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しおりを挟むスタスタと迷いなく建物内を出口に向かって進んでいくレグルスに、喉を潤せた少年は慌てて声を掛ける。
「あ、あのっ僕この建物から出てはいけないんです──っ」
「それは何故だ?君はこの建物から出ると死に至る呪いでも掛けられている?けれど俺が見た限り、そんな呪いじみた物は君に掛けられていない」
「その⋯⋯、僕は"廃棄"だからこの建物内にいなければいけないんです⋯⋯」
レグルスは少年のその言葉にぴたり、と足を止めると少年へ視線を移して微笑んだ。
「人間を廃棄、なんて言う者の言う事は信じなくていいんだ」
命とは儚く散る場合もあるが、それはその者の運命であって、誰か他人が簡単に人の命を奪っていいという事はない。──今回の相手のような悪人には人としての価値が無い為除外するが。
きょとん、として目を瞬かせる少年にレグルスは笑うと少年の頭を撫でてやる。
よくよく少年の顔を見てみればとても整った綺麗な顔をしている。年齢だって14、15歳程であるはずなのに栄養が足りていないせいかギスギスに痩せ細り、骨がぼこりと浮き出ていて痛ましい。
身長も本来であればもう少し伸びていておかしくないはずなのに、到底14歳程の少年の身長には至っていない。
少年の身に悍ましく、惨たらしい事が起きたのは明白だ。
一先ずこの少年をこの劣悪な環境から引き離して自分の宿の部屋に避難させる。
少年が寝ている夜中の内にもう一度この領主の邸宅に忍び込んで悪事の証拠を入手しよう、そしてその時に森の中も同時に掃除をすればいい。
不安そうにこちらに視線を寄越す少年に「大丈夫だ」と声を掛けてレグルスは再度駆け出した。
レグルスは自分の姿と少年の姿を隠匿魔法で隠したまま宿屋へと戻ると、気配を殺してそのまま自室がある二階へと進んだ。
明らかに人を抱えて戻って来た姿を見られる訳にはいかない。
それに、この少年は領主の邸にいた事から明らかに例の事件に巻き込まれている。
まだ領主を上手く処理出来ていないのでこの少年が町の人に見られるのは避けておいた方がいいだろう、と考えたレグルスは自室に入ると自分の部屋に幻覚魔法を張り巡らせる。
その後に対象を"個人"として、この部屋の中での会話はレグルスと少年以外には聞こえないように特定人物以外への遮断魔法をかける。
幻覚魔法は少年の姿を隠し、誰もいない無人の空間を他の人間に見させる。
遮断魔法はレグルスと少年の会話が他の人間には聞こえないように。
レグルスは一通り魔法を掛け終わると、抱えていた少年を床に降ろしてやる。
少年は戸惑うようにキョロキョロと辺りを見回すと体の汚れと、ボロボロになってしまっている服をどうにかしてやろうと思い、自分の部屋に置いておいた寝間着用に購入していた生地の薄い服を取り出すと、少年が身にまとっていたボロ布を脱がせ、下着と一緒に少年の横に置いてやる。
「一先ず体を綺麗にしよう」
シャワーを浴びさせるのも考えたが、まだ少年の体は全快していない。
取りあえず体を清潔にする魔法を少年に掛けてやると、薄汚れていた肌や髪の毛が瞬く間に綺麗になっていく。
「わぁっ」
「⋯⋯体への反動は無いはずだけど、痛みは感じないか?」
キラキラと瞳を輝かせる少年にレグルスは問いかけると、少年は嬉しそうにこくこくと首を縦に振る。
レグルスは少年の反応に安堵すると、隣に置いていた服を手に取り、少年に手渡してやる。
「そうしたら、それを着ていてくれ」
「──ありがとうございます」
少年が渡された服を着込んでいる内に、レグルスは何か食べ物はないか、と部屋に置いておいた荷物の中を漁った。
肉や、味の濃い物はまだ臓器が回復しきっていないから刺激が強いだろう。
スープのような物があればいいのだが、携行食料でそういった物は購入していない。
昨日、フルーツ店で購入した幾ばくかの果実を見つけると、レグルスはその果実の数個を取り出し、少年に手渡す。
「固形物はまだ避けた方がいいとは思うんだが⋯⋯胃の中に何か入れた方が体の不具合も治りやすい。一気に食べなくていいから食べれそうだったら食べるんだ」
「──色々ありがとうございます⋯⋯」
渡された果実を両手で受け取り、少年は涙の膜が張った瞳でレグルスを見上げる。
気にするな、と言うようにレグルスは少年の頭をがしがしと撫でてやると、もう一度少年を抱き抱えてベッドへと降ろしてやる。
「疲れたら寝てていいし、⋯⋯暇つぶしに何か買ってこよう。俺がいない間はこの部屋から絶対に出ないでくれ」
「分かりました、⋯⋯えっと、お兄さんまた帰ってきますよね⋯⋯?」
「ああ、心配するな。少し買い物をしたらまた戻るよ」
不安そうに揺れる少年の瞳を真っ直ぐ見つめ返し、レグルスは笑うともう一度少年の頭を撫でてから自室の扉をそっと開けた。
廊下に誰もいない事を確認すると、扉を閉めて鍵をかける。
隠匿魔法が効いたままだから、自分の姿はまだ誰にも見えない。
レグルスは階段を下りると、店番をしているルルの目の前を通り過ぎ、タイミング良く半分程開いている宿屋の扉から出て行った。
夜、再度忍び込みに行く前に少年用の洋服や胃に優しい食べ物、暇つぶし出来そうな本を数点購入して来よう、とレグルスは町に向けて足を進めた。
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