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しおりを挟む孤児院で女性との話が終わった後、レグルスは港まで向かうと、港で店を構えている人達へと変わらず世間話を交えながらこの町の治安等もそれとなく聞いて行く。
ある者は眉を顰め、ある者は露骨に動揺し、ある者は顔を逸らした。
(この町では何かが確実に起きているんだな)
レグルスはそれぞれ礼を伝え、購入した商品と共に港を離れようと港の入口へと足を向ける。
周りを見渡せば港には、魚漁を行う為の船が数艘停まっていて、この時間には既に漁を終えているのか海に船を出している人は誰もいない。
レグルスは横目にその様子を眺めながら拭えない違和感と、気持ち悪さを感じながら宿へと戻る為
に足早に港を後にした。
その日の夜。
宿屋で夕食を取り終わると、自室へと戻り着替える。
前日も果実酒をルルが持ってきてくれた為、フードを外さずテーブルに座って購入した読み書きの指南書を読んでいると階下から足取り軽く登ってくる音がする。
足音の軽さからみてルルだろう、と察したレグルスは読んでいた本を閉じると椅子から腰を上げる。
レグルスが腰を上げたと同時に、扉がノックされてルルの声が聞こえる。
「お兄さん!果実酒持ってきたよー!」
「ああ、ありがとうルル」
扉を開けてやると、ルルが持っている果実酒の入ったピッチャーとグラスの置かれたトレーを受け取る。
ルルは自分が声を掛けたと同時に扉が開き、レグルスが姿を表した事に「わっ」と驚きに目を見開いているがすぐさまにこり、と笑うとトレーを受けってくれたレグルスにお礼を述べる。
扉を開けて入室を促すレグルスに、ルルは躊躇いながらもそっと扉の中へと足を進めた。
「昨日はありがとう。寝てしまっててその場でお礼を言えなかったから」
「気にしないでおくれよ!昨日は眠い所邪魔しちゃってごめんね」
レグルスはテーブルにトレーを置くと、ルルへと向き直る。
「⋯⋯それで、ルルが言ってた"女神に連れていかれる"、ってどう言う意味なんだ?」
レグルスのその言葉にルルはぴくり、と頭上の耳を跳ねさせると気まずそうに視線を室内へとさ迷わせた。
言いにくそうにそわそわとしながら両手を握りしめるルルにレグルスはそっとフードを取り払った。
「──俺の顔を見て、何か心配してくれたんじゃないのか?」
「──うん⋯⋯」
フードから現れた綺麗な造形の男の顔を見て、ルルはぼうっとレグルスの顔を見つめながら唇を開く。
「ルルは、この町に来た時一人だったから、孤児院にいたんだよ」
「ルルは孤児院にいたのか?」
レグルスの言葉にルルは頷くと、孤児院で過ごしている時に他の子達から先程のような言葉を何度も掛けられた事がある、と話した。
「孤児院で、見目がいい人は12歳になると女神様に気に入られて女神様と一緒にこの世界から居なくなるんだって」
レグルスは信じられない気持ちでルルの言葉を聞く。
女神、と綺麗な言葉で誤魔化してはいるがれっきとした拐かしではないか。と眉を顰める。
「この町を気に入っている女神様が、美しい自分と共にあれるように見目の良い、美しい人間を選ぶんだって⋯⋯3年に1度、女神様の選択の日が来るんだ。その時に、12歳の人が孤児院から選ばれて女神様の所に行くんだよ」
「──そうか⋯⋯」
「お兄さん、すっごく綺麗な顔してるし、かっこいいから女神様に気に入られちゃう、と思ったけど女神様は孤児院から連れていくし、お兄さんは大人だから考えたら平気だったね⋯⋯!」
ルルの言った事は気にしないでおくれよ!と笑い、ルルは仕事に戻る為レグルスの部屋を出て行った。
「──あの子、は12歳くらいだったか?」
レグルスは孤児院で見た少女が人間で言う所のそれくらいの年齢ではないか、と思い出す。
女神というのは隠語だろう。実際は誰か、他の人間に売られているのだろう事がルルの言葉から読み取れる。
幼い子供達に耳障りの良い言葉を放ち、騙して連れていき何処かの人間に売っている。
「だが、何の為に⋯⋯?」
レグルスは自分の顎に手を添え考える。
3年に1度、とルルは言っていた。という事は未だにその風習のような物が続いているのだろう。
そして、次に売られるのは孤児院で見たあの少女だろう。
レグルスは昼前に町で話した人達の顔色を見てこの風習のような物に町人が縛られ続けているのだと言うことを理解出来た。
皆一様に辛そうな表情をしていたのだ。
そして、どうにも出来ない事情があるんだろう。
一見、穏やかで町の人達も優しく良い町に見えるが裏では見えない鎖に縛られているんじゃないだろうか。
孤児院で見かけた少女の表情が自分の意識に焼き付いていて消えない。
あの、全てを諦めたような瞳と表情は、自分がガルバディスと出会う前のような表情だ。
あの時、贄としてただ生きていた自分自身を見ているようでどうにか出来ないものか、とレグルスは考える。
自分のように「贄」や「餌」になる為だけに生きるなんて悲しいだけだ。
生きる事は楽しい事なのだと言う事をあの少女にも感じて欲しい。
今まで売られた人間を助け出すのは難しいかもしれないけれど、これから売られる可能性のある少女を助ける事は出来るかもしれない。
レグルスは孤児院へ忍び込み、あの時の少女と話をする為夜が更けるのを待った。
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