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「王太子殿下……!?」

 フィファナとトルソンは慌てて礼をする体勢になるが、王太子であるエドワードは「いい、いい」と笑い声を上げ、二人に座るよう促した。

 恐縮しきってしまうフィファナ達を見て、友人のエラとハリーが苦笑している。
 その様子からフィファナは二人も似たような経験をしたのだろう、と言う事が分かった。

 穏やかな微笑みを浮かべたまま、エドワードはアレクに視線を向ける。

「気軽な食事会だと思ってくれ。気負わず、動揺せず。だが、今日ここで王太子殿下と会った事は内密に」

 アレクの言葉に、室内に緊張感が漂う。
 エドワードは悪戯っぽく笑みを浮かべ、自分の口元に人差し指を当てつつ軽い調子でアレクの後に言葉を続けた。

「そうだな。そうしないと私の首が飛ぶ可能性が出てきてしまうな」

 からからと軽い調子でとんでもない事を話すエドワードに、一同はぎょっとしてしまう。

 王太子の首が飛ぶ、など穏やかでは無い。
 冗談にしてもそんな物騒な事をエドワードが口にする事はありえない。
 その事を理解しているトルソンは事態がとんでもない方向に向かって行ってしまっているのではないか、と不安になって来た。

「先ずは……、フィファナ・リドティー嬢。直接会話をするのは初めてか。叔父から話は聞いているよ。此度の事は災難だったな」
「あ、有難いお言葉痛み入ります。王弟殿下にはとても良くして頂きました」
「リドティー嬢の憂いが解消されたようで良かった。今後とも叔父をよろしく頼む」
「は、はい……!」

 フィファナはエドワードの言葉を恐れ多いとばかりに頭を深く下げながら受け取る。

 にこにこと笑顔を浮かべながら軽い調子で話をするエドワードだが、王族、次期国王とだけありここに居るだけで存在感や声に籠る音の重みにフィファナは緊張で口内がからからに乾いてしまう。

 だが、先程エドワードが口にした「首が飛ぶ」と言う物騒なワード。
 これは一体どう言う事なのだろうか。
 アレクが詳細を調査する、と言って数日。

 カートライト公爵家について、何か進展があったのだろうか、とフィファナとトルソンが考えている内に、予め頼んでいたのだろう。
 食事が運ばれて来て、一旦話が中断した。



 配膳が終わり、各々食べ物をゆっくりと口に運ぶが、正直料理の味が全く分からない。
 フィファナは何とか食べ物を嚥下し、ちらりと友人のエラとハリーに視線を向ける。

(リナリーの事を相談してしまったから、エラとハリーはラティルド男爵家とタナストン伯爵家の事を調べてくれていた……。事件に関係する何かを掴んでしまったのかしら? それとも、両家を調べている事が知られ、キーティング卿にこの食事会に招待されたのかしら……?)

 室内に入室してから、話す余裕が無かった。
 だが、この場にアサートン侯爵家が同席しているという事は、そう言う事だろう。

 フィファナの視線に気付いたのだろう。
 エラがちらり、とフィファナに視線を返し、真剣な表情でこくりと頷く。

(──ああ、やっぱり何かを知ったのね……)

 リナリーの事を相談してしまったばかりに無関係な友人を巻き込んでしまった、とフィファナがしゅんとしていると、配膳された食事を食べ終え、果実酒を楽しんでいたエドワードがぽつりと言葉を零した。

「そうそう、カートライト公爵家……、カートライト大公が独立国家を築く為に独立戦争を企てている事が分かったんだ。様々な貴族家を裏で支配し、国内の貴族達を無力化しようと画策していたようだ」
「──っえ!?」

 あっさりと、まるで今日の天気を語るような呑気な声音で言葉を発したエドワードに、フィファナを初め、トルソンも、エラも、ハリーも衝撃的な言葉に思わず噎せ込んでしまったのだった。
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