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しおりを挟む──聖女、と呼ばれたのだろうか。
メニアが驚きに目を見開き、小さく「え?」と言葉を零し、その声が聞こえて来た方向に視線を向けると。
メニアが治癒したこの国の人達がメニアをキラキラとした瞳で見詰め、口々に「聖女様」と声を上げて居る。
「──貴女は、もしやこの国の聖女様なのでは!?」
「聖女様が治癒して下さったお陰で、綺麗に怪我が治りました……!」
「ありがとうございます、聖女様……!痛みも何も残っていません……!」
皆の口から、メニアを聖女と呼ぶ声と、感謝の言葉が止まない。
「ち、違います……!私は聖女様なんて大それた存在では……!」
メニアが真っ青になって彼らの言葉を否定していると、メニアの近くに来ていたセリウスがメニアを落ち着かせるように肩に手を置いた。
「──いいじゃないか、メニア。彼らはメニアの治癒魔法に感謝しているんだ。この国の聖女が助けてくれたと思っているんだから、否定したら可哀想だよ?」
「そうよ、メニア。きっと彼らも恐怖や痛みで絶望を味わったのよ……そこに、メニアの治癒魔法を受けてとても感謝しているのよ」
「──ですが、この国の聖女様達は他の方で、きちんと聖女様が居られます……!私何かがその称号で呼ばれてしまうのはいけません……、間違いは正さねば……っ」
セリウスとシャロンの言葉に、メニアはそう言葉を返すと急いで怪我人達の元へ向かい、自分は聖女では無く、その場に居合わせたただの光属性の使用者だ、と律儀に説明をして回っている。
だが、メニアが自分達の元へ近付き話している姿をやはり怪我人達はキラキラと尊敬と憧れの感情を乗せて見つめるだけで、説得は上手く行っているようには見えない。
その様子を少し離れた場所からセリウスとシャロンは和やかに見詰めながら、ぽつりぽつりと会話する。
「──どうせ、すぐにこの国の聖女として認められるんだ」
「ええ。今この場で必死に否定しても、ねぇ?」
セリウスとシャロンはにこやかな笑顔を浮かべながら、暫くメニアを見詰め続けた。
二人の瞳には、妖しい光が宿っていたが、その事に気付く人間はここには誰一人として居なかった。
「メニア・ハピュナー子爵令嬢。貴女はハピュナー子爵家のご令嬢で間違い無かったかな?」
「え、は、はい。そうですが」
メニアが怪我人達へ聖女では無い、と説明を始めて暫く。
漸く噴水広場のざわめきも落ち着いて来た頃に、魔道士団の部隊長が同じ魔道士団の隊員に声を掛けられ一言二言、言葉を交わした後にメニアに向き直り話し掛けて来た。
子爵家の者か、と聞かれたのでメニアはその質問に肯定すると部隊長と思わしき人間は騎士の礼を取りメニアに一礼する。
「我々、王立魔道士団の団長であるハーランド・リュドミラが貴女に感謝を伝えたい、との事だ。改めて後日、場を設ける為是非招待されて欲しいと言伝を預かっている」
「リュドミラ卿がですか……!?」
王立魔道士団は、この国で魔法騎士団よりも力を持った人間達が所属する事が出来るエリート魔道士達の集まりだ。
そのエリート中のエリート、現団長はリュドミラ侯爵家の当主で、三属性の魔法適性がありそしてその三属性全ての同時展開が可能である。
現在、この国で三属性の同時展開が可能なのは、この王立魔道士団の団長とこの国の国王陛下だけである。
それ程の力を持った人間から招待を受け、メニアは瞳が零れ落ちてしまうのではないか、と言う程驚きに瞳を見開いた。
「ああ、それと……」
メニアが驚いている内に、魔道士団の部隊長はセリウスとシャロンに視線を向けると二人に向かっても同じように唇を開いた。
「そちらの、セリウス・レブナワンド卿とシャロン・タナヒル侯爵令嬢も団長が是非お礼を言いたい、と。突然王都に出現した魔獣に、混乱する者も多い中、良く国民を守る為に戦ってくれた、とお礼を言いたいそうだ。こじんまりとしたお茶会を開くから是非来て欲しいと言っている」
そこまで話すと、部隊長は後日正式に招待状を各家々に届けるからな、と言い残し部隊長はメニア達に背中を向けて帰って行ってしまった。
その去って行く後ろ姿をぼうっと見詰めながら、メニアは「何でこんな事に」と呟いた。
それから、せっかくの一年に一度しかない創星祭ではあるが、王都内に突然魔獣が出現した事もあり、街は騒然として外を出歩く人達も疎らになってしまった。
魔法騎士団や魔道士団が街中の見回りの為に多くの人員を配置されていたが、その後再び魔獣が出現する事は無かった。
メニアとセリウス、シャロンの三人は流石に疲れきってしまい、祭所では無くなってしまったのであれから噴水広場で多少ゆっくりと話した後に帰宅する事にした。
魔力切れを起こしてしまったシャロンを、セリウスが送って行く事になり、メニアは一人で子爵家の馬車を待つ事にした。
「セリウス様は馬車が来るまで居て下さる、と言っていたけど……この噴水広場なら騎士団の方達が大勢居るから何も問題無いものね……」
メニアは、戦闘の後が生々しく残る噴水広場に視線を巡らせると、ふう、と溜息を零す。
先程からチラチラ、とメニアに視線を向けて来る人達も多い。
メニアが先程、この場所で何をしたか目撃した者達だろうか。
周囲に騎士団の面々が居る為、不躾に近付いて来る者達は居ないが、中には貴族風な者達もチラホラと見受けられる。
「──何だか、嫌な視線ね……」
メニアはぽつりと呟く。
独り言のつもりで呟いたのだ。誰かに話し掛けるつもりも無いし、誰かから言葉が返って来る事も無いと思い、無意識に本心が唇から漏れ出てしまった。
それなのに、メニアの言葉に面白そうにくつくつと笑う声がすぐ側から聞こえた。
「あんたみたいな力を持った女が一人で居るなんて、随分と危機感が無ぇな?」
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