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しおりを挟むアレクとヨードと離れたフィファナは、近くで仕事をしている使用人に声を掛けた。
「仕事中ごめんなさい。聞きたい事があるのだけど……少し良いかしら?」
「奥様……! はい、何でしょうか?」
フィファナに話し掛けられた使用人はぱっと振り向き、姿勢を正してフィファナに言葉を返した。
「侍女のナナの姿が見えないのだけれど……。今日はお休みなのかしら?」
「ナナ、ですか? そう言えば……確かにここ数日姿を見掛けておりません」
「──どう言う事……? 見ていないの?」
使用人の言葉を聞き、フィファナの胸に嫌な予感がふわり、と広がる。
そしてフィファナの後ろに居たトルソンの雰囲気も何処かぴりっとした物に変わる。
「──フィファナ。侍女長を探そうか……」
「お父様。……そうですわね。そう致しましょう。ありがとう、私たちは侍女長を探すわ」
「は、はい……! 申し訳ございません……!」
フィファナは侍女長を探すため、くるりと踵を返して姿を探す。
邸玄関付近には姿が見えず、フィファナは何とも言えない嫌な予感に焦る。
「フィファナ、侍女長は普段何処にいるの? 手分けして探した方が良いかしら?」
エラがフィファナの横に来てひそり、と話し掛ける。
手分けをして探す、と言うエラの提案に首を横に振ってからフィファナは口を開いた。
「いえ……やめておいた方が良いわ。私がこの邸を離れる前に、リナリーの部屋を探している時に変な気配を感じたの……。もしかしたらタナストン伯爵家に他の家の人間が入り込んでいる可能性があるからばらばらに動くのは避けた方が良いわ」
「何ですって……? タナストン伯爵はちゃんと状況を把握しているのかしら?」
「他家の者が入りこんでいる事に気付いていない場合も、把握していた場合もどちらも不味い事には変わりないだろう。殿下に合流しよう」
トルソンの言葉にフィファナ達は頷き、先に行っていたアレクの下に急いだ。
フィファナ達より少しだけ前方を歩くアレクとヨードの姿を直ぐに視界に捉えたフィファナは、不自然にならない程度に気をつけながらアレクを呼び止めた。
「──キーティング卿」
「フィファナ嬢? 侍女は見つかったか?」
フィファナの声に反応してアレクがその場に立ち止まってくれる。
その間にフィファナ達はアレクに追いつき、先程使用人から聞いた事を伝えた。
「数日、姿を見ていない……?」
「ええ、そうなのです。なので、侍女長を探している最中なのですが……」
「だ、そうだがタナストン伯爵。侍女長は何処にいる?」
所在なさげに立ちすくんでいるヨードに視線を向け、アレクが問う。
するとヨードは狼狽えるように周囲に視線を向けて侍女長の姿を探しているようで。
「──侍女長、は確か……先程寝具の確認をしていたように思いますが……こちらです」
「分かった、ありがとう。フィファナ嬢、タナストン伯爵が案内してくれるようだからこのまま行こうか」
ヨードの案内に従い、フィファナ達が邸内を進むと程なくして探していた侍女長の姿を見つける。
フィファナはほっと表情を綻ばせ、アレクとヨードに礼を告げると侍女長の下に向かった。
フィファナ達が侍女長の所に向かい、話をしているのを少し離れた場所から見ていたアレクは、これなら問題無く見つかりそうか、と思い自分の顔をヨードに向け直そうとした所で、フィファナに話し掛けられた侍女長の声が聞こえて来た。
「──ナナ、ですか? それが……、二日前から姿が見えなくて、私も困っていたのです奥様……。ナナは真面目な子ですので、無断欠勤など一度も無かったのですが……」
「何ですって……?」
侍女長の言葉を聞くなり、フィファナの顔色がさっと変わる。
「──タナストン伯爵。今すぐリナリーが使用していた部屋に案内してくれ。……本館では無い方だ」
低く重いアレクの声に、ヨードはびくりと体を跳ねさせる。
「リ、リナリーの部屋ですか……? フィファナの侍女の姿が見えない事と、何の関係が……」
「──いいから早くしてくれ」
わけがわからない、と言った様子のヨードに、アレクは舌打ちをしたくなりながら何とかそれを飲み込むと、言葉少なにヨードに告げる。
告げると同時に半歩程前に居たヨードを追い越し、廊下の奥へ奥へと足を進めた。
慌てて後方を着いて来るヨードの気配を感じつつ、アレクはヨードは今回の件とは無関係なのか? と考える。
(カートライト公爵家はタナストン伯爵家の犯した罪を知り脅していたはず……。現当主であるヨード・タナストンはカートライト公爵家とはまだ面識が無い……? 前伯爵夫妻が脅されていて、消された、と言うのか……?)
兎にも角にも、フィファナが探している侍女が無事であれば良いが、とアレクは考えた。
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