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「ミーナ!」

レグルスと少女が姿を表した途端、横転した馬車の近くにいた少女の母親らしき女性が声を上げて二人に駆け寄ってくる。
レグルスは、周囲に視線を巡らせると粗方盗賊の始末は終えたのだろう。
冒険者三人と、御者をしていた父親だろう人物が戸惑いながらレグルスに視線を向けている。

「お母さんっ」
「ああ、ミーナ!無事で良かった……っ。本当にありがとうございます!」

レグルスは少女と母親が涙を見せながら笑いあっている姿を見てほっと息を付くと、唇を開く。

「一先ず、あちらに俺も合流していいか?少女が足を怪我しているから治したい」
「ええ、ええ!大丈夫です!──あなた!ミーナが座る場所を!」

少女の名前はミーナ、と言うらしい。
レグルスがミーナを抱えて母親の後に着いていくと、父親と冒険者が場所を作りレグルスとミーナが座れる場所を作ってくれる。

レグルスの事は一先ず置いておいて、ミーナの怪我を治す事を優先しているのだろう。
冒険者は、自分達が依頼を受けた護衛対象を守りきれなかった事を悔いているのか、冒険者のリーダー格の男がレグルスに向かって視線を向けると、軽く頭を下げる。
レグルスもその男に向けて視線を向けるが、取り敢えずはミーナと言う少女の怪我を治すのが先決だ。
レグルスは少女に向かって唇を開いた。

「……ミーナ、何処ら辺が痛いか教えてくれるか?」
「足を動かそうとすると、ここら辺が凄く痛みます」

レグルスの言葉に応えるように、ミーナがブーツの上から足首辺りを指さす。
痛みからか、ミーナの指先が震えているのが分かる。
レグルスは、母親にブーツを脱がしてやってくれ、と言葉を掛けるとはっとした母親が急いでミーナの足からブーツを抜き取る。

「──うぅっ」
「──これ、は……相当痛かっただろう。腫れ上がっている」

母親にぎゅう、としがみつくミーナにレグルスは視線を向けると、「もう大丈夫だ」と言葉を掛けてから回復魔法を患部に施す。

レグルスの手のひらから確かに光り輝く魔力が放出され、ミーナの患部にその光が収束している。
その様子を見た冒険者の男は、驚きに目を見開くと「無詠唱だと……」と小さく自分の口の中で信じられない、と言うように呟いた。





「どうだ?もう治ってると思うんだが、動かせそうか?」
「──凄い、痛くないですっ!」

レグルスの言葉に、ミーナが恐る恐る足を動かすと、ぱあっと明るい笑顔を見せる。
「それなら良かった」とレグルスがミーナに微笑み掛けると、成り行きを見守っていた父親と母親がレグルスにお礼を伝えてくる。

「本当にありがとうございます、盗賊の数が多く、もう駄目だと思っていました」
「助けて頂いただけでなく、娘の怪我まで治して頂いて何とお礼をすれば……」

ミーナをしっかりと抱きしめながら伝えてくる両親にレグルスは気にしなくていい、と応える。

「俺もたまたま近くで野宿していたから、礼には及ばない」
「いや、あんたがそう言っても、助けられたのは事実だ。護衛役として依頼を受けたのに本当に面目ない。本当に助かった、ありがとう」

レグルスの斜め後ろから、冒険者のリーダーらしい男が頭を下げてくる。
男が頭を下げたのを見て、慌てて女性の冒険者も、弓を背負った男もありがとう、と言葉を放ち頭を下げてくる。

「俺は、冒険者ギルドに所属しているクライだ。そっちの女性はアンナ、弓を背負っているのはリーチだ」
「俺はレグルス」
「本当に助かった、それで、レグルス。あんたが寝ていた寝床はここから近いか?見ての通り、俺達が不甲斐ないせいで護衛対象の馬車を失ってしまってな……しっかり休んで明日に備えたいんだが……」
「ああ、遺跡のような所がこの先にあるよ。案内するから荷物を持って着いて来てくれ」

レグルスは、後ろにいる冒険者達と家族に告げると慌てて荷物を纏め始めるのを眺めている。

「これ、は……何回か往復が必要そうだな。誰か見張りとしてここに残って、何度か往復しよう」

冒険者のクライが頭をかきながらそう伝えると、御者をしていた父親も「そうだな」と返す。
レグルスは、空間収納魔法でも使おうか、と思ったが先程無詠唱で回復魔法を使用したらクライが驚いていた。
あまりこの場でぽんぽんと魔法を使うのは良くなさそうだ、と判断すると時間はかかってしまうだろうが何回か往復してもらって荷物を運べばいいな、とレグルスはくるりと踵を返すと馬車の荷台の方に向かって自分の足をむけた。
自分も運び手に加われば多少は往復する手間が省かれるだろう。
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