38 / 49
38
しおりを挟む「ミーナ!」
レグルスと少女が姿を表した途端、横転した馬車の近くにいた少女の母親らしき女性が声を上げて二人に駆け寄ってくる。
レグルスは、周囲に視線を巡らせると粗方盗賊の始末は終えたのだろう。
冒険者三人と、御者をしていた父親だろう人物が戸惑いながらレグルスに視線を向けている。
「お母さんっ」
「ああ、ミーナ!無事で良かった……っ。本当にありがとうございます!」
レグルスは少女と母親が涙を見せながら笑いあっている姿を見てほっと息を付くと、唇を開く。
「一先ず、あちらに俺も合流していいか?少女が足を怪我しているから治したい」
「ええ、ええ!大丈夫です!──あなた!ミーナが座る場所を!」
少女の名前はミーナ、と言うらしい。
レグルスがミーナを抱えて母親の後に着いていくと、父親と冒険者が場所を作りレグルスとミーナが座れる場所を作ってくれる。
レグルスの事は一先ず置いておいて、ミーナの怪我を治す事を優先しているのだろう。
冒険者は、自分達が依頼を受けた護衛対象を守りきれなかった事を悔いているのか、冒険者のリーダー格の男がレグルスに向かって視線を向けると、軽く頭を下げる。
レグルスもその男に向けて視線を向けるが、取り敢えずはミーナと言う少女の怪我を治すのが先決だ。
レグルスは少女に向かって唇を開いた。
「……ミーナ、何処ら辺が痛いか教えてくれるか?」
「足を動かそうとすると、ここら辺が凄く痛みます」
レグルスの言葉に応えるように、ミーナがブーツの上から足首辺りを指さす。
痛みからか、ミーナの指先が震えているのが分かる。
レグルスは、母親にブーツを脱がしてやってくれ、と言葉を掛けるとはっとした母親が急いでミーナの足からブーツを抜き取る。
「──うぅっ」
「──これ、は……相当痛かっただろう。腫れ上がっている」
母親にぎゅう、としがみつくミーナにレグルスは視線を向けると、「もう大丈夫だ」と言葉を掛けてから回復魔法を患部に施す。
レグルスの手のひらから確かに光り輝く魔力が放出され、ミーナの患部にその光が収束している。
その様子を見た冒険者の男は、驚きに目を見開くと「無詠唱だと……」と小さく自分の口の中で信じられない、と言うように呟いた。
「どうだ?もう治ってると思うんだが、動かせそうか?」
「──凄い、痛くないですっ!」
レグルスの言葉に、ミーナが恐る恐る足を動かすと、ぱあっと明るい笑顔を見せる。
「それなら良かった」とレグルスがミーナに微笑み掛けると、成り行きを見守っていた父親と母親がレグルスにお礼を伝えてくる。
「本当にありがとうございます、盗賊の数が多く、もう駄目だと思っていました」
「助けて頂いただけでなく、娘の怪我まで治して頂いて何とお礼をすれば……」
ミーナをしっかりと抱きしめながら伝えてくる両親にレグルスは気にしなくていい、と応える。
「俺もたまたま近くで野宿していたから、礼には及ばない」
「いや、あんたがそう言っても、助けられたのは事実だ。護衛役として依頼を受けたのに本当に面目ない。本当に助かった、ありがとう」
レグルスの斜め後ろから、冒険者のリーダーらしい男が頭を下げてくる。
男が頭を下げたのを見て、慌てて女性の冒険者も、弓を背負った男もありがとう、と言葉を放ち頭を下げてくる。
「俺は、冒険者ギルドに所属しているクライだ。そっちの女性はアンナ、弓を背負っているのはリーチだ」
「俺はレグルス」
「本当に助かった、それで、レグルス。あんたが寝ていた寝床はここから近いか?見ての通り、俺達が不甲斐ないせいで護衛対象の馬車を失ってしまってな……しっかり休んで明日に備えたいんだが……」
「ああ、遺跡のような所がこの先にあるよ。案内するから荷物を持って着いて来てくれ」
レグルスは、後ろにいる冒険者達と家族に告げると慌てて荷物を纏め始めるのを眺めている。
「これ、は……何回か往復が必要そうだな。誰か見張りとしてここに残って、何度か往復しよう」
冒険者のクライが頭をかきながらそう伝えると、御者をしていた父親も「そうだな」と返す。
レグルスは、空間収納魔法でも使おうか、と思ったが先程無詠唱で回復魔法を使用したらクライが驚いていた。
あまりこの場でぽんぽんと魔法を使うのは良くなさそうだ、と判断すると時間はかかってしまうだろうが何回か往復してもらって荷物を運べばいいな、とレグルスはくるりと踵を返すと馬車の荷台の方に向かって自分の足をむけた。
自分も運び手に加われば多少は往復する手間が省かれるだろう。
0
お気に入りに追加
145
あなたにおすすめの小説
彩の雫
結局は俗物( ◠‿◠ )
恋愛
突然故郷を奪われた少女・灰白が復讐を誓い仇の国・風月の城に潜む話。故郷を奪われた少女・灰白は避難の果てに辿り着いた森の中で世捨て人のような青年・朽葉に出会い、故郷襲撃の話を聞く。そこで灰白は避難先であり故郷を襲撃した風月国へ、朽葉の知人である飲んだくれ無職・縹の助力により風月国の城に叔父と姪の関係を偽り潜伏する。しかし風月国には主はおらず第三公子・珊瑚だけがいた。こうして城の留守を預かる官吏・群青や世話係の少女・紫暗と共に風月王と第二公子の帰還を待つことになり復讐を遂げようとするものの邪魔が入る。灰白は顔面に大きな傷を負い目の前で大切な人を失う。(〜47話までのあらすじ)
なんちゃってアジアンテイストでテクノロジーもごっちゃごちゃ。ルビはガチの読みだったり意味が同じものだったり。エッセイにて40話ごとのまとめを掲載しています。
※途中どこかで話がいきなり飛んでる可能性が出ている。
世界を覆せ偽勇者
コトナガレ ガク
ファンタジー
帝都を騒がせる怪盗 フォックス。だが彼はヴィザナミ帝国次期皇帝候補十二皇子が一人 シーラに捕まってしまう。
フォックスは死を覚悟したが、シーラは意外にもフォックスことシチハに、もうすぐ魔王が復活してしまう、だから勇者となって国を救ってくれと願うのであった。だがシチハはこれを狂気の笑いで拒絶するだけでなく、帝国の滅びこそ願いだと吼えるのだった。シチハは数年前に帝国に国を滅ぼされた虐げられる民だったのだ。
シチハの説得を試みるシーラだったが、そこに魔人が乱入してくるのだった。勇者の力に目覚め辛くも魔人の手からもシーラの手からも逃げ出したシチハ。これで一安心と思ったのもつかの間、家に帰るとそこにはシーラが待ち構えていた。
そしてシーラは私と賭をしろと提案する。
勝てば嫁としてシチハと共に過ごしてあげるから、負ければ城に帰り勇者となって国を救えと。
ここに勇者と姫の壮絶な戦いが開幕するのだった。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
本当の主人公 リメイク版
正君
恋愛
高校2年の松田龍馬は、幼少期から何度も何度も怪物に変化する女の子の夢を見るという、彼にとっての平凡な日々を過ごしていた。
そんなある日の事、廊下で不良に絡まれている女子2人を見つけ、何故か放って置けなかった松田龍馬は不良を追い払うことにした。
しかし、中肉中背、運動の経験もない龍馬には追い払える術など無かった。
そう、突然芽生えた能力以外は。
突然目を光らせる龍馬に、たじろぐ不良。
目を見開き驚く二人組。
何が起きたのか分からず慌てふためく龍馬。
そんな龍馬の手を握り、ゆっくりとお礼を言う髪の短い女の子。
その子は、小さい頃から龍馬の夢に出てくる女の子そっくりだった。
それから、松田龍馬の平凡は壊れ始める。
小説家になろう、カクヨム、ギャレリアでも投稿しています。
言の葉のかけら
歌川ピロシキ
絵本
ポエム以上短編未満。
短編とすら呼べないような物語の断片を書き留めておく忘備録。
主にTwitterやピュアニスタ(https://www.purenista.jp/)に載せたつぶやきです。
基本的にイラストはピュアニスタで作ったもの。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる