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しおりを挟む「──ちっ、何処の誰がこんな事をしやがった……!」
頭上でネウスの苛立ち混じりの声が聞こえて、メニアは頭上に被さるネウスの腕に手を添えてちらり、と馬車の窓の方へと視線を向ける。
突然の事にロザンナも驚いたようだが、冷静に自分の髪の毛や服に降り注いだ硝子を払い落としながら、窓の外へ視線をやっている。
「ロザンナさん、大丈夫ですか……!?」
「ええ、ありがとうメニア。私は大丈夫よ。元来、魔の者は丈夫だからね」
メニアの問い掛けにロザンナはにっこりと笑顔で答え、窓の外を見た瞬間瞳を細めた。
その表情が、困惑しているような、判断に困っているようなそんな表情を浮かべていて、メニアを庇っていたネウスもメニアから離れるとロザンナに向かって唇を開いた。
「──ロザンナ」
「はい。……石を投げ入れたのは、どうやらこの国の住民のようで……」
ロザンナはネウスに視線を戻すと躊躇いがちに、言いにくそうに言葉を紡ぐ。
ネウスが「なに?」と訝しげに声を出すと、ロザンナの居る馬車の窓側へと近寄った。
上部の窓枠に手を添えて外を覗き込むネウスは、馬車の進行方向の辺りに視線を向けて、何かを目にした瞬間僅かに瞳を見開いた。
「──ネウスさん?」
「……っ、ああ、いや……あれはどう対応するか……」
「何があったんですか……?」
メニアが窓の方へと近寄ろうと座席から腰を離した瞬間、ネウスに視線で指示されたロザンナがすっとメニアの方へと近付いて来て、メニアの隣に腰を下ろす。
「──あまりいいモンじゃねえかもな……少し外に行って来るから、メニアは窓に近付くなよ。それと……一応防御結界を馬車に掛けておいた方が良い」
ネウスはそう言うなり、窓から離れるとメニアの頭をひと撫でして馬車の扉を開けると馬車の外へと出て行ってしまった。
メニアはネウスに言われた通り、躊躇いつつも聖属性魔法の防御結界の魔法を発動する。
以前魔石に込めた魔法とは違い、物理攻撃を防ぐ結界の為そこまで魔力の消費は大きく無い。
メニアは視線を床へと向けて、窓硝子を割った石を拾い上げる。
ごろり、とメニアの手のひらの上に乗せられた石は小さな子供の拳程の大きさだ。
「この石が窓硝子を割って入って来たんですね──」
この石が自分達に当たらなくて良かった、とメニアが考えて居るとネウスが出て行った外から子供のような高く、興奮したような大声が聞こえて来た。
ネウスが馬車の外に出ると、馬車の御者が何者かと話しているようだが相手に困惑しているようでたじたじとしている様子が見て取れる。
ネウスは馬車の御者に近付くと、「何事だ」と声を掛けて、御者と話している人物に視線を向ける。
先程窓の外から見えた姿、この国に住む平民の子供だろうか。
王城に近いこの馬車通りは比較的裕福な者達が住む街の区画の為、平民の子供も身なりは整って居る。
だが、その子供は一人では無く数人の子供達が集まり馬車の御者に向かって険しい表情をしていたが、途中から姿を表したネウスに気付いてさらに表情を険しくした。
「お前っ!この馬車に乗ってる偽聖女の関係者かっ!!」
「──は?」
「とぼけたって無駄だぞ……!最近この国の聖女に任命された貴族の女が悪人だって事は分かってる!馬車に乗ってる女がその偽聖女だろ!」
「……誰がそんな事を言っていたんだ?」
ネウスの低く、冷たい声音に子供がビクリ、と体を跳ねさせる。
気付けば、馬車の周囲はちらほらと人が集まり始め、「何事だ?」と言うように興味を持った者達が増えて来ている。
何故、昨日の今日で平民──子供の間にまで話が広がっているのか。
ネウスはちらり、と周囲に視線を巡らせて野次馬達を確認する。
(やる事が汚えあの男の事だ……もしかしたらわざと周囲にメニアの悪評を広めてんのか……?)
ネウスの考えは当たっていたようで、野次馬達の奥──建物の影に明らかに貴族の身なりをした男が複数人、馬車の方へとちらちら視線を向けている。
(──あいつらの仕業か……?)
ならば、捕えなければ、とネウスが考えていると自分に向かって何かが飛んできた気配がして、ネウスは無意識にその飛来して来た物体を片腕でぱしっと受け止める。
「──あっ、!」
「何だ……?」
ネウスは、掴んだ物を確認するように手のひらを広げると手のひらの上にころり、と石ころが転がって、ネウスは眉を寄せた。
「さっき、馬車の窓を割ったのもお前達だな……?」
「──だって……っ、悪人が乗ってるんだろう……!悪人には何をやってもいいんだ……!」
ネウスの言葉にたじろぐ子供が視線を逸らしながら口にした言葉に、ネウスは手のひらの上にあった石ころをバキリ、と握り締めて割ると地面に落とした。
「──悪人だからと言って、何をしても許されるのか……?それに、その決定は誰がした……?この国の国王陛下から正式にその旨が通達されたのか……?」
ネウスは、子供のみならず周囲に集まった野次馬達に聞こえるような良く通る声音で言葉を発する。
先程から非難めいた視線をネウスに向けて来ていた野次馬の大人達は、ネウスの言葉を聞いて気まずそうに視線を逸らしている。
「──俺は、この国の宰相であるラド・メランド卿から直接聖女様を護衛せよ、と任命された。……誰が聖女様を"偽聖女"だと宣っているのかは知らないが……人の意見に踊らされて悪人と決めつけると大変な事になるぞ」
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