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「──レグルス……!やっと戻ってきたか、何処まで散歩に行っていたんだ?」

遺跡へと戻って来ると、もう既に他の皆は起きていたようで出立の準備をしていた。
森の方向から姿を表した事に気付いたクライが自分の腰に下げた剣に手を掛けた状態のまま立ち上がっていた。

森から生き物の気配がして、警戒していたのだろう。
姿を表したのがレグルスだった事にクライは安心したようにほっと息をつくと、剣に添えていた手を離し、呆れた様に腕組みをする。

「いや、ちょっとな……」

レグルスは気まずそうに視線を逸らしながらクライに向けてそう言うと、出立の身支度が終わったのだろうか、ミーナがトトト、とレグルスに近付いてく。

「レグルスさん!支度が終わったら朝ご飯にしようって、お父さんが言ってました。レグルスさんも早くこっちに座って食べましょう」
「え、ああ……」

ミーナが嬉しそうにレグルスの腕を掴み、ぐいぐいと朝食の場所へと引っ張っていく途中で、ふとレグルスの首元へと視線をピタリ、と止めた。

「──あれ?」

ぎくり、とレグルスの体が強ばる。
レグルスが被っているフードの影、首元の後ろ辺りから、レグルスの真っ黒な髪の毛に紛れて何かふわふわとした白く輝く毛のような物が見え隠れしている。

「……ミーナ」

レグルスがミーナの名前を呼び、先を促そうとしたがミーナの興味はレグルスの首元にある真っ白い柔らかそうな毛に移ってしまっているらしく、不思議そうに、だが興味深そうにじっと見詰められる。

レグルスの緊張が体から伝わったのだろうか。
先程、湖の所で助けた子犬が不思議そうにレグルスの首元からひょこりと顔を出してしまった。

ぴたり、と子犬の瞳とミーナの瞳が合わさり、瞬間ミーナが嬉しそうにぱああっと笑顔を浮かべるとレグルスにぐいっと近付く。

「子犬……っ!?子犬ですかレグルスさん!」

きゃあっと喜色に塗れたミーナの声に、食事の用意をしていたミーナの両親と、レグルスの背後で撤収の準備をしていたクライ達冒険者の面子が「え?」と声を上げてレグルスに視線を向ける。

レグルスは、周りからの視線を受けて隠す事は出来ないか、と観念すると自分の首元に手を持っていき首裏に隠れさせていた子犬を手のひらに乗せると皆の前にその子犬をひょい、と差し出す。
レグルスの手のひらに乗り、必死に縋り小さく体を震わせる子犬の姿に、女性陣は瞳を輝かせると「可愛い!」と歓声を上げた。










「──まさか、散歩から戻ってきたと思ったらちっこい子犬を連れて来るとは思わなかった」
「まあ、……俺も連れてくるつもりはなかったんだけどなぁ……」

レグルスとクライが話している側では、レグルスの足元に必死に縋り付く子犬と、その子犬を構う為にしゃがみこみ、ちょっかいを掛けているミーナと、ミーナの母親、アンナがいる。

「まさか、湖に落ちて溺れてるこいつをそのまま放っておく事は出来なくてな……助けた後、歩き出したら着いてきたんだよ……」
「まあ、そうだな……溺れてたら俺でも助けてたわ……」

だろ?と二人で話していると、出立の準備が終わったのだろうか。
リーチと、ミーナの父親が荷物を背負ってこちらに歩いて来る。

「お待たせしました……!準備が出来ましたので行きましょうか」

ミーナの父親の言葉に、それぞれ頷くとレグルスは自分の足元にいた子犬をひょい、と再度自分の手のひらで掬い上げると胸に抱いて次の街へ向かう為、歩き出した。







遺跡がある場所から街道へと出て歩き出して数時間。
あと一、二回程野営をすれば次の街へと到着するだろう。
馬車が無くなってしまったのは痛手だな、とクライが零していたがレグルスは始めから歩いて向かう予定だった為、徒歩で長時間歩くのも苦にならない。

始めは一人旅になるだろうと思っていたが、途中でクライ達と出会い、そして自分の胸元に抱いている子犬もいる。
次の街でクライ達とは別れる事になるだろうが、この子犬とは恐らくこれからも行動を共にする事になるだろう。

その事実に、レグルスは少しの嬉しさを胸に抱いてのんびりと道中を楽しむことにした。
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