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しおりを挟む「──ロザンナ。メニアは魔力の総量が少ない。そんなに複数の魔石に魔法を発動する事は出来ねえぞ」
メニアとロザンナの会話を黙って聞いていたネウスが、メニアの身を案じて口を挟む。
メニアには元々十近くの魔石に魔法を発動してもらうつもりだったのだ。
それに加えて、解呪の魔法の発動を行わせて、更に追加で魔石に魔法を発動させる。
魔力を大量消費してしまえば、メニアの体調は悪くなる。
メニアの体調を心配してネウスは口を挟んだが、ロザンナに一蹴されてしまう。
「身を切らねばならない時もあります。安全性を求めて、死ぬ気にもならずに無難な結果だけを求めていれれば楽ですが、今回の件はメニアにも身を切って貰わねばいけません。聖属性魔法を発動出来るのはメニアだけなのですから、メニアの家族も守ると言うのであれば多少の無茶や、自身の犠牲も伴わなければいけませんよ」
「それ、は……そうだが……」
ロザンナの尤もな意見に、ネウスはぐぅっ、と押し黙る。
「ネウスさん、私は大丈夫です!毎日練習して、魔力制御も以前より出来るようになりましたし、意識を失う程魔力を消費はしませんし、なにより……家族に掛けられた魔法を解呪したいですから」
「……っ、分かった──。けど、メニアが魔石に魔法を発動する時は俺達も同席するぞ。魔力が枯渇しそうになる手前に止めるからな?」
心配そうな表情を浮かべてそう言い募るネウスに、メニアはついつい苦笑してしまう。
家族以外に、こんなにも自分自身の身を心配してくれる人が居なかったメニアはネウスやマティアスから心配される事が嬉しいと感じるのと同時に何だか擽ったい。
メニアがこくり、と頷いたのを確認するとネウスは長い溜息を吐いてからぴくり、と片眉を跳ねさせるとその場に立ち上がりメニアの後方に回った。
「──ネウスさん?」
「もうすぐメニアの父親が戻って来る。"聖女様"の護衛騎士が隣でぼさっと座ってる訳には行かねえだろ」
ネウスの行動にメニアが話し掛けると、ネウスが淡々とそう言葉を返す。
ネウスの言葉に、マティアスも慌てたようにロザンナの隣から立ち上がるとメニアの後方に控えた。
「──いいか、メニア。詳細は戻ってから話すが、メニアに取っては身体的にも、精神的にもキツい事がこの先起きると思う。だが、"それ"は一時の極僅かな時間で、辛い時は家族や俺達を頼ればいいから」
「辛い、事が……。──分かりました。その時は家族やネウスさん達に遠慮なく頼らせて頂きますね!」
メニアがそう言葉を返すと、応接室の扉が開きメニアの父親が戻って来た。
メニアの父親が戻って来てからは、ロザンナがトントン拍子に話を進め、メニアの保護の期間や、自分の娘達が定期的に子爵邸に報告に上がる、と言う事を説明し、メニアを今日すぐにでも保護の為に邸から連れ出す事について許可を得る。
使用人達にメニアの必要最低限の荷物を用意して貰っている間、メニアは甥と姪、そして親族達に挨拶をして来ると言ってネウスを伴い応接室を離れている。
二人に着いて行く形でメニアの父親も席を外しているので、応接室にはロザンナとマティアス、そして娘のカーナとユリナの四人だけになっている。
先程までのネウスの態度を見て、ロザンナは自分の隣にいるマティアスに向けてぽつりと言葉を零した。
「──随分とメニアにご執心ね?」
「……やっぱり、母さんもそう思います?」
「当たり前じゃない。ネウス様がミリアベルから貰った耳飾りの魔道具を人間に使用したのよ?それに、昨夜のネウス様の態度、今日ここに来てからメニアを見るネウス様の視線でハッキリと分かるわよ」
「あー……。そうですよね、そうなんですよね……」
マティアスの煮え切らない態度に、ロザンナは片眉を上げると訝しげに言葉を続ける。
「なあに?何か問題でもあるの?」
「──いや、ネウス様も、メニアさんも多分無自覚ですし……。メニアさんに至ってはネウス様は自分の事をぬいぐるみか何かのように可愛がっている、と思っているみたいで……」
「──は?無自覚と鈍感とでも言うの?」
だが、ネウスの猫っ可愛がり方は傍から見ていてもあからさまだ。
ネウスからそのような態度を受け続けていて、気付かない方がおかしい。
「……じゃあ……、自覚したくない、とでも考えているのかしらね……」
「へ?ネウス様がですか?」
「違うわよ、馬鹿」
マティアスの見当違いの言葉に、ロザンナは冷たくきっぱりと言い放つとショックを受けているマティアスを放置して、ロザンナは頭を抱えた。
──厄介な事が更に一つ増えてしまった。
「──いえ、今はそれ所じゃないわよね……。メニア達が戻ったら取り敢えずネウス様の邸に戻って夜会の事を話し合いましょう……」
やらなければならない事は沢山あるのだ。
同時進行で様々な事を捌いて行かなければならない。
ネウスとメニア二人の関係性は一先ず置いておき、メニアには夜会の日にセリウスが恐らくメニアに対して広域治癒魔法の使い手では無い事、偽の聖女として聖女の権利を悪用しようとした、と難癖を付けてくる筈である。
そうして、裏切り者の魔の者。
「──早く魔の者達を捕縛して、ネウス様に処理をして頂かないとね」
ロザンナは、瞳を細めて睨むように応接室の扉をひたり、と見詰めた。
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