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しおりを挟む微かに声を出して笑ったレグルスに、少年は不思議そうにレグルスを見上げた。
「お兄さん?」
「ん?ああ、いや。何でもないよ」
レグルスは少年の頭に自分の手を乗せて乱雑に撫でると、これから孤児院へも騎士隊の調査が入るだろう、と考える。
だが、孤児院は悪事に手を染めている訳ではなく領主の脅迫まがいな命令に従わざるを得なかっただけだ。
その為、万が一罪に問われても軽度のものですむだろう。
レグルスはちらり、と少年に視線を移した。
この少年が孤児院出身なのだとしたらやはり一度孤児院へ連れて行った方がいいだろう。
そこで院長にこの少年の今後の処遇を考えて貰った方がいい。
レグルスはそう考えると、まだ人も疎らなこの時間帯に孤児院に赴く方がいいだろう。と考えて少年を抱き上げるとくるり、と踵を返した。
「お兄さん?次は何処行くの?」
「ん?君がいた孤児院に行ってみようと思ってな」
「孤児院に?何で?」
不思議そうに聞いてくる少年に、レグルスはしっかりと少年と視線を合わせて答える。
「これから先、君一人では暮らして行けないだろう?成人するまでは再び孤児院で過ごすのがいいと思う」
レグルスから放たれる言葉に、少年はショックを受けたような悲しい表情をする。
「······そっか、そうだよね。お兄さんは旅の人だったんだ······」
「ああ······。あと数日でこの町を出る予定だから、君をきちんと見てくれる所に行かないと」
ずっと一緒に居られる訳ではないんだ、とぽつりと呟く少年に、レグルスは眉根を下げるともう一度少年の頭をくしゃり、と撫でて孤児院へ向かい歩き続けた。
ベリーウェイの町に派遣された騎士隊は、まだ孤児院へ到着していないようで孤児院へと続く坂道にはまだ誰も居ない。
孤児院の子供達が植えたのか、道の端には様々な色彩の花が咲いている。
そよ風に揺られて花弁がゆらゆらと揺れている様を横目で見つめながら、レグルスは孤児院の正面玄関へと辿り着いた。
早朝にも関わらず、孤児院の正面玄関の前を掃除していた院長がレグルスの姿と、レグルスに抱えられている少年の姿を目にした瞬間、驚きに瞳を見開き、くしゃり、と泣きそうな表情を浮かべた。
レグルスは院長のその態度を見て「少し話を」と、声を掛けると何度も頷き、院長が中へと案内してくれる。
掃除道具を片してくるので待っていてくれ、と客間に通され、レグルスと少年は大人しくソファに腰を下ろして待っていると、片付けが終わったのだろう。
院長が瞳を潤ませたまま客間へと戻ってくる。
「······リドル、無事だったのね」
院長は少年を見つめながら顔を覆い、蹲ってしまう。
少年の名前は、リドルと言うのか。
そう言えば自分の名前も名乗って無かったし、少年の名前も聞いていなかったな、とレグルスは考えると院長に視線を移す。
先日、ルルと話していたシスターではない。
だが、シスターと顔立ちがとても似ていて血縁関係なのだろうか?と頭の中で考える。
だが、今はこの院長とシスターが血縁関係だろうがなかろうかレグルスには関係のない事だ。
少年──リドル、を今後この孤児院で引き取ってくれるかどうかが重要だ。
(まあ、この様子を見ている限り大丈夫そうだが······)
レグルスはぐすぐす泣いている院長に視線を向けると唇を開いた。
「院長、と見受けるが見ての通り、この少年はとある施設から救出して来たのだが」
レグルスの言葉に、ぴくりと院長は肩を震わせると泣き濡れた表情でレグルスに視線を向ける。
フードを目深に被っている為、レグルスの表情は見られてはいないがこちらからは相手の表情が分かる。
顔を上げた院長は不安気な表情でレグルスを見ている。
その不安を取り除いてやろう、とレグルスはリドルの頭をわしゃわしゃと撫でてやる。
「救出したはいいが──俺も旅をしている人間だ。リドルと話しをしたら、この孤児院の出身だと言う事が分かったので連れて来た」
レグルスの態度から、ただ本当にリドルを心配して連れて来てくれた人間なのだと言う事を察した院長は、安心したように唇を開いた。
「ええ、そうなのです······この子は、二年前までこの孤児院で暮らしていた子です」
続けて、「助けて頂いてありがとうございます」と頭を下げる院長に、レグルスは安堵したように体から力を抜くとソファに背を預ける。
「それならば、良かった。この子を今後この孤児院で見てもらっても?」
「ええ、ええ。勿論です」
「ありがとう。感謝するよ」
レグルスがそこで言葉を区切ると、リドルに視線を向ける。
レグルスと院長が話している間、寂しそうにしていたリドルに話しかける。
「──リドル、ここで俺とはお別れだ。ある程度体の怪我は治したから、後はしっかり食べて栄養を付け、体力を付けるんだ」
「······うん、お兄さん」
ぎゅう、とレグルスのコートの服を強く握りながらリドルが頷く。
この孤児院には、リドルと年の頃が近いレーラもいる。時々孤児院に訪れているルルもいる。
きっと、リドルはこの町で過ごす方がいい。
「俺も色々旅をして各地を回っているから、またこの町にも遊びに来るよ」
今生の別れではないから、とレグルスが伝えると「約束だよ」とリドルが呟く。
リドルの言葉にレグルスは頷くと、最後に一度リドルの頭を撫でてからソファから立ち上がった。
レグルスは、院長に視線を向けると、唇を開く。
伝えておかなければ行けないことがある。
「──リンドブルム領の領主が捕まった。これから騎士隊が来るだろうが、この町で行われていた"風習"を説明してくれ」
レグルスの言葉を聞いて、院長は驚きに目を見開くとソファから慌てて立ち上がる。
院長が唇を開くより早くレグルスは扉まで向かうと、リドルに向けて「じゃあ、またな」と声を掛けて扉から部屋を出て行った。
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