81 / 155
81
しおりを挟む翌朝。
意外にも、熟睡してしまったメニアはぱちり、と瞳を開くと慌ててベッドに体を起こした。
「──随分寝てしまったわ……!」
慌ててベッドから降りて身支度をし、着替える。
子爵邸に居た使用人達は今はここに居ない。
その為、メニアは自分で簡単に着替える事が出来る簡素なデイドレスを身に纏い、髪の毛をどうしよう、と悩んでいる時に部屋の扉がノックされた。
「……?はい」
こんな朝早くに誰だろうか、と疑問に思いながらメニアが扉へと返事をするとガチャリ、と扉が開きロザンナの娘であるカーナとユリナが顔を覗かせた。
「メニアさん、もう起きてるのね?」
「昨夜はぐっすり眠れた?」
にこにこと楽しそうに笑顔でそう聞いてくる二人に、メニアも自然と笑顔になるとこくり、と頷く。
「はい。ゆっくり休ませて貰いました。お二人はどうしたんですか?」
鏡台の前から立ち上がり、二人の元へ行こうとしたメニアにカーナは「入っても大丈夫です?」とメニアに話し掛ける。
メニアは「勿論!」と答えると、カーナとユリナは嬉しそうにメニアの部屋へと入室し、メニアに近付いて来る。
「昨夜、メニアさんが魔法を込めた魔石を子爵邸に届けに行く前に、お話したくって」
「ここに来てから、夜にでもお話出来たら、と考えていたんですが、ほら……昨夜はネウス様がメニアさんの部屋に残ってしまったでしょう?」
「──あー……。すみません……」
メニアさんが謝る事ないですよ、とユリナが笑うと、鏡台の前に再度メニアを誘導して座らせると、「髪の毛を私が結ってもいいですか?」とメニアに聞いて来る。
「ユリナさんがやって下さるんですか?私、自分では上手く出来なくて……。結って頂けるの嬉しいです」
「任せて下さい。カーナの髪の毛も私がやる事が多いので慣れてるんです」
メニアと、カーナとユリナは穏やかに世間話をしながら支度を進める。
メニアは、セリウスやシャロン以外にこうして仲良く話す相手が居なかったので友人のように会話が出来る事が嬉しくて。
カーナとユリナも、自分達と見た目年齢が近い人間の少女と話をするのを楽しみにしていた、と語った。
「夜会が終わったら、この国の街を案内してくれませんか?」
「私達、お父様が亡くなってしまってからは魔の者の国に直ぐ移動してしまったので、この国に来るのは久しぶりなんです」
「だから、お友達と一緒に街中を散策してみたいな、と思って」
カーナとユリナに、キラキラと期待の籠った瞳で見詰められ、メニアも嬉しく感じて力強く頷いた。
「私で宜しければ、勿論!お祭りは終わってしまったけど、カフェ巡りや、お買い物等を沢山しましょう!」
三人は夜会が終わったら一緒に街中に出て散策しよう、と約束をするとメニアの髪の毛の結い上げが終わったユリナがメニアの手を引いて皆が待っている食堂へ向かった。
食堂に到着すると、ロザンナとマティアスが既にテーブルに着いており、二人で何か会話をしていた様子だったがメニア達が食堂に姿を表すとメニア達に朝の挨拶をする。
「あら、メニア。顔色が大分良くなってるわね。ぐっすり眠れた?」
「そんなに顔色悪かったですかね、ロザンナさん……。ちょっと疲れたな、って感じる程度だったんですけど……」
「朝までぐっすりだったんでしょう?大丈夫だ、と思っていても魔力の消費だけでは無く色々な事があったのだもの。体が疲れ切ってたのよ、きっと。今日、午前中に娘達に魔石を届けさせるから、メニアはその間に夜会の支度をしちゃいましょう」
メニア達が席に着くと朝食が運ばれ始めてロザンナがテキパキと今日の事を話し始める。
慣れたように会話を続けるロザンナに、メニアは不思議そうに周囲を見回す。
この邸の主人であるネウスがまだやって来ていないが、主人が姿を表す前に朝食に手を付けてもいいのだろうか、とメニアが躊躇っている内にもう慣れた事なのか、ロザンナを始め、マティアスやカーナ、ユリナも黙々と朝食を食べる手を進めている。
「──あの、……」
「ん、?……ああ、ネウス様?ネウス様はいいのよ。あと小一時間くらいしたら起きて来るんじゃないかしら?」
メニアの言葉に、ロザンナは食べる手を止めるとあっさりとそう返答する。
これが、普段の光景なのか、とメニアは納得すると自分もゆっくりと用意された朝食に手を付けた。
「じゃあ、行ってきますね。何かあったら直ぐにこの邸に戻ってきます」
「メニアさん、ネウス様寝起きが悪いけど、頑張って対応して下さいね」
「あっ、お二人とも、ありがとうございます!宜しくお願いします!」
カーナとユリナ二人は朝食を終えるとそのまま席を立ち上がり、メニアに手を振って食堂を出て行く。
メニアも二人に向かって感謝を告げると、再度そのまま椅子へと腰を下ろした。
先程、ユリナからネウスの寝起き云々と言う言葉が出てきたが、何故メニアは自分が対応頑張れ、と言われなくてはいけないのか、と不思議そうに首を傾げる。
確かに未だ、ネウスは食堂に姿を現す事は無いがロザンナが言っていたように時間が経てばネウスもこの場に姿を現すのだろう。
「ロザンナさん、ネウスさんが来るまでサロンか何かに移動しますか?夜会の事を話さなくてはいけないですし……」
メニアがロザンナにそう話し掛けると、ロザンナはグラスに注がれている飲み物を一口喉の奥に流し込むと、唇を開いた。
「──そうねぇ……。私達で先に話し始めてもいいんだけど……。自分だけ除け者にされて拗ねる可能性があるから、メニアがネウス様を起こして来てくれないかしら?」
「えっ、ええ?寝ている男性が居る部屋に、流石に入れません……!マティアスさんが起こしに行って差し上げたらどうでしょう?」
「え、ええ!?俺です?いや、ネウス様の寝室に男は入れないんで……扉を開けて、外から見てますからメニアさんが起こしてあげて下さい」
ぶんぶんと全力で拒否をするマティアスに、メニアは困ったように眉を下げるが、ネウスが来ないと話が進まない可能性もある。
「扉の所にマティアスさんが居てくれるなら……」
しょうがない、とメニアは溜息を吐くと座っていた椅子から腰を上げてマティアスを伴いながら食堂を後にした。
55
お気に入りに追加
3,380
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
【完結】可愛くない女と婚約破棄を告げられた私は、国の守護神に溺愛されて今は幸せです
かのん
恋愛
「お前、可愛くないんだよ」そう婚約者から言われたエラは、人の大勢いる舞踏会にて婚約破棄を告げられる。そんな時、助けに入ってくれたのは、国の守護神と呼ばれるルイス・トーランドであった。
これは、可愛くないと呼ばれたエラが、溺愛される物語。
全12話 完結となります。毎日更新していきますので、お時間があれば読んでいただけると嬉しいです。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
婚約者様にお子様ができてから、私は……
希猫 ゆうみ
恋愛
アスガルド王国の姫君のダンス教師である私には婚約者がいる。
王室騎士団に所属する伯爵令息ヴィクターだ。しかしある日、突然、ヴィクターは子持ちになった。
神官と女奴隷の間に生まれた〝罪の子〟である私が姫君の教師に抜擢されたのは奇跡であり、貴族に求婚されたのはあり得ない程の幸運だった。
だから、我儘は言えない……
結婚し、養母となることを受け入れるべき……
自分にそう言い聞かせた時、代わりに怒ってくれる人がいた。
姫君の語学教師である伯爵令嬢スカーレイだった。
「勝手です。この子の、女としての幸せはどうなるのです?」
〝罪の子〟の象徴である深紅の瞳。
〝罪の子〟を片時も忘れさせない〝ルビー〟という名前。
冷遇される私をスカーレイは〝スノウ〟と呼び、いつも庇護してくれた。
私は子持ちの婚約者と結婚し、ダンス教師スノウの人生を生きる。
スカーレイの傍で生きていく人生ならば〝スノウ〟は幸せだった。
併し、これが恐ろしい復讐劇の始まりだった。
そしてアスガルド王国を勝利へと導いた国軍から若き中尉ジェイドが送り込まれる。
ジェイドが〝スノウ〟と出会ったその時、全ての歯車が狂い始め───……
(※R15の残酷描写を含む回には話数の後に「※」を付けます。タグにも適用しました。苦手な方は自衛の程よろしくお願いいたします)
(※『王女様、それは酷すぎませんか?』関連作ですが、時系列と国が異なる為それぞれ単品としてお読み頂けます)
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
断罪された商才令嬢は隣国を満喫中
水空 葵
ファンタジー
伯爵令嬢で王国一の商会の長でもあるルシアナ・アストライアはある日のパーティーで王太子の婚約者──聖女候補を虐めたという冤罪で国外追放を言い渡されてしまう。
そんな王太子と聖女候補はルシアナが絶望感する様子を楽しみにしている様子。
けれども、今いるグレール王国には未来が無いと考えていたルシアナは追放を喜んだ。
「国外追放になって悔しいか?」
「いいえ、感謝していますわ。国外追放に処してくださってありがとうございます!」
悔しがる王太子達とは違って、ルシアナは隣国での商人生活に期待を膨らませていて、隣国を拠点に人々の役に立つ魔道具を作って広めることを決意する。
その一方で、彼女が去った後の王国は破滅へと向かっていて……。
断罪された令嬢が皆から愛され、幸せになるお話。
※他サイトでも連載中です。
毎日18時頃の更新を予定しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる