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しおりを挟む「──っ、」
「ユリナ!」
カーナの切迫したような叫び声が室内に響き、フィエンはにたり、と嫌な笑みを浮かべると目にも止まらない速度で自分の剣をユリナの心臓目掛けて突き出す。
ユリナも急いで後方へ飛んで避けようとしたが、ユリナが避けるよりも早くフィエンの剣がユリナの心臓を貫く方が早いだろう。
フィエンは、カーナとユリナと一瞬だけ戦闘を交えただけでどちらの方が戦力が劣っているかを正確に判断し、劣っているユリナの方から先に始末する事に決めたのだろう。
同じ魔の者で、仲間である種族である筈なのに、フィエンの剣は躊躇いも無くユリナを殺そうとしている。
その事が嫌でも分かり、メニアが何か魔法を発動しようとしている内に自分の近くに来ていたロザンナがメニアの腕を引っ張り、後方へとメニアを連れて行く。
「──ロザンナさんっ!」
「いいから……っ!私達は簡単には死なないわ……!」
ロザンナがメニアを後方へと逃がそうとした瞬間、先程メニアが発動しておいた魔石の魔法がフィエンの攻撃を弾き飛ばした。
──バチン!
と大きな音を立ててユリナを貫こうとしていたフィエンの剣が大きく弾き飛ばされ、フィエンの手のひらから長剣がフィエンの後方へと放物線を描き、飛ばされる。
長剣の刃はボロボロに崩れており、メニアが発動した魔石の魔法の防御効果が絶大な事を表していた。
「──な、っんだ……!」
驚愕に見開かれたフィエンの瞳がうろ、と虚空を彷徨い、そして後方に居るメニアを視界に入れると「お前か!」と叫んだ。
「……ひっ」
「メニアのお父様!メニアを連れて逃げて!」
ロザンナがメニアを逃がすように力強く突き飛ばし、メニアの父親に怒鳴るように指示をする。
突然の出来事に慌てていた父親だったが、ロザンナの叱責するようなその切羽詰まった声音に表情を引き締めるとメニアの手首を掴み、フィエンから距離を取る為にメニアを連れ出そうとする。
メニアと父親を背後に庇い、ロザンナがくるりと反転してフィエンに向き直る。
メニアの聖属性魔法に弾かれた長剣は捨てたのだろう。
フィエンは手には何も武器を持たずにユリナの横を通り過ぎると片手を前方に突き出して闇魔法を発動しようとしている。
カーナが素早くフィエンを追って来ているが、カーナの攻撃が当たるより、フィエンがロザンナに迫る速度の方が早い。
「──戦闘は苦手だっていうのに……!」
ロザンナは額から一筋の汗を零すと、挑戦的な笑みを浮かべて闇魔法の発動に備える。
研究特化のロザンナに、騎士団所属で師団長のフィエンをどれだけ足止め出来るかは未知数だ。
だが、僅かでも時を稼げればロザンナの夫であるカーティスの力を強く受け継いだカーナが間に合うだろう。
カーナも、どれだけの時間を稼げるかは分からないが、メニアと父親が逃げるだけの時間を稼げるかもしれない。
「──退けぇ……っ!」
「退かしてみなさいよ……!」
フィエンが形容のし難い形相でロザンナを凝視し、吠える。
ロザンナも挑発するようにフィエンに声を張り上げた瞬間──。
ロザンナの目の前に突然広い背中が現れ、庇うようにフィエンの攻撃を長剣で受け止めた男が現れた。
その後ろ姿が何故だか、既にこの世を去っているカーティスと似通っていて、ロザンナはぽつり、と自分の夫の名前を小さく呟いた。
「──カーティス……、」
「……父さんじゃなくてすみませんね」
カーティスと同じ髪色の赤茶の後頭部がくるり、とロザンナの居る背後に振り向き、苦笑している。
その顔は、亡き夫ととても似ているが全くの別人で、ロザンナは眉を下げてその男の名前を呼んだ。
「マティアス……助かったわ……」
「いえ。本当に間一髪だったみたいで……間に合って良かったです」
マティアスがそう呟き、自分の目の前に居る男に再び視線を戻す。
目の前に居る第二師団長、フィエンは悔しそうに唇を噛み、マティアスを強い視線で睨み付ける。
「──最悪だ。あと少しだったのに……」
「俺とネウス様が居ない隙を付いたみたいだが……俺の妹達の戦闘力を侮っていたみたいだな」
「ああ。小賢しい邪魔ばかりされて一思いに殺しておけば良かったと後悔しているよ」
フィエンの言葉を聞いて、マティアスはこめかみに青筋を浮かべると、低く唸るような声音で誰かに問い掛けた。
「──この男を、殺しては駄目なんですか……?」
マティアスの言葉は、遙か後方に居る存在に向けて発しているようで、ロザンナがメニア達が居るであろう後方を振り向くといつの間にこの場所にやって来たのか。
ネウスが床にへたり込む寸前のメニアをしっかりと自分の腕で抱き留めている。
ロザンナは、マティアスとネウスがこの場にやって来た事に安堵し、緊張感で強ばっていた体から力を抜くと、マティアスの邪魔にならないようにマティアスとフィエン二人から距離を取る。
ネウスは、普段の飄々とした態度を一切感じさせない表情と声音でマティアスの問い掛けに答えた。
「……ああ、生け捕りにしろ。そいつからは聞きたい事がたっぷりとあるからな?」
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