上 下
17 / 155

17

しおりを挟む

メニアの手を引きながら、セリウスが申し訳無さそうに眉を下げ、メニアに振り向く。

「メニアと俺は婚約しているのに、学院に入ってからはいつもシャロンと一緒だったでしょ?あまり二人きりになる事が出来なくて俺も寂しかったんだよね」
「──セリウス様が……?そうなんですか?初めて聞きました」
「うん、初めて言ったからね。本当はもっとメニアとの時間が欲しいし、二人だけで色々な所に行きたいんだけど、──ごめんね」

メニアの言葉にセリウスはしゅん、と肩を落としてそう告げて来る。

本当に、初耳だ。

確かに学院に入ってからはメニアとセリウス、シャロンの三人で共に過ごす事が普通になっていたし、その事をメニアも疑問には思わなかった。

元々、セリウスのレブナワンド侯爵家とシャロンのタナヒル侯爵家は昔から親交があり、家族ぐるみの仲の良さだったらしい。
セリウスとシャロンは同い年と言う事もあり、幼少期からまるで本当の兄妹のように育ち、共に過ごしていたらしい。

爵位も侯爵家同士、行く行くは幼馴染の二人を婚約させ、結婚させる予定もあったのだろう。

だが、そこでメニアが光属性魔法の使い手だと言う事が公表されて、一番に婚約を申し込んで来たのはセリウスのレブナワンド侯爵家だ。



メニアは、自分が居なければセリウスとシャロンは婚約する予定だったのでは、と申し訳無さから以前セリウスにその事を訪ね、婚約を解消出来ないのか確認した事がある。
だが、セリウスの口からはシャロンはただの幼馴染で、兄妹みたいな物だよ、と説明された。
シャロンに全くそう言った気持ちは無い、とセリウスから話されてメニアはホッしたのだ。
自分の存在が、想い合う者同士を引き裂いたのではなかった、と。

そしてそれは、シャロンも同じ気持ちらしく、以前何かの拍子に二人の婚約の話になって、そうしてシャロンはメニアに向かってセリウスを男として見た事は無い、と笑ってメニアに話した。

だからメニアは、学院に入ってもこうして三人で過ごすのはセリウスとシャロンが家族のような間柄だから、共に過ごす事は普通なのだ、と思っていた。

(けれど、何故私はそんなにあっさりと納得したのかしら……?今思えば、いくら仲が良くても婚約者との時間にわざわざ自分が入り込んで来る……?)

メニアは、自分だったらそんな申し訳ない事はしない。とそう考える。

二人の時間の邪魔をしたくないし、何より身内が婚約者である相手に甘ったるい態度をしているのをそんなに近くで見たく無い。
自分の兄や弟が、自分の友人に対して甘い態度を取る場面を見るのはちょっと気持ち悪くて見たくない。

メニアが考え事をしていると、メニアの様子に気付いたセリウスが握ったメニアの手をぎゅう、と強く握る。
そのセリウスの行動に、メニアはびくり、と体を跳ねさせるとセリウスに視線を向ける。

「メニア、考え事?……今は折角二人で居るんだ。普段あまり二人きりで過ごせないんだから、シャロンと合流するまでは二人で楽しもう?」
「す、すみませんセリウス様……。分かりました、折角の時間ですものね、そうしましょう……っ」

セリウスの言葉に、メニアは申し訳無さそうな表情を浮かべてセリウスの提案に乗る。

違和感しか感じないが、ここで下手にぎこちない態度でセリウスに不信感を抱かせてしまうのもあまり良くない。
まだ、セリウスを好きな「メニア」で居た方がいいだろう。
メニアはそう考え、セリウスを好きだった頃の自分の態度を思い出してそう対応する。

(──……そもそも、セリウス様を好きだった頃を思い出して演じる、と言う事が必要なくらい私の気持ちはセリウス様から既に離れているのに……婚約を解消する事が出来ない現状が悔しい……っ)

「プレゼントしたブローチ、付けてくれたんだね。凄く似合ってるよ、メニア」
「素敵なプレゼントをありがとうございます、セリウス様」

メニアが、セリウスへお礼を伝えるとセリウスは嬉しそうに破顔するとメニアの手を嬉しそうに握ると、「シャロンと合流する前に少し街を見て行こう」と提案して、歩き出した。






セリウスと二人きりで過ごすのはいつぶりだろうか。
それ程までに久しぶりの事で、メニアは若干の気まずさを感じていたが、メニアのその感情に気付いているのか、いないのかセリウスはにこにこと笑顔を浮かべながら、メニアを色々な店に引っ張って行く。

「メニア、あまり外で食べる事は無いだろう?この機会に食べてみようよ」

セリウスはそう楽しげにメニアに声を掛けると、出店に向かって歩いて行く。
出店で食べ物を二人分購入すると、セリウスがそれを手に持ち、笑顔でメニアの元に戻って来る。

「はい、メニア。ブラックホーンの揚げ肉だって。凄い美味しそうだよ」
「ありがとうございます、セリウス様」

手渡される串をメニアは受け取ると、セリウスはそのままメニアの空いている手を再度自分の手のひらで包み込み、手を引きながら歩き出す。

「もう少ししたら、シャロンと合流しなくちゃいけない時間だ……もうちょっとメニアと二人で楽しみたかったんだけどな」
「充分、楽しい時間を過ごせました。シャロン様との待ち合わせ場所に向かいましょうか?」
「──うん。ゆっくり広場に向かおう」

メニアとセリウスは、ゆっくり広場に向かい歩き始めると、串に刺さった揚げ肉を食べながら周りの様子を眺めつつ歩を進めて行く。

そして、広場に向かう道すがら。
ざわざわと人の声が、騒ぎ声が広場の方面から聞こえて来る事に、二人はピタリと足を止めて顔を見合わせた。

その騒ぎ声は、人の悲鳴だ。
泣き叫ぶような声と、人々が逃げ惑う声が広場の方面から聞こえて来て、二人は弾かれたように広場に向かって走り出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

【完結】可愛くない女と婚約破棄を告げられた私は、国の守護神に溺愛されて今は幸せです

かのん
恋愛
「お前、可愛くないんだよ」そう婚約者から言われたエラは、人の大勢いる舞踏会にて婚約破棄を告げられる。そんな時、助けに入ってくれたのは、国の守護神と呼ばれるルイス・トーランドであった。  これは、可愛くないと呼ばれたエラが、溺愛される物語。  全12話 完結となります。毎日更新していきますので、お時間があれば読んでいただけると嬉しいです。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

婚約者様にお子様ができてから、私は……

希猫 ゆうみ
恋愛
アスガルド王国の姫君のダンス教師である私には婚約者がいる。 王室騎士団に所属する伯爵令息ヴィクターだ。しかしある日、突然、ヴィクターは子持ちになった。 神官と女奴隷の間に生まれた〝罪の子〟である私が姫君の教師に抜擢されたのは奇跡であり、貴族に求婚されたのはあり得ない程の幸運だった。 だから、我儘は言えない…… 結婚し、養母となることを受け入れるべき…… 自分にそう言い聞かせた時、代わりに怒ってくれる人がいた。 姫君の語学教師である伯爵令嬢スカーレイだった。 「勝手です。この子の、女としての幸せはどうなるのです?」 〝罪の子〟の象徴である深紅の瞳。 〝罪の子〟を片時も忘れさせない〝ルビー〟という名前。 冷遇される私をスカーレイは〝スノウ〟と呼び、いつも庇護してくれた。 私は子持ちの婚約者と結婚し、ダンス教師スノウの人生を生きる。 スカーレイの傍で生きていく人生ならば〝スノウ〟は幸せだった。 併し、これが恐ろしい復讐劇の始まりだった。 そしてアスガルド王国を勝利へと導いた国軍から若き中尉ジェイドが送り込まれる。 ジェイドが〝スノウ〟と出会ったその時、全ての歯車が狂い始め───…… (※R15の残酷描写を含む回には話数の後に「※」を付けます。タグにも適用しました。苦手な方は自衛の程よろしくお願いいたします) (※『王女様、それは酷すぎませんか?』関連作ですが、時系列と国が異なる為それぞれ単品としてお読み頂けます)

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵
ファンタジー
 伯爵令嬢で王国一の商会の長でもあるルシアナ・アストライアはある日のパーティーで王太子の婚約者──聖女候補を虐めたという冤罪で国外追放を言い渡されてしまう。  そんな王太子と聖女候補はルシアナが絶望感する様子を楽しみにしている様子。  けれども、今いるグレール王国には未来が無いと考えていたルシアナは追放を喜んだ。 「国外追放になって悔しいか?」 「いいえ、感謝していますわ。国外追放に処してくださってありがとうございます!」  悔しがる王太子達とは違って、ルシアナは隣国での商人生活に期待を膨らませていて、隣国を拠点に人々の役に立つ魔道具を作って広めることを決意する。  その一方で、彼女が去った後の王国は破滅へと向かっていて……。  断罪された令嬢が皆から愛され、幸せになるお話。 ※他サイトでも連載中です。  毎日18時頃の更新を予定しています。

処理中です...