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◇◆◇

「愚かな真似を……」

 数時間後。

 アレクから知らせを受けたエドワードがタナストン伯爵邸にやって来ていた。
 その場でアレクから事の経緯の詳細を聞き、そして発した第一声がこれである。

「……邸内を隈無く探したが、トーマスも、タナストン伯爵も居なかった……。我が身可愛さにトーマスが伯爵を人質として連れ去ったようだ……」

 アレクはヨードとトーマスを同じ部屋に残してしまった事を悔いるように「すまない」とエドワードに告げるが、エドワードはふるふると首を横に振る。

「叔父上が悪い訳が無い。悪いのは、カートライト大公だ。……我が国で随分勝手な真似をしてくれたものだ……」

 口端を持ち上げ、笑みを浮かべてはいるがその表情からは静かな怒りを感じて、アレクもその場に同席しているフィファナとトルソンも口を噤む。
 ぴりっとした緊迫した空気にフィファナとトルソンが口を噤む中、アレクはエドワードに言葉を返した。

「──陛下は?」

 アレクに問い掛けられたエドワードは一瞬だけ悲しそうな感情を瞳に乗せたが、すぐにその色は消え去り、凛とした表情でアレクに言葉を返した。

「……失脚も時間の問題だ。大公家が行った愚行を知っていながら静観していた……。欲に濡れた王にはもう、国を任せてはおけないだろう」

 ハッキリとそう口にするエドワードに、その場に同席していたフィファナやトルソンはぎょっとしてしまう。
 この国の国王に対して、いくらエドワードが国王の子であり、王太子という身分であったとしても外に今の発言が漏れてしまえば謀反を企てた、として処刑される可能性がある。

(そ、そもそも……っ、もし私たちが国王陛下に忠誠を誓う家門だったら……! 私たちから国王に話が行ってしまう、とお考えにならないのかしら……)

 エドワードとはまだほんの少しだけ会話をしたくらいだ。
 リドティー伯爵家がどんな家門か、フィファナやトルソンがどんな人間かエドワード自身、把握していない筈である。

 フィファナの表情を見たエドワードは、考えが読めたのだろう。
 先程までの厳しい表情はなりを潜め、眉を下げて笑いかけて来た。

「──ふっ、心配しないでくれリドティー伯爵に、リドティー嬢。叔父上から話は聞いている。叔父上が信頼している人物であれば、私も信頼するさ」
「あ、有難いお言葉、痛み入ります……」

 言葉に詰まりながらトルソンが胸に手を当て、エドワードに向かって腰を折る。

 フィファナはエドワードの言葉に有り難さは感じれど、それ以上にアレクが自分達を信頼し、王太子であるエドワードに自分達の事を話していてくれた事。

(それに……、キーティング卿が私たちをそう思って下さっている事が何より嬉しい……)

 フィファナは無意識の内にアレクに視線を向けていて。
 フィファナの視線を受けたアレクは不思議そうに首を傾げたが、フィファナは薄らと微笑みを浮かべてアレクと、エドワードに向かって頭を下げた。



 そうして、エドワードが合流した事により、アレクは昨夜の内にトーマスとヨードの行方を追わせていた事をエドワードに伝えた。
 自分が団長を務める近衛騎士団の人員をトーマスの行方を探させるために手配していた事を告げ、二人を発見出来るならばそろそろだろうと呟いた。

「見付けたらあちらの手に落ちる前に処理しておきたいな……」
「そうだな……。昨夜襲って来た人物も恐らく一緒に行動をしているはず……。リレルは拘束しているし、後の二人を大公の手に渡したくは無い……」
「……タナストン伯爵の身の安全と引き換えに良からぬ取引を持ち出して来そうだしな……。だが、私が直接大公家に向かうには危険がある」
「それは勿論だ。エドワードが捕らえられてしまえばこちらは手も足も出せなくなってしまうだろう」

 無茶を言うのはよしてくれ、と言わんばかりにアレクが表情を歪める。

 アレクが近衛騎士団の面々に指示を出し、後を追わせた結果が到着するまでの間。
 嫌にゆっくりと時間が経つように感じてしまう。

 誰もが早く知らせが来ないだろうか、と思っている中。
 思っていたよりも早く知らせが届いた。
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