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しおりを挟むガタガタ、とゆっくり進む馬車の揺れに身を任せながらメニアは学院までの道のりをただ静かに過ごしていた。
馬車内にいる三人、メニア以外のセリウスとシャロンは今日の授業の事について、楽しげに意見を交わしている。
メニアが受ける授業は、二人とは一切被る事は無い。
メニア自身は、風の元素魔法も適性があり使用する事が出来るがそれよりも光属性魔法の授業が優先され、元素魔法の授業を受ける事が出来ない。
そして、光属性魔法とは言ってもメニアが使用出来るのは「光属性だと思わすため」の治癒魔法と、魔法障壁を狭い範囲に張り巡らせる事しか出来ない、と誤魔化している。
メニアは聖属性魔法の使用者なので、光属性魔法のその他の魔法を使う事は出来ないが、授業の内容である程度の光属性魔法で発動出来る魔法の種類は知っている。
その中で、メニアにも使用出来るのが光属性と聖属性で共通して発動する事が出来る治癒魔法と、魔法障壁だ。
この間使用した状態異常の解除は聖属性魔法でしか発動出来ない。光魔法では状態異常を軽減させるだけだからだ。
その事から、メニアが「解除」を使用した事が周囲に知られてしまえばその瞬間にメニアは聖属性魔法の使い手だと知られてしまう。
聖属性魔法は、構築出来る魔法の種類がどれ程あるのか明らかにされていない。
それ程に、聖属性に適性を持つ人間が少なかった事と、聖属性魔法の詳細は「禁書」に記されている事が多いからだ。
何か、聖属性魔法の詳細が周囲に明らかになってしまえば、不都合が起きるのだろうか。
それ程までに、聖属性魔法の使用者はとてつもない魔法を行使する事が出来る、と言う事だろうか。
(初代、聖寺院の創設者であるミリアベル・スティシアーノ様もご自身の使用する聖属性魔法の種類は一般には公表されていなかったわね……)
これからは、光属性のみではなく自分の聖属性魔法についても深く知る必要があるのかもしれない。
と、そうメニアは考えるとふいに自分の名前が呼ばれている事に気が付いた。
「──ニア、メニア!どうしたんだい?具合が悪い?」
「……、え、ああ、セリウス様」
心配そうに見詰め、声を掛けてくるセリウスにメニアはキョトン、と瞳を瞬かせると申し訳なさそうに苦笑した。
「申し訳ございません、セリウス様。少し呆けてしまっておりました……。えっと、何かございましたか?」
「具合が悪くないのであればいいのだけど……。メニア、学院に着いたから下りないか?」
「あ、ああ、申し訳ございませんもう学院に到着されたのですね」
メニアがぼうっとしてしまっている間に、学院に着いていたのだろう。
先に馬車を下りたシャロンは、不思議そうに、だが心配するようにメニアを見詰めている。
──そして、また違和感。
そのシャロンの態度に、メニアはまたしても違和感を感じてぶるり、と体を震わせると先に下りて、自分に手を差し出して待っているセリウスにそっと手を借りて直ぐに地面に降り立つと、セリウスからパッと自分の手を引いた。
驚いているセリウスに向かって、メニアは振り向いて唇を開く。
「セリウス様。これから暫く、図書室で調べ物がありますので、授業が終わったらお二人で先にお帰り下さい。暫くはハピュナー子爵家の馬車を利用しますね」
「──え、ちょっと、メニア……!」
メニアは、口早にセリウスにそう告げると、セリウスの返事を聞く前にぺこりと頭を下げて学院の正門へと向かい、駆けていく。
途中、シャロンとすれ違う前にもシャロンに同じ事を告げ、ぺこりと頭を下げると二人を残してメニアは足早に学院内へと入って行った。
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