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「──階段、?」

 階段、と言う単語に理仁は首を捻ったまま自分も灰を落として最後に一吸いしてから灰皿に煙草を押し付けて火を消すと喫煙室を出て行く。

 自分の部屋に戻るため、エントランスでエレベーターのボタンを押して扉前で腕を組み待つ。
 上に行ってしまっているエレベーターを待つ間、占い師のお婆さんに言われた言葉を思い出す。

「階段のイメージが強くなってる、って……しかも気を付けろって……」

 確か、その事を言われたのは今日観光に行く前だ。そして、観光に出掛けた先で理仁は自分が沢山の階段を上り下りした事を思い出し、背筋がゾッとする。

「滝があったあの場所……めちゃめちゃ階段多かったんだけど……」

 滝の飛沫が跳ね、濡れている段も沢山あった事を思い出す。
 もしや、この観光中に怪我をする恐れがあるのだろうか、と理仁は考えて到着したエレベーターに乗り込み、自分の部屋がある階数のボタンを押した。



 自分の部屋の階に戻って来た理仁は、カードキーを差し込んで施錠を解くと、そのまま自分の部屋へと入る。

 部屋に戻って来ると、蒲田が呑気な顔で缶ビール片手に「おう」と理仁に手を上げた。

「大隈おかえりー飲もうぜ飲もうぜー」
「……まだ飲むのか? 部屋に戻らないのかよ」

 理仁が呆れたように蒲田に声を掛ければ、蒲田はへらり、と笑みを浮かべて理仁に言葉を返す。

「二次会だろ、二次会。宴会じゃあ、上司達が居るから酒の味を楽しめねえじゃん? 同期同士、たまには仲を深めようぜ!」
「……しょうがねえな」

 理仁は口ではしょうがない、と言いながら蒲田の言う事には一理ある、と頷くといそいそと自分も観光の帰り道で買い込んだ酒を備え付けの冷蔵庫から取り出すと、ついでにつまみの入ったコンビニの袋も手にして蒲田の向かいに腰を下ろしてテーブルを挟む。
 ゴソゴソとコンビニの袋から大量のつまみを取り出すと、そのままテーブルの上に置いて開け出す。

「──そう言えば、俺達の同期の牧田さん居たじゃん?」
「ん、? ああ、あの女の子か。牧田さんがどうした?」
「結婚するから退社するってよー。旦那が家の家業を継ぐからって田舎に帰るんだと」
「へえ。仕事辞めるんだ」
「ああ。だから今度同期飲みしようぜ、って話になってるけど……大隈は……来ないよな……?」
「あー……。うん、悪いな。俺は欠席で」
「りょーかい。まあ、また機会はあるだろうしな」
「ああ。牧田さんにはおめでとうって伝えといてくれ」

 ぽつり、ぽつりと会話をしながら酒とつまみを楽しむ。

 いつの間にか、会話はあっちこっちととっ散らかり脈絡の無い趣味の話しや、蒲田が先日失敗した合コンの話しになったりとしながら時折理仁の笑い声が小さく響く。

「──ふがっ」

 ぽつりぽつりと話していると、突然転がしていた昂太から声が上がり、理仁と蒲田はびくり、と体を跳ねさせて昂太の方へ視線を向ける。

 目が覚めたのだろうか。
 昂太は何やら呻きながら体を動かすと、パチリと瞳を開けた。

「──あ、ずるいっす、先輩達……」
「お前、寝てただろう……」
「いや、ずるいも何も……」

 むくり、と起き出した昂太が未だに眠そうにしながら理仁と蒲田が囲むテーブルに近寄って来ると、テーブルの上に出されていたササミのつまみを掴み、口に運ぶ。

「いつの間に飲み始めてたんすか……、え、あれ? そもそも、俺いつの間に理仁先輩の部屋に……?」

 あれ? と咀嚼しながら周囲をキョロキョロと見回しながら昂太はここが自分の部屋では無い事を確認すると、不思議そうに首を傾げる。
 ササミ食ってから気付くのかよ、と理仁が呆れながら缶ビールの中身を一口煽ると、昂太に向かって唇を開く。

「飯沼、お前宴会中に潰れたから取り敢えずここまで運んで来たんだよ」
「えっ、ええっマジですか!? すみません……っ先輩お二人が運んでくれたんすよね」

 あわあわとし出す昂太に、蒲田は豪快に笑って「気にすんな!」と声を掛ける。

「新人の頃はこう言った失敗も良くあるからな、気にすんな気にすんな!」
「──度々仕出かしてたら最悪だけどな」

 揶揄うような二人の表情と、声音に昂太は眉を下げながら笑うと理仁からミネラルウォーターのペットボトルを手渡されて、有難くその中身を煽った。



 そうして、男三人の二次会は深夜まで続いた。
 翌日は、集合場所からそんなに距離が離れないよう、足湯や土産物屋に行って土産を買いつつ、時間があればその時々に決めて観光しに行こうと言う事にして、酒を飲みつつ気付けば三人共いつの間にか眠りに落ちていた。
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