上 下
21 / 155

21

しおりを挟む

──聖女、と呼ばれたのだろうか。

メニアが驚きに目を見開き、小さく「え?」と言葉を零し、その声が聞こえて来た方向に視線を向けると。
メニアが治癒したこの国の人達がメニアをキラキラとした瞳で見詰め、口々に「聖女様」と声を上げて居る。

「──貴女は、もしやこの国の聖女様なのでは!?」
「聖女様が治癒して下さったお陰で、綺麗に怪我が治りました……!」
「ありがとうございます、聖女様……!痛みも何も残っていません……!」

皆の口から、メニアを聖女と呼ぶ声と、感謝の言葉が止まない。

「ち、違います……!私は聖女様なんて大それた存在では……!」

メニアが真っ青になって彼らの言葉を否定していると、メニアの近くに来ていたセリウスがメニアを落ち着かせるように肩に手を置いた。

「──いいじゃないか、メニア。彼らはメニアの治癒魔法に感謝しているんだ。この国の聖女が助けてくれたと思っているんだから、否定したら可哀想だよ?」
「そうよ、メニア。きっと彼らも恐怖や痛みで絶望を味わったのよ……そこに、メニアの治癒魔法を受けてとても感謝しているのよ」
「──ですが、この国の聖女様達は他の方で、きちんと聖女様が居られます……!私何かがその称号で呼ばれてしまうのはいけません……、間違いは正さねば……っ」

セリウスとシャロンの言葉に、メニアはそう言葉を返すと急いで怪我人達の元へ向かい、自分は聖女では無く、その場に居合わせたただの光属性の使用者だ、と律儀に説明をして回っている。
だが、メニアが自分達の元へ近付き話している姿をやはり怪我人達はキラキラと尊敬と憧れの感情を乗せて見つめるだけで、説得は上手く行っているようには見えない。



その様子を少し離れた場所からセリウスとシャロンは和やかに見詰めながら、ぽつりぽつりと会話する。

「──どうせ、すぐにこの国の聖女として認められるんだ」
「ええ。今この場で必死に否定しても、ねぇ?」

セリウスとシャロンはにこやかな笑顔を浮かべながら、暫くメニアを見詰め続けた。
二人の瞳には、妖しい光が宿っていたが、その事に気付く人間はここには誰一人として居なかった。







「メニア・ハピュナー子爵令嬢。貴女はハピュナー子爵家のご令嬢で間違い無かったかな?」
「え、は、はい。そうですが」

メニアが怪我人達へ聖女では無い、と説明を始めて暫く。
漸く噴水広場のざわめきも落ち着いて来た頃に、魔道士団の部隊長が同じ魔道士団の隊員に声を掛けられ一言二言、言葉を交わした後にメニアに向き直り話し掛けて来た。

子爵家の者か、と聞かれたのでメニアはその質問に肯定すると部隊長と思わしき人間は騎士の礼を取りメニアに一礼する。

「我々、王立魔道士団の団長であるハーランド・リュドミラが貴女に感謝を伝えたい、との事だ。改めて後日、場を設ける為是非招待されて欲しいと言伝を預かっている」
「リュドミラ卿がですか……!?」

王立魔道士団は、この国で魔法騎士団よりも力を持った人間達が所属する事が出来るエリート魔道士達の集まりだ。
そのエリート中のエリート、現団長はリュドミラ侯爵家の当主で、三属性の魔法適性がありそしてその三属性全ての同時展開が可能である。
現在、この国で三属性の同時展開が可能なのは、この王立魔道士団の団長とこの国の国王陛下だけである。

それ程の力を持った人間から招待を受け、メニアは瞳が零れ落ちてしまうのではないか、と言う程驚きに瞳を見開いた。

「ああ、それと……」

メニアが驚いている内に、魔道士団の部隊長はセリウスとシャロンに視線を向けると二人に向かっても同じように唇を開いた。

「そちらの、セリウス・レブナワンド卿とシャロン・タナヒル侯爵令嬢も団長が是非お礼を言いたい、と。突然王都に出現した魔獣に、混乱する者も多い中、良く国民を守る為に戦ってくれた、とお礼を言いたいそうだ。こじんまりとしたお茶会を開くから是非来て欲しいと言っている」

そこまで話すと、部隊長は後日正式に招待状を各家々に届けるからな、と言い残し部隊長はメニア達に背中を向けて帰って行ってしまった。

その去って行く後ろ姿をぼうっと見詰めながら、メニアは「何でこんな事に」と呟いた。






それから、せっかくの一年に一度しかない創星祭ではあるが、王都内に突然魔獣が出現した事もあり、街は騒然として外を出歩く人達も疎らになってしまった。
魔法騎士団や魔道士団が街中の見回りの為に多くの人員を配置されていたが、その後再び魔獣が出現する事は無かった。

メニアとセリウス、シャロンの三人は流石に疲れきってしまい、祭所では無くなってしまったのであれから噴水広場で多少ゆっくりと話した後に帰宅する事にした。

魔力切れを起こしてしまったシャロンを、セリウスが送って行く事になり、メニアは一人で子爵家の馬車を待つ事にした。



「セリウス様は馬車が来るまで居て下さる、と言っていたけど……この噴水広場なら騎士団の方達が大勢居るから何も問題無いものね……」

メニアは、戦闘の後が生々しく残る噴水広場に視線を巡らせると、ふう、と溜息を零す。

先程からチラチラ、とメニアに視線を向けて来る人達も多い。
メニアが先程、この場所で何をしたか目撃した者達だろうか。
周囲に騎士団の面々が居る為、不躾に近付いて来る者達は居ないが、中には貴族風な者達もチラホラと見受けられる。

「──何だか、嫌な視線ね……」

メニアはぽつりと呟く。
独り言のつもりで呟いたのだ。誰かに話し掛けるつもりも無いし、誰かから言葉が返って来る事も無いと思い、無意識に本心が唇から漏れ出てしまった。
それなのに、メニアの言葉に面白そうにくつくつと笑う声がすぐ側から聞こえた。



「あんたみたいな力を持った女が一人で居るなんて、随分と危機感が無ぇな?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

処理中です...