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翌朝。
意外にも、熟睡してしまったメニアはぱちり、と瞳を開くと慌ててベッドに体を起こした。

「──随分寝てしまったわ……!」

慌ててベッドから降りて身支度をし、着替える。
子爵邸に居た使用人達は今はここに居ない。
その為、メニアは自分で簡単に着替える事が出来る簡素なデイドレスを身に纏い、髪の毛をどうしよう、と悩んでいる時に部屋の扉がノックされた。

「……?はい」

こんな朝早くに誰だろうか、と疑問に思いながらメニアが扉へと返事をするとガチャリ、と扉が開きロザンナの娘であるカーナとユリナが顔を覗かせた。

「メニアさん、もう起きてるのね?」
「昨夜はぐっすり眠れた?」

にこにこと楽しそうに笑顔でそう聞いてくる二人に、メニアも自然と笑顔になるとこくり、と頷く。

「はい。ゆっくり休ませて貰いました。お二人はどうしたんですか?」

鏡台の前から立ち上がり、二人の元へ行こうとしたメニアにカーナは「入っても大丈夫です?」とメニアに話し掛ける。
メニアは「勿論!」と答えると、カーナとユリナは嬉しそうにメニアの部屋へと入室し、メニアに近付いて来る。

「昨夜、メニアさんが魔法を込めた魔石を子爵邸に届けに行く前に、お話したくって」
「ここに来てから、夜にでもお話出来たら、と考えていたんですが、ほら……昨夜はネウス様がメニアさんの部屋に残ってしまったでしょう?」
「──あー……。すみません……」

メニアさんが謝る事ないですよ、とユリナが笑うと、鏡台の前に再度メニアを誘導して座らせると、「髪の毛を私が結ってもいいですか?」とメニアに聞いて来る。

「ユリナさんがやって下さるんですか?私、自分では上手く出来なくて……。結って頂けるの嬉しいです」
「任せて下さい。カーナの髪の毛も私がやる事が多いので慣れてるんです」

メニアと、カーナとユリナは穏やかに世間話をしながら支度を進める。
メニアは、セリウスやシャロン以外にこうして仲良く話す相手が居なかったので友人のように会話が出来る事が嬉しくて。
カーナとユリナも、自分達と見た目年齢が近い人間の少女と話をするのを楽しみにしていた、と語った。

「夜会が終わったら、この国の街を案内してくれませんか?」
「私達、お父様が亡くなってしまってからは魔の者の国に直ぐ移動してしまったので、この国に来るのは久しぶりなんです」
「だから、お友達と一緒に街中を散策してみたいな、と思って」

カーナとユリナに、キラキラと期待の籠った瞳で見詰められ、メニアも嬉しく感じて力強く頷いた。

「私で宜しければ、勿論!お祭りは終わってしまったけど、カフェ巡りや、お買い物等を沢山しましょう!」

三人は夜会が終わったら一緒に街中に出て散策しよう、と約束をするとメニアの髪の毛の結い上げが終わったユリナがメニアの手を引いて皆が待っている食堂へ向かった。










食堂に到着すると、ロザンナとマティアスが既にテーブルに着いており、二人で何か会話をしていた様子だったがメニア達が食堂に姿を表すとメニア達に朝の挨拶をする。

「あら、メニア。顔色が大分良くなってるわね。ぐっすり眠れた?」
「そんなに顔色悪かったですかね、ロザンナさん……。ちょっと疲れたな、って感じる程度だったんですけど……」
「朝までぐっすりだったんでしょう?大丈夫だ、と思っていても魔力の消費だけでは無く色々な事があったのだもの。体が疲れ切ってたのよ、きっと。今日、午前中に娘達に魔石を届けさせるから、メニアはその間に夜会の支度をしちゃいましょう」

メニア達が席に着くと朝食が運ばれ始めてロザンナがテキパキと今日の事を話し始める。
慣れたように会話を続けるロザンナに、メニアは不思議そうに周囲を見回す。

この邸の主人であるネウスがまだやって来ていないが、主人が姿を表す前に朝食に手を付けてもいいのだろうか、とメニアが躊躇っている内にもう慣れた事なのか、ロザンナを始め、マティアスやカーナ、ユリナも黙々と朝食を食べる手を進めている。

「──あの、……」
「ん、?……ああ、ネウス様?ネウス様はいいのよ。あと小一時間くらいしたら起きて来るんじゃないかしら?」

メニアの言葉に、ロザンナは食べる手を止めるとあっさりとそう返答する。

これが、普段の光景なのか、とメニアは納得すると自分もゆっくりと用意された朝食に手を付けた。




「じゃあ、行ってきますね。何かあったら直ぐにこの邸に戻ってきます」
「メニアさん、ネウス様寝起きが悪いけど、頑張って対応して下さいね」
「あっ、お二人とも、ありがとうございます!宜しくお願いします!」

カーナとユリナ二人は朝食を終えるとそのまま席を立ち上がり、メニアに手を振って食堂を出て行く。
メニアも二人に向かって感謝を告げると、再度そのまま椅子へと腰を下ろした。

先程、ユリナからネウスの寝起き云々と言う言葉が出てきたが、何故メニアは自分が対応頑張れ、と言われなくてはいけないのか、と不思議そうに首を傾げる。
確かに未だ、ネウスは食堂に姿を現す事は無いがロザンナが言っていたように時間が経てばネウスもこの場に姿を現すのだろう。

「ロザンナさん、ネウスさんが来るまでサロンか何かに移動しますか?夜会の事を話さなくてはいけないですし……」

メニアがロザンナにそう話し掛けると、ロザンナはグラスに注がれている飲み物を一口喉の奥に流し込むと、唇を開いた。

「──そうねぇ……。私達で先に話し始めてもいいんだけど……。自分だけ除け者にされて拗ねる可能性があるから、メニアがネウス様を起こして来てくれないかしら?」
「えっ、ええ?寝ている男性が居る部屋に、流石に入れません……!マティアスさんが起こしに行って差し上げたらどうでしょう?」
「え、ええ!?俺です?いや、ネウス様の寝室に男は入れないんで……扉を開けて、外から見てますからメニアさんが起こしてあげて下さい」

ぶんぶんと全力で拒否をするマティアスに、メニアは困ったように眉を下げるが、ネウスが来ないと話が進まない可能性もある。

「扉の所にマティアスさんが居てくれるなら……」

しょうがない、とメニアは溜息を吐くと座っていた椅子から腰を上げてマティアスを伴いながら食堂を後にした。
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