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しおりを挟む「それでは、お父様お母様、行って参りますね!」
「メニア嬢をしっかりとお守り致しますのでご安心下さいね」
メニアの言葉の後に、ロザンナが安心させるように父親と母親に笑顔でそう告げると、短い間ではあるがすっかりロザンナを信用しきったメニアの両親は笑顔で「お願い致します」とメニア達を送り出した。
馬車へと戻る道すがら、ネウスとマティアスはロザンナの言葉巧みな説得に舌を巻く。
「……自分の母親ながら、圧巻ですね」
「ああ……。信用の魔法なんて使ってねえはずなのに何故かロザンナの言葉は信じ込んじまう。不思議な力でも宿ってんのか……?」
ボソボソと二人で会話をしているようだが、ネウスとマティアスの会話はしっかりとロザンナの耳に届いている。
メニアが苦笑しながらロザンナに視線を向けると、ロザンナは二人を睨むように唇を尖らせていた。
ネウスとマティアスは馬車の側に繋いだ馬に、メニア達はそのまま馬車に乗り込むと子爵邸を後にした。
その様子を見詰めていたメニアの両親達──メニアの母親は、ネウスの姿を見て「あの時の男性だったのね?」と自分の夫に話し掛けてた。
「あの時の男性──?」
「ほら、リュドミラ卿のお茶会にメニアが招待された時に具合の悪くなってしまった男性をメニアが送って行ったでしょう?その時の男性がフォール卿だったのよ。まさか近衛騎士の方とは思わなかったわ。不思議な縁ねぇ」
おっとりと微笑みを浮かべてそう話す自分の妻に、そうだったのか。と父親はもう一度メニア達が去って行った方向へと視線を向けた。
馬車に乗る事暫し。
ネウスの持つ邸へと無事到着したメニア達はメニアの荷物を馬車から取り出しそれぞれが抱えると邸へと入って行く。
「──そう言えばメニアはこの邸に来るのは初めてだな。ここには維持の為に何人か使用人を使っているから何か必要な物があればそいつらに伝えろ」
ネウスがひょい、と首を動かすと足音も無く影からすうっと複数の人影がメニアの視界に姿を現す。
ネウスの言葉に、使用人達は丁寧に頭を下げるとメニアに挨拶を行った。
「必要最低限しか人はいねえが、だからこそ外部からの接触も発生しねえし、夜会の当日はここから会場に向かえばいい」
「──分かりました」
メニアの頭には一瞬だけ、セリウスから当日のエスコート等について知らせが来るだろうか、と頭に過ぎったが連絡が来たら来たでその時に対応すれば良いか、と考え直す。
「一先ず荷物はメニアの部屋に運んでおく。後でメニアの部屋に案内するから夜会の話をするぞ」
ネウスがそう告げると同時、メニアの手のひらをネウスは自分の手で包むとそのままサロンへと向かって行った。
サロンへと到着し、各々がソファに腰掛けると当人達の前にお茶が用意される。
それぞれお茶を一口飲み、喉を潤すと誰ともともなくふう、と小さく息を吐いた。
ネウスは周りにゆったりと視線を巡らせてからメニアに視線を定めると唇を開いた。
「──メニア」
「はい、」
常よりも真面目なトーンのネウスの声に、メニアもぴしっと背筋を伸ばすとネウスに視線を向けた。
「……あー……、さっき子爵邸で話した事何だが……」
「先程の……?──あっ。辛い事が起きる、と言っていた事、ですね?」
思い当たる事があったのか、メニアはそう答えるとネウスの話を聞く体勢に入る。
「ああ。あの日、婚約者の男とメニアが保管庫に入った日だな。そこであの男から聞き出した話がある。……今度の夜会で、何かしらの騒ぎを起こす予定で、メニアの事を"偽りの聖女"と嘯いて周囲に悪印象を抱かせるつもりだ」
「──え……っ、?」
何故そんな事を、とメニアが疑問を口にする。
確かにメニアの疑問は尤もな事で、何故今更そのような事をするのか、意図が掴めない。
「セリウス様は、私の聖女としての権利を悪用しようとしているのですよね……?それなのに何故今……」
「何故夜会の時にそれをやろうとするのかは分からねえが、あの時既に必要な情報を全て得たのか……、それとも夜会までの日に何か追加でメニアの権利を利用しようとしているのかは分からねえ」
「──だから、いっその事メニアを保護しちゃいましょ、ってなったのよ」
ネウスの言葉に続けるようにロザンナが唇を開き、メニアは「なるほど」と呟く。
「教えて頂きありがとうございます、ネウスさん。ロザンナさん。事前に教えて下さったから、心の準備が出来ます」
「ああ。もし、この国の人間から何を言われようが気にすんな。婚約者の男の口車に乗って、メニアを貶す奴なんか視界に入れんな。この国の上層部はしっかりとメニアの力を知ってるんだからな」
気遣うようにメニアの瞳を覗き込むようにしてそう話すネウスに、メニアは微笑む。
例え、この国の大勢の人達から貶されようと、後ろ指を指されようと気持ちを強く持っておこう、とメニアは考える。
自分を信じてくれるネウス達やこの国の上層部の人、大切にしてくれる家族が居るならば乗り越えられるだろう。
「分かりました。ネウスさん達や家族が信じてくれるのであれば、私はそれが一番心強いですから」
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