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しおりを挟むネウスと共に馬車止めまでやってきたメニアは、馬車の扉を開けて自分に手を差し出して待っているネウスにお礼を告げると、ネウスの手を借りてそのまま馬車に乗り込む。
メニアの後から馬車に乗り込んだネウスが、扉を閉めたのを確認すると馬車の御者がゆっくりと走らせ始めた。
馬車の窓のカーテンをメニアはちらり、と上げると自分達の後を誰も追って来ていない事を確認して、安堵の溜息を付くとそのまま座席の背もたれに自分の体を預けた。
そして、自分の目の前に居るネウスに視線を向けると唇を開く。
「ネウス様の姿を見た時、本当に驚きました……まさかお茶会に参加されているとは思わなくって……」
「──ああ、ここ数日メニアの様子を伺っていた。それで今日、このお茶会に参加すると知って様子見に、な……」
「え……っ。数日間、私の側にいらっしゃったのですか……!?」
「ああ。流石に自室には入ってねえぞ?学院での生活や、家族との会話を姿を消して聞いてただけだ」
「そ、それでも充分恥ずかしいですよ……最初に一言仰って頂ければいいのに……」
気付かぬ内に、普段の生活の様子をネウスに見られていたのか、と考えメニアは不貞腐れたように唇を尖らせる。
そんなメニアの様子を見て、ネウスは可笑しそうに笑うと自分の懐に手を入れて何かを取り出した。
「メニアは隠し事が苦手そうだからな。変な態度になって婚約者を刺激するのは不味いと思ったんだよ」
「──う……。確かに、顔に出てしまいそうですけど……」
メニアの言葉に、ネウスも「だろ?」と得意気に笑うと懐から取り出した物をメニアに見えやすいように自分の手のひらの上に広げた。
ネウスの手のひらの上にころん、と透き通るような真っ青な宝石が着いたカフスボタンが現れ、メニアは不思議そうにそのカフスボタンを見詰めると、ネウスに視線で問う。
「これは、メニアの婚約者の男が自身の服の袖に付けていたカフスボタンだ。効果は薄いが、これに魔法が込められている」
ネウスは自分の手のひらの上でカフスボタンをコロコロと転がすと、そのカフスボタンを自分の指先で摘み、バキン、と割砕いた。
「この青いのは魔石だな。俺達の、……魔の者の国で取れる魔石で、魔力の吸収が良く魔法が掛かりやすい。案の定、魅了と信用が掛かっている」
「これ、をセリウス様が付けていたのですか……?」
メニアは信じられない、と言うような心地で唖然と言葉を口にする。
魔法が掛かった装飾品、このカフスボタンは魔道具と言う物だろう。
メニアの言葉に、ネウスは無言で頷いた後に面倒くさそうな表情を隠しもせずに眉を寄せて唇を開く。
「ああ。……だが、このカフスボタンは量産されている。うちの国の土地ではこの魔石は大量に採れるし、魅了と信用の魔法は難しい物ではないから大量生産されているだろう。……現に、今日メニアの婚約者と、尻軽女と会った時に魅了と信用の魔法の気配を感じた」
「セリウス様と……シャロン様、ですか……?」
「ああ。多分そいつらだ。一々人間の名前は覚えてねえが、その二人だな。……で、その二人からこのカフスボタンに込められている魔法の気配を感じたから、その婚約者と尻軽はまだまだこの魔道具を所有している可能性がある。メニアはもうこの魔法への耐性が出来ているが、メニアの両親や、あいつらの周囲への影響を全部取り除くのは難しいだろう……」
全部を取り除くのは難しい、と言うネウスの言葉にメニアは悲しそうに眉根を下げる。
「……お父様とお母様に掛けられているものを解呪するのは難しい、と言う事ですか……?」
悲しそうにぐっ、と唇を噛み締め、俯くメニアの姿にネウスは何とも言えない表情を浮かべると、「取得出来るかわかんねぇが、」と言葉を濁しつつメニアに向かって声を掛ける。
「──昔、ミリアベルが自分の旦那に貰った聖属性魔法の魔法構築が記されている禁書を、今は俺が保管している。それを確認し、聖属性魔法の解呪を覚えればメニアはもしかしたら自力で解呪の魔法を発動出来るかもしれねぇな?」
「え……!ミリアベル様が持っていた禁書をネウス様が持たれているんですか……!?」
ネウスの口からさらりと発言された内容に、メニアはぎょっとして瞳を見開く。
ミリアベルの夫と言えば、ノルト・スティシアーノだ。
確か王立魔道士団の団長を長年勤め上げた偉人だと記憶している。
自身が退団する際には、自身の息子に魔道士団の団長の座を譲り渡して晩年は妻のミリアベルと共に自身の領地の僻地で穏やかに暮らしたと伝わっているが、何故魔道士団の団長が聖属性魔法の禁書などを持っていたのか。
そして、それが何故国に返されずにネウスの手元にあるのか。
先程からネウスの口から語られる言葉達に、メニアは自身の頭がパンクしそうになってしまう。
「──まあ……。当時の国王ともノルトは親しくしていたしな……目を瞑られていたんだろ……その後、俺の手に渡ったがミリアベルとノルトが居ない状況で俺に盾突くような馬鹿はいなかったからな。そのまま有耶無耶になって俺がどっかに保管してる」
「禁書……国の禁書が……」
そんな杜撰な管理でいいのだろうか。
メニアががっくりと肩を落として脱力していると、ネウスは誤魔化すように笑った。
「まあ、いいじゃねーか。結果オーライってやつだろ?」
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