アリティネイアと言う。
ヘンリー国王の隣に居るのは王妃だろう。王妃も恭しくドレスの裾を摘み、膝を曲げて礼を取る。
そして、二人の少し後方に控えて同じく頭を下げる青年は、この国の王太子が居て、メニアは国王陛下のみならず、王妃と王太子が同じ室内に居る事に頭の中が真っ白になってしまう。
王家主催の夜会などで、遠くからご尊顔を拝見した事はあるが、このような室内で、近い距離でまさか顔を合わせる事になるとは思っておらず、思考が停止してしまう。
その最中、ネウスはこの場所に何故か同席している王太子に眉根を寄せた。
その王太子は、年齢的にメニアととても良く合いそうな年頃に見えて、ネウスは不快感を覚えたのだった。
58
お気に入りに追加
3,380
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
【完結】可愛くない女と婚約破棄を告げられた私は、国の守護神に溺愛されて今は幸せです
かのん
恋愛
「お前、可愛くないんだよ」そう婚約者から言われたエラは、人の大勢いる舞踏会にて婚約破棄を告げられる。そんな時、助けに入ってくれたのは、国の守護神と呼ばれるルイス・トーランドであった。
これは、可愛くないと呼ばれたエラが、溺愛される物語。
全12話 完結となります。毎日更新していきますので、お時間があれば読んでいただけると嬉しいです。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
婚約者様にお子様ができてから、私は……
希猫 ゆうみ
恋愛
アスガルド王国の姫君のダンス教師である私には婚約者がいる。
王室騎士団に所属する伯爵令息ヴィクターだ。しかしある日、突然、ヴィクターは子持ちになった。
神官と女奴隷の間に生まれた〝罪の子〟である私が姫君の教師に抜擢されたのは奇跡であり、貴族に求婚されたのはあり得ない程の幸運だった。
だから、我儘は言えない……
結婚し、養母となることを受け入れるべき……
自分にそう言い聞かせた時、代わりに怒ってくれる人がいた。
姫君の語学教師である伯爵令嬢スカーレイだった。
「勝手です。この子の、女としての幸せはどうなるのです?」
〝罪の子〟の象徴である深紅の瞳。
〝罪の子〟を片時も忘れさせない〝ルビー〟という名前。
冷遇される私をスカーレイは〝スノウ〟と呼び、いつも庇護してくれた。
私は子持ちの婚約者と結婚し、ダンス教師スノウの人生を生きる。
スカーレイの傍で生きていく人生ならば〝スノウ〟は幸せだった。
併し、これが恐ろしい復讐劇の始まりだった。
そしてアスガルド王国を勝利へと導いた国軍から若き中尉ジェイドが送り込まれる。
ジェイドが〝スノウ〟と出会ったその時、全ての歯車が狂い始め───……
(※R15の残酷描写を含む回には話数の後に「※」を付けます。タグにも適用しました。苦手な方は自衛の程よろしくお願いいたします)
(※『王女様、それは酷すぎませんか?』関連作ですが、時系列と国が異なる為それぞれ単品としてお読み頂けます)
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
断罪された商才令嬢は隣国を満喫中
水空 葵
ファンタジー
伯爵令嬢で王国一の商会の長でもあるルシアナ・アストライアはある日のパーティーで王太子の婚約者──聖女候補を虐めたという冤罪で国外追放を言い渡されてしまう。
そんな王太子と聖女候補はルシアナが絶望感する様子を楽しみにしている様子。
けれども、今いるグレール王国には未来が無いと考えていたルシアナは追放を喜んだ。
「国外追放になって悔しいか?」
「いいえ、感謝していますわ。国外追放に処してくださってありがとうございます!」
悔しがる王太子達とは違って、ルシアナは隣国での商人生活に期待を膨らませていて、隣国を拠点に人々の役に立つ魔道具を作って広めることを決意する。
その一方で、彼女が去った後の王国は破滅へと向かっていて……。
断罪された令嬢が皆から愛され、幸せになるお話。
※他サイトでも連載中です。
毎日18時頃の更新を予定しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる