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しおりを挟む「セリウス様、どうしてこちらに?」
「どうして、だって……?メニアと話す時間もなく離れてしまったからメニアを探していたんだよ」
にこやかに、嬉しそうに話しメニアに近付いて来るセリウスから無意識にメニアは一歩後ずさってしまう。
メニアのその行動に、セリウスは片眉をぴくり、と上げて直ぐに反応するとにこやかな笑顔を浮かべたままメニアの態度になど気付いていない、といった様子で更に足を踏み出し近付いてくる。
「──先ずは、聖女に任命された事、おめでとう。あの日、メニアが必死にこの国の国民達を助け、治療した事が国王陛下に認められたんだね。そんな素晴らしい精神を持ったメニアが俺の婚約者だなんて、とても誇らしいし自分の事のように嬉しいよ」
「ありがとうございます。ですが、あの日は私に出来る最低限の事をしたまでです。その結果が良く出過ぎただけ……セリウス様にそのように喜んで頂けるような事ではありません」
「メニアは昔から謙虚だね。謙虚な心はとても美しいし、誇れる事だけれど、もう少し自分に自信を持って欲しいな?メニアはとっても素晴らしい功績を残して聖女に任命されたのだから」
変わらず足を止めずに近付き続けるセリウスに、メニアの隣に居たマティアスが堪らずにメニアとセリウスの間に体を割り込ませると、そこで初めてマティアスの存在に気が付いたかのようにセリウスがピタリ、と足を止めてマティアスに胡乱な目を向ける。
「……近衛騎士?何故俺とメニアの間に入ってくるんですか?」
セリウスが苛立ちを滲ませた声音でマティアスにそう話し掛けると、マティアスは真っ直ぐにセリウスに視線を向けて唇を開く。
「ラド・メランド卿からハピュナー嬢をご両親の元へ送り届けるよう仰せつかったのです」
「……俺はメニアの婚約者ですが?婚約者同士、積もる話しもあるのだから少しだけ席を外してくれません?」
セリウスの言葉に、マティアスはちらり、とメニアに視線を向ける仕草をセリウスに見せる。
マティアスの視線を受けて、メニアは小さく首を横に振るとセリウスに向き直ってきっぱりと言い放つ。
「ハピュナー嬢は早くご両親の元へと向かいたいご様子です。この国の宰相直々のご命令に背く訳にはいきません」
「──……ちっ」
毅然とした態度でそう言い放つマティアスに、セリウスは小さく舌打ちをすると、先程までメニアに向けていた優しげな視線をすっかりと引っ込めると忌々しそうにマティアスを睨み付ける。
「たかが護衛風情が……」
ぼそり、と低く唸るような声音でセリウスはメニアに聞こえないように吐き捨てると、今度はメニアに向かって微笑み掛けると唇を開く。
「メニア。今日の夜に改めてそちらの家にお邪魔するよ。その時に話そう」
「──えっ、ちょ……っセリウス様……っ」
メニアが慌てたようにセリウスに声を掛けるが、セリウスはメニアの呼び止める声に笑顔で手を振るとそのまま踵を返し、謁見の間の方向へと歩いて行ってしまった。
セリウスの姿が見えなくなってから、メニアは小さく「どうしよう」と呟くと、メニアの前にいたマティアスが真剣な表情でメニアに振り向いた。
「メニアさん……。先程の、メニアさんの婚約者ですが……。魅力と信用の魔法を俺とメニアさんに常時発動してました……。幸い、メニアさんに精神干渉を弾く魔法を掛けて貰っていたので大事なかったですが、こんな王城で堂々と精神干渉の魔法を使用するあの男は、本当に危険です……」
夜に、再度セリウスがハピュナー子爵邸にやってきてしまう。
その前に、両親にも早めに精神干渉を弾く魔法を掛けなければ、と考えたメニアとマティアスは急ぎ、メニアの両親が待っていると言う控えの間に戻って来た。
「何とかお父様とお母様に魔法を掛けてしまって、セリウス様の訪問を断る方向に話を持っていかないとですね」
「ええ。それが一番安全かもしれません。我々魔の者のように元々魔力が多い者だったら、ある程度相手の魔法に対する耐性を持つ事も可能ですが、今回は人間ですもんね……」
「今回は、って……。やはり、魔の者のお二方に比べて、人間で精神干渉に耐えうる人間が果たして居るのか、ですよね……」
ネウス達以外の魔の者が、セリウスに手を貸していて、魅了と信用の魔法を授けたのであれば、人間に魔の者の魔法である魅了を弾く力はないと言う事か、とメニアは納得する。
それならば、やはり早急に解呪の魔法を何がなんでも取得しなければ、とメニアが考えていると、いつの間にか両親が待つ「控えの間」に到着していたらしく、メニアとマティアスは一度頷きあってから扉をノックした。
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