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しおりを挟むメニアの手を引きながら、セリウスが申し訳無さそうに眉を下げ、メニアに振り向く。
「メニアと俺は婚約しているのに、学院に入ってからはいつもシャロンと一緒だったでしょ?あまり二人きりになる事が出来なくて俺も寂しかったんだよね」
「──セリウス様が……?そうなんですか?初めて聞きました」
「うん、初めて言ったからね。本当はもっとメニアとの時間が欲しいし、二人だけで色々な所に行きたいんだけど、──ごめんね」
メニアの言葉にセリウスはしゅん、と肩を落としてそう告げて来る。
本当に、初耳だ。
確かに学院に入ってからはメニアとセリウス、シャロンの三人で共に過ごす事が普通になっていたし、その事をメニアも疑問には思わなかった。
元々、セリウスのレブナワンド侯爵家とシャロンのタナヒル侯爵家は昔から親交があり、家族ぐるみの仲の良さだったらしい。
セリウスとシャロンは同い年と言う事もあり、幼少期からまるで本当の兄妹のように育ち、共に過ごしていたらしい。
爵位も侯爵家同士、行く行くは幼馴染の二人を婚約させ、結婚させる予定もあったのだろう。
だが、そこでメニアが光属性魔法の使い手だと言う事が公表されて、一番に婚約を申し込んで来たのはセリウスのレブナワンド侯爵家だ。
メニアは、自分が居なければセリウスとシャロンは婚約する予定だったのでは、と申し訳無さから以前セリウスにその事を訪ね、婚約を解消出来ないのか確認した事がある。
だが、セリウスの口からはシャロンはただの幼馴染で、兄妹みたいな物だよ、と説明された。
シャロンに全くそう言った気持ちは無い、とセリウスから話されてメニアはホッしたのだ。
自分の存在が、想い合う者同士を引き裂いたのではなかった、と。
そしてそれは、シャロンも同じ気持ちらしく、以前何かの拍子に二人の婚約の話になって、そうしてシャロンはメニアに向かってセリウスを男として見た事は無い、と笑ってメニアに話した。
だからメニアは、学院に入ってもこうして三人で過ごすのはセリウスとシャロンが家族のような間柄だから、共に過ごす事は普通なのだ、と思っていた。
(けれど、何故私はそんなにあっさりと納得したのかしら……?今思えば、いくら仲が良くても婚約者との時間にわざわざ自分が入り込んで来る……?)
メニアは、自分だったらそんな申し訳ない事はしない。とそう考える。
二人の時間の邪魔をしたくないし、何より身内が婚約者である相手に甘ったるい態度をしているのをそんなに近くで見たく無い。
自分の兄や弟が、自分の友人に対して甘い態度を取る場面を見るのはちょっと気持ち悪くて見たくない。
メニアが考え事をしていると、メニアの様子に気付いたセリウスが握ったメニアの手をぎゅう、と強く握る。
そのセリウスの行動に、メニアはびくり、と体を跳ねさせるとセリウスに視線を向ける。
「メニア、考え事?……今は折角二人で居るんだ。普段あまり二人きりで過ごせないんだから、シャロンと合流するまでは二人で楽しもう?」
「す、すみませんセリウス様……。分かりました、折角の時間ですものね、そうしましょう……っ」
セリウスの言葉に、メニアは申し訳無さそうな表情を浮かべてセリウスの提案に乗る。
違和感しか感じないが、ここで下手にぎこちない態度でセリウスに不信感を抱かせてしまうのもあまり良くない。
まだ、セリウスを好きな「メニア」で居た方がいいだろう。
メニアはそう考え、セリウスを好きだった頃の自分の態度を思い出してそう対応する。
(──……そもそも、セリウス様を好きだった頃を思い出して演じる、と言う事が必要なくらい私の気持ちはセリウス様から既に離れているのに……婚約を解消する事が出来ない現状が悔しい……っ)
「プレゼントしたブローチ、付けてくれたんだね。凄く似合ってるよ、メニア」
「素敵なプレゼントをありがとうございます、セリウス様」
メニアが、セリウスへお礼を伝えるとセリウスは嬉しそうに破顔するとメニアの手を嬉しそうに握ると、「シャロンと合流する前に少し街を見て行こう」と提案して、歩き出した。
セリウスと二人きりで過ごすのはいつぶりだろうか。
それ程までに久しぶりの事で、メニアは若干の気まずさを感じていたが、メニアのその感情に気付いているのか、いないのかセリウスはにこにこと笑顔を浮かべながら、メニアを色々な店に引っ張って行く。
「メニア、あまり外で食べる事は無いだろう?この機会に食べてみようよ」
セリウスはそう楽しげにメニアに声を掛けると、出店に向かって歩いて行く。
出店で食べ物を二人分購入すると、セリウスがそれを手に持ち、笑顔でメニアの元に戻って来る。
「はい、メニア。ブラックホーンの揚げ肉だって。凄い美味しそうだよ」
「ありがとうございます、セリウス様」
手渡される串をメニアは受け取ると、セリウスはそのままメニアの空いている手を再度自分の手のひらで包み込み、手を引きながら歩き出す。
「もう少ししたら、シャロンと合流しなくちゃいけない時間だ……もうちょっとメニアと二人で楽しみたかったんだけどな」
「充分、楽しい時間を過ごせました。シャロン様との待ち合わせ場所に向かいましょうか?」
「──うん。ゆっくり広場に向かおう」
メニアとセリウスは、ゆっくり広場に向かい歩き始めると、串に刺さった揚げ肉を食べながら周りの様子を眺めつつ歩を進めて行く。
そして、広場に向かう道すがら。
ざわざわと人の声が、騒ぎ声が広場の方面から聞こえて来る事に、二人はピタリと足を止めて顔を見合わせた。
その騒ぎ声は、人の悲鳴だ。
泣き叫ぶような声と、人々が逃げ惑う声が広場の方面から聞こえて来て、二人は弾かれたように広場に向かって走り出した。
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