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屋根に着地して、レグルスは暫しその場で耳を澄ませる。
僅かな物音に気付きこちらに向かってくるような気配を感じない事を確認すると、レグルスはそのままゆったりと屋根の上を移動する。

「屋根裏部屋みたいな物があればいいが⋯⋯」

侵入出来そうな窓があればいいのだが、と周りをキョロキョロと見回していると埃まみれになっている窓を見つけた。
自分が何とかギリギリ通れそうな大きさの窓で、鍵が掛かっているかどうか確認する為にそっと手を伸ばした。
ぐ、と力を入れて押したり横にスライドしたりしてみたが埃まみれの窓はぴくりとも動かない。

窓に近寄り鍵が掛かっているのか、と目視で確認しようとしたがどうやら鍵は掛かっていなさそうだ。

「単純に錆びて開かなくなっただけか⋯⋯?」

レグルスは顎に手を添えて考える。
埃まみれで中の様子が伺えない為、人がいるかどうか分からない。
生きている人間の気配は感じないが、無理矢理窓を壊して侵入してもいい物か考える。
軽率に行動して邸の警備が厳重になってしまっては元も子もない。

窓を焼き切ってから幻惑魔法で窓があるように見せるか?
だが、それだと風が吹いたらバレてしまう。

レグルスはもう一度窓に自分の腕を触れさせると先程より力を込めて押してみた。
その途端、ぎし、と嫌な音を立てて僅かに窓が動いたような気がする。
手前に引いて開けるような窓なのだろうか。
空きそうな気配にレグルスは防音魔法を窓周辺にかけると自分の腕に更に力を入れて窓を押した。

「──開いた⋯⋯!」

防音魔法に守られ、窓が開いた時の不快な音は一切発生していない。
自分の腕の先にあった窓の感触は無くなり、窓枠から外れた窓はそのまま床に落ちてしまったのだろう。
レグルスはポッカリと開いたその空間にするりと体を滑り込ませると邸へ侵入を果たした。




とん、と床に降り立ちレグルスは周りを慎重に見渡した。
どうやら外から確認した通り、この部屋には人はおらず暫く人が訪れていないのか室内は埃臭く、黴臭い匂いもする。
床に落ちた窓を拾い上げると、そのまま外れた窓枠部分に嵌め込んだ。

「次からもここから侵入出来そうだな」

室内には大した情報が無く、レグルスは部屋の扉の方向へと足を向けると扉の向こうに人の気配が無いか確認する。
そっと耳をそばだて、外の気配を確認すると周囲に人の気配は無さそうだ。

レグルスは扉のドアノブに手をかけて捻ると扉を開き外を確認する。
元々この部屋がある場所は邸の人が余り来ない場所なのだろうか。廊下は薄暗く、手入れされている気配が無い。
人の気配も近くには感じない為そのまま廊下に足を踏み出すとレグルスは扉を閉めた。

これで邸内を自由に歩き回れる、と考えると人の気配が多く集まっている場所を目指してレグルスは足を踏み出した。





邸内を自分の姿を隠匿する魔法で歩き回ったが、邸内には使用人が多く忙しなく仕事をして動き回っていた。
領主の部屋らしき場所にも赴いたが、流石に昼間は仕事をしているらしく室内に複数の気配があった為中の様子は伺えない。

人の気配が多すぎる為、長々と邸内を確認する時間は無かったが何ヶ所か不自然に誰も近寄らない場所があった。
夜中、人が寝静まった頃であればその場所を確認する事が出来るだろう。
レグルスは場所をしっかりと頭の中に叩き込み、昼間の侵入はもう終えようと邸の玄関の方向へと足を向けた。

先程商人がこの邸を訪れる所を見た。
その商人が帰る際に邸の玄関扉は開かれるだろうから堂々とそこから出ていけばいい。
侵入したあの場所から再度出る事も考えたが、下手にあの場所に近付いて扉を開ける瞬間を邸の使用人に見られるのは困る。
ざっと邸の中を歩いて確認したが、自分の魔法を見破れるような相手もいなさそうだ、と考えたレグルスは領主の悪事の証拠を入手するのは今夜、日付を跨いだ頃にしよう、と決めた。
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