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しおりを挟む煙草を咥えながら理仁はポケットからスマホを取り出すと電源を付ける。
もうすぐ高速を降りて、少し車を走らせれば今回の旅行で予約を取っている宿に着く。
理仁は宿までのルートをスマホで慎重に確認しながら山道の運転等を思い出す。
「あー……急勾配が多そうだな……」
気を付けないと変な所でブレーキを踏んでしまいそうだ。
渋滞の元にはなりたくない、と考えた理仁はしっかりと車のルートを頭に入れた。
調べ物をしながら一服をしてしまっていたせいか、思ったよりも時間が経ってしまっていた事に気付き、理仁は慌てて煙草の火を消すと、スマホをポケットにしまい直して急いで喫煙所の外へと出る。
すると、琴葉も丁度こちらに向かって来ている最中で、琴葉が理仁の姿を見付けて笑顔で小さく手を振っている。
理仁も手を上げて琴葉に笑い返すと、二人で車へと戻って行った。
再び車に乗り直し、目的の宿までゆったりと向かい始める。
「思ったよりも早く着きそうですけど、藤川さん何処か行きたい所あります? それとも宿でゆっくりしますか?」
「んー……、そうですね……。大隈さんもずっと運転していてお疲れでしょう? 私は明日から行きたい所沢山お付き合いしてもらうので、ゆっくりしましょっか」
明日は沢山歩きますよ! と笑う琴葉に、理仁も笑い返す。
「それじゃあ、宿に着いたら荷物置いてダラダラしましょうか?」
「そうですね……あっ、でも一箇所だけ気になる所があって……!」
「ん、何処ですか?」
琴葉ははっ、と行きたい所を思い出したような表情を浮かべると、自分のスマホを取り出して軽く操作し始める。
「宿の近くに、足湯に入れる場所があるみたいなんです。明日沢山歩くし、大隈さんも足疲れちゃってません? もし大丈夫そうでしたらそこ行きましょう?」
「足湯か……、いいですねそれ。一息つけそうです」
「やった! それでしたら、そこ温泉宿なので、駐車場あるみたいです。駐車場に車止めて行きましょう! 場所、ナビしますよ!」
楽しげにそう伝えてくれる琴葉に、理仁は笑顔で頷くと宿に向かう前にそちらに向かう事に決めた。
車を走らせている内に、理仁は社員旅行で見た景色を再びこうして琴葉と一緒に見ている事に何だか不思議な気分になって来る。
(あの時は……飯沼がすげぇはしゃいで……宴会の後も酔い潰れて大変だったんだよな)
けれど、元々社員旅行に参加する予定は無かった理仁だが、社員旅行に参加したお陰で琴葉に土産を買って帰れたし、琴葉も箱根に行きたいと言う事を知れて、こうして今度は琴葉と共に箱根旅行にやってこれる事になり、理仁は何処か感慨深く感じてしまう。
(何処で、何が起きるか分からないもんだな……)
通り過ぎる景色に、「ああ、ここはあいつらと一緒に行ったな」「あそこの飯は美味かったな」と思い出す。
会社で泊まった宿を通り過ぎて、そこで理仁は何の気なしに唇を開いた。
「──ああ、あそこ。俺達の会社が泊まった所ですよ」
「えっ! 本当ですか、立派ですね……! 大隈さんの会社、凄い奮発してくれたんですね、羨ましい……」
「そう、ですかね? 年々参加者が減ってるから、宿くらいは奮発したのかもしれないです」
「それでも、充分ですよ~! うちの会社は、社員旅行とか無いですもん」
「あー……、経営者の好みの違いじゃないですかね? うちの会社は社長が旅行好きなんで、多分会社の社員旅行にかこつけて、自分が行きたい所を行先に決めてるんですよ」
苦笑しながら理仁がそう言うと、琴葉も「職権乱用だ」と笑いながら言葉を返す。
理仁はあの宿の喫煙所で、そう言えば笹野部長と一宮部長と鉢合わせたなぁ、と考えてそこでふ、と違和感を覚える。
「──大隈さん、どうしました?」
理仁が突然黙ってしまった事に不思議な表情で琴葉が話し掛けて来る。
理仁はハンドルを握りながら何かを忘れているような奇妙な感覚になりながら「いや、」と言葉を濁す。
「──何か……、あの宿の喫煙所で誰かに会った気がするんですけど……何か思い出せなくって……」
「ええ? 本当ですか? 会社の人ですかね?」
「いえ……。違うんですよね、飯沼が何か調べてて……」
「誰でしょう……有名人?」
「うーん……SNS調べてたから多分有名人? なんだと思うんですが……駄目ですね、最近物忘れが酷くて」
「ええ、お疲れなんじゃないですか?」
琴葉の言葉に、理仁は苦笑しながら「そうかもしれない」と同意して、目的地に到着して車を止めた。
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