上 下
14 / 49

14

しおりを挟む

孤児院で女性との話が終わった後、レグルスは港まで向かうと、港で店を構えている人達へと変わらず世間話を交えながらこの町の治安等もそれとなく聞いて行く。
ある者は眉を顰め、ある者は露骨に動揺し、ある者は顔を逸らした。

(この町では何かが確実に起きているんだな)

レグルスはそれぞれ礼を伝え、購入した商品と共に港を離れようと港の入口へと足を向ける。
周りを見渡せば港には、魚漁を行う為の船が数艘停まっていて、この時間には既に漁を終えているのか海に船を出している人は誰もいない。
レグルスは横目にその様子を眺めながら拭えない違和感と、気持ち悪さを感じながら宿へと戻る為
に足早に港を後にした。




その日の夜。
宿屋で夕食を取り終わると、自室へと戻り着替える。
前日も果実酒をルルが持ってきてくれた為、フードを外さずテーブルに座って購入した読み書きの指南書を読んでいると階下から足取り軽く登ってくる音がする。
足音の軽さからみてルルだろう、と察したレグルスは読んでいた本を閉じると椅子から腰を上げる。
レグルスが腰を上げたと同時に、扉がノックされてルルの声が聞こえる。

「お兄さん!果実酒持ってきたよー!」
「ああ、ありがとうルル」

扉を開けてやると、ルルが持っている果実酒の入ったピッチャーとグラスの置かれたトレーを受け取る。
ルルは自分が声を掛けたと同時に扉が開き、レグルスが姿を表した事に「わっ」と驚きに目を見開いているがすぐさまにこり、と笑うとトレーを受けってくれたレグルスにお礼を述べる。

扉を開けて入室を促すレグルスに、ルルは躊躇いながらもそっと扉の中へと足を進めた。


「昨日はありがとう。寝てしまっててその場でお礼を言えなかったから」
「気にしないでおくれよ!昨日は眠い所邪魔しちゃってごめんね」

レグルスはテーブルにトレーを置くと、ルルへと向き直る。

「⋯⋯それで、ルルが言ってた"女神に連れていかれる"、ってどう言う意味なんだ?」

レグルスのその言葉にルルはぴくり、と頭上の耳を跳ねさせると気まずそうに視線を室内へとさ迷わせた。
言いにくそうにそわそわとしながら両手を握りしめるルルにレグルスはそっとフードを取り払った。

「──俺の顔を見て、何か心配してくれたんじゃないのか?」
「──うん⋯⋯」

フードから現れた綺麗な造形の男の顔を見て、ルルはぼうっとレグルスの顔を見つめながら唇を開く。

「ルルは、この町に来た時一人だったから、孤児院にいたんだよ」
「ルルは孤児院にいたのか?」

レグルスの言葉にルルは頷くと、孤児院で過ごしている時に他の子達から先程のような言葉を何度も掛けられた事がある、と話した。

「孤児院で、見目がいい人は12歳になると女神様に気に入られて女神様と一緒にこの世界から居なくなるんだって」

レグルスは信じられない気持ちでルルの言葉を聞く。
女神、と綺麗な言葉で誤魔化してはいるがれっきとした拐かしではないか。と眉を顰める。

「この町を気に入っている女神様が、美しい自分と共にあれるように見目の良い、美しい人間を選ぶんだって⋯⋯3年に1度、女神様の選択の日が来るんだ。その時に、12歳の人が孤児院から選ばれて女神様の所に行くんだよ」
「──そうか⋯⋯」
「お兄さん、すっごく綺麗な顔してるし、かっこいいから女神様に気に入られちゃう、と思ったけど女神様は孤児院から連れていくし、お兄さんは大人だから考えたら平気だったね⋯⋯!」

ルルの言った事は気にしないでおくれよ!と笑い、ルルは仕事に戻る為レグルスの部屋を出て行った。

「──あの子、は12歳くらいだったか?」

レグルスは孤児院で見た少女が人間で言う所のそれくらいの年齢ではないか、と思い出す。
女神というのは隠語だろう。実際は誰か、他の人間に売られているのだろう事がルルの言葉から読み取れる。
幼い子供達に耳障りの良い言葉を放ち、騙して連れていき何処かの人間に売っている。

「だが、何の為に⋯⋯?」

レグルスは自分の顎に手を添え考える。
3年に1度、とルルは言っていた。という事は未だにその風習のような物が続いているのだろう。
そして、次に売られるのは孤児院で見たあの少女だろう。

レグルスは昼前に町で話した人達の顔色を見てこの風習のような物に町人が縛られ続けているのだと言うことを理解出来た。
皆一様に辛そうな表情をしていたのだ。
そして、どうにも出来ない事情があるんだろう。

一見、穏やかで町の人達も優しく良い町に見えるが裏では見えない鎖に縛られているんじゃないだろうか。

孤児院で見かけた少女の表情が自分の意識に焼き付いていて消えない。
あの、全てを諦めたような瞳と表情は、自分がガルバディスと出会う前のような表情だ。
あの時、贄としてただ生きていた自分自身を見ているようでどうにか出来ないものか、とレグルスは考える。
自分のように「贄」や「餌」になる為だけに生きるなんて悲しいだけだ。
生きる事は楽しい事なのだと言う事をあの少女にも感じて欲しい。

今まで売られた人間を助け出すのは難しいかもしれないけれど、これから売られる可能性のある少女を助ける事は出来るかもしれない。

レグルスは孤児院へ忍び込み、あの時の少女と話をする為夜が更けるのを待った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彩の雫

結局は俗物( ◠‿◠ )
恋愛
突然故郷を奪われた少女・灰白が復讐を誓い仇の国・風月の城に潜む話。故郷を奪われた少女・灰白は避難の果てに辿り着いた森の中で世捨て人のような青年・朽葉に出会い、故郷襲撃の話を聞く。そこで灰白は避難先であり故郷を襲撃した風月国へ、朽葉の知人である飲んだくれ無職・縹の助力により風月国の城に叔父と姪の関係を偽り潜伏する。しかし風月国には主はおらず第三公子・珊瑚だけがいた。こうして城の留守を預かる官吏・群青や世話係の少女・紫暗と共に風月王と第二公子の帰還を待つことになり復讐を遂げようとするものの邪魔が入る。灰白は顔面に大きな傷を負い目の前で大切な人を失う。(〜47話までのあらすじ) なんちゃってアジアンテイストでテクノロジーもごっちゃごちゃ。ルビはガチの読みだったり意味が同じものだったり。エッセイにて40話ごとのまとめを掲載しています。 ※途中どこかで話がいきなり飛んでる可能性が出ている。

世界を覆せ偽勇者

コトナガレ ガク
ファンタジー
 帝都を騒がせる怪盗 フォックス。だが彼はヴィザナミ帝国次期皇帝候補十二皇子が一人 シーラに捕まってしまう。  フォックスは死を覚悟したが、シーラは意外にもフォックスことシチハに、もうすぐ魔王が復活してしまう、だから勇者となって国を救ってくれと願うのであった。だがシチハはこれを狂気の笑いで拒絶するだけでなく、帝国の滅びこそ願いだと吼えるのだった。シチハは数年前に帝国に国を滅ぼされた虐げられる民だったのだ。  シチハの説得を試みるシーラだったが、そこに魔人が乱入してくるのだった。勇者の力に目覚め辛くも魔人の手からもシーラの手からも逃げ出したシチハ。これで一安心と思ったのもつかの間、家に帰るとそこにはシーラが待ち構えていた。  そしてシーラは私と賭をしろと提案する。  勝てば嫁としてシチハと共に過ごしてあげるから、負ければ城に帰り勇者となって国を救えと。  ここに勇者と姫の壮絶な戦いが開幕するのだった。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

本当の主人公 リメイク版

正君
恋愛
高校2年の松田龍馬は、幼少期から何度も何度も怪物に変化する女の子の夢を見るという、彼にとっての平凡な日々を過ごしていた。 そんなある日の事、廊下で不良に絡まれている女子2人を見つけ、何故か放って置けなかった松田龍馬は不良を追い払うことにした。 しかし、中肉中背、運動の経験もない龍馬には追い払える術など無かった。 そう、突然芽生えた能力以外は。 突然目を光らせる龍馬に、たじろぐ不良。 目を見開き驚く二人組。 何が起きたのか分からず慌てふためく龍馬。 そんな龍馬の手を握り、ゆっくりとお礼を言う髪の短い女の子。 その子は、小さい頃から龍馬の夢に出てくる女の子そっくりだった。 それから、松田龍馬の平凡は壊れ始める。 小説家になろう、カクヨム、ギャレリアでも投稿しています。

言の葉のかけら

歌川ピロシキ
絵本
ポエム以上短編未満。 短編とすら呼べないような物語の断片を書き留めておく忘備録。 主にTwitterやピュアニスタ(https://www.purenista.jp/)に載せたつぶやきです。 基本的にイラストはピュアニスタで作ったもの。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...