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第三十五話

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「あの日、私がクライヴ様に上手く話が出来なかった事でクライヴ様を傷付けてしまったんです······その後の自分の軽率な行動でこうやってご迷惑も掛けて······、本当に何度謝っても足りません」

クライヴの腕の中で酷く落ち込んだように視線を落として話すティアーリアに、クライヴはティアーリアの言葉を黙って聞いていたが、はっとして自分も唇を開く。

「──分かりました、後でしっかり私達は話をしましょう。今は貴女の体の方が重要だ。医者を呼んでくるからティアーリアはもう少し眠っていて下さい」

焦ったように口早にそう言うと、クライヴはティアーリアから体を離す。
このまま恐らくクライヴは、ティアーリアをベッドに入れると医者を呼びにこの部屋を出ていってしまうだろう。
自分の体から離れるクライヴの温もりにティアーリアは寂しくなり、咄嗟にクライヴの服の裾を縋るように握り締めてしまう。

くん、と体を軽く引かれる動作にクライヴは驚いてティアーリアを振り返る。
振り向いた先で、必死に何かを伝えようとしているティアーリアの表情にクライヴは戸惑い、ティアーリアの名前を呼ぶ。

「待って、下さい。大丈夫です、熱も下がったし、体の辛さもありませんから」
「だが、また何かあったら······」

クライヴが心配して言い募るが、ティアーリアはゆるゆると首を横に振ると、ティアーリアが唇を開く。

「大丈夫です、それよりちゃんとクライヴ様と話をしたいです」

懇願するようにじっと自分を見つめてくるティアーリアに、クライヴは諦めたように溜息を零すと、ティアーリアの足元にある掛け布団を引き上げティアーリアの肩にかける。

「分かりました、横になった方が体は楽ですか?それとも、このままの方が楽?」
「このままの体勢が楽です」
「分かりました」

クライヴはティアーリアの言葉を聞くと、自分もベッドへと乗り上げ、ヘッドボードに自分の背中を預けるとティアーリアを後ろから抱き締める。
ティアーリアのお腹辺りに腕を回し、後ろから強く抱き締めていると、ティアーリアが唇を開いた。

「あの日、私が言ってしまった言葉は、クライヴ様との出会いを後悔して出会ったのが過ちだと言ったのではないのです······」
「──はい、」
「確かに、私と出会ってしまったせいで、クライヴ様が築くはずだった縁の邪魔をしてしまったのは事実で、それに対して申し訳ない気持ちを本当は伝えたかった······っ」
「──はい」
「申し訳ない、という気持ちを抱いたのは本当ですが、だけど私は決してクライヴ様と出会った一週間を過ちだったのだと思った事は一度だって無いんですっ」

話しながら耐えきれず、ティアーリアの瞳からはぽろぽろと涙が零れ出す。

「すみません、ティアーリア······私の思い込みで酷く傷付けた······っ」

ひくひくとしゃくり上げるティアーリアを後ろからぎゅっと抱き締めると、クライヴはティアーリアから流れ落ちる涙を止めるように、目尻にそっと唇を落としていく。

「ティアーリア、貴女が愛しい余りに私は早合点して貴女を深く傷付けた······」
「······、っん、クライヴ様っ」

瞳から零れ落ちる雫を、クライヴがそっと触れるか触れないかの仕草で唇を落として行く。

「ティアーリアにいくら謝罪しても、私の罪は消えない。それだけ、貴女を傷付けた私ですが」

そっとティアーリアの目尻から唇を離すと、クライヴはしっかりと視線を合わせて言葉を切る。
ティアーリアの瞳に確かに映る自分への好意に、クライヴは表情をくしゃり、と歪めると言葉を続けた。

「ティアーリアを愛しています。貴女が居ないと私は生きていけない。それ程貴女を愛しているんです······」

泣き笑いの表情でクライヴがしっかりとティアーリアに向けて言葉を紡ぐ。

「貴女がもう嫌だと、私の側から離れたいと思ってもティアーリアを私はもう手放せません。こんな、執念深い男ですがこれからも私と共に歩んで頂けますか?」

クライヴの言葉を聞いた瞬間、ティアーリアの瞳からまたほろほろと涙が零れ落ちる。
ティアーリアは滲む視界で必死にクライヴを見つめると、何度も何度も首を縦に振る。

「──っ、勿論、です······っ私もクライヴ様を愛しています······っ」

声を震わせながら必死に自分の気持ちを伝えてくれるティアーリアに、クライヴはほっとしたように表情を緩ませるとティアーリアの体をくるりと反転させ正面から強く抱き締める。

お互い縋るように背中に腕を回し、ぎゅうぎゅうと抱き締め合うと、何度も自分の気持ちを相手に伝える。
愛している、好きだ、と何度も何度もクライヴが言葉にするとティアーリアも何度も自分も好きだ、と愛している、と言葉を返してくれる。

暫しそうやって抱き合いながらお互いの気持ちを伝え合って、二人は視線を合わせると照れ臭そうに笑い合う。
そして、自然とどちらからとも無く瞳を閉じると触れるだけの口付けを何度も何度も交わした。
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