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国境の街レゲンダ

閑話  白き騎士も苦悩する

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 ――明日こそは言わねば。

 ランプに照らされたテーブルには、書きかけの手紙と、眉を寄せ苦悩の表情を浮かべる若き騎士。
 国境の街レゲンダにある宿の一室で、バーンズは机に向かい、手紙をしたためていた。
 
「偶然にも伝手ができたのは僥倖だった」

 背もたれに寄りかかれば椅子はギシと悲鳴を上げる。バーンズは記憶を探ろうと天井を見た。

 命令でレゲンダに来たバーンズは、自分のイメージを植え付けるために行ったバーでライラにあった。
 軍服のような折り襟でパンツ姿のライラを初見で男と見誤ったのは事実だった。
 顔も中性的だが整っていた。煙草のにおいを纏わせていた。男にしては身長が低いと思ったが、すらりとした体型が男らしくも見えた。
 正直、カッコイイと思った。

「……まさかなぁ」

 その後のことを思い出し、バーンズの頬は赤くなる。
 彼は騎士である。王都では、女性からとても人気がある男だった。端正な顔、しまった体、そして騎士という地位。
 だが生真面目なバーンズにとって、女性との一夜は初めてだった。閨を共にするのは伴侶のみと、心に決めていたのだ。
 だが怒ったライラに逆に押し倒されてしまった。酒が入っていたのは事実だが、女性を力で押しのけるなどできなかったバーンズは、そのまま行為に至ってしまった。
 初めてだったからこそ、衝撃が大きすぎた。欲望を抑えきれず、暴走もした。翌朝ライラに平手打ちをくらい、自らを律せぬ未熟さと懺悔にへこたれた。
 
「っと、早く仕上げよう」

 頭からその時の情景を拭い去るように頭を振った。そしてペンを持ち、書きかけの手紙に向き合う。

「手がかりと、協力してくれそうな人物を見つけることができました、と」

 バーンズはブツブツと書いた内容を復唱しながらペンを滑らせていく。そして書き上げたからかペンを紙から離し、ふぅと小さい息を吐いた。

「後はこれを連絡員に渡してっと――」

 手紙の内容に目を走らせていたバーンズが、む、と口を曲げた。むむむっと声を出し「これ書いたら、おまえ何しにそこへ行った!って怒られるかなぁ……」と首をかしげた。
 そしてもう一度手紙にペンを走らせた。

「……その人物を取り込む為に経費がかさむかもしれませんっと。よし、建前はこれで大丈夫かな」

 バーンズはにっと笑みを作り、手紙を便箋に入れしっかりと封蝋した。
 両手をぐっと伸ばし「明日もどっかに引き回されるんだろうなぁ……」とうんざりな顔をする。
 レゲンダを取り仕切っている参謀のミューズは、バーンズをあっちへこっちへと時間稼ぎのように連れまわしているのだ。接待のごとく若い女性の事務員を伴ってだ。
 彼女が、あからさまに体を寄せて接触してくるのでバーンズは嫌気がさしていたのだ。

「ライラさんみたくさっぱりしてる方が、一緒にいて楽だ」

 がたっと椅子から立ち上がりふわぁーとあくびをする。

「あしたこそは」

 ――協力して欲しいって言わないとな。

 バーンズはベッドに横になった。




 翌朝、徐々に騒がしくなっていくレゲンダの大通りを、バーンズは昨晩認めた封筒を持ち、ゆっくり歩いていた。
 周囲の視線を気にしつつも呑気な空気を醸し出すべく、なるべくゆっくり行動するのだ。
 彼が向かう先は商隊の馬車だ。幌のかかった馬車に向かい、バーンズは歩く。

「おはよう」

 バーンズは馬車で品出しの準備をしていた若い男に声をかけた。
 彼はバーンズを確認すると視線を周囲に走らせた。

「……お疲れっす」
「どう、変わりない?」
「緊張感の欠片もなくって拍子抜けですよ」
「まぁ、これからだからさ。おっと、これを王都まで頼む」

 バーンズは封筒を差し出した。若い男は素早くその封筒を手にした。

「鳥に運ばせます。今日中には届くかと」
「助かるよ。あ、そうそう、煙管の良いのを確保しといてくれるかな?」
「……卿は嗜まれてましたっけ?」
「いや、賄賂にね」

 バーンズがにっと笑顔を見せるとその若い男は「なるほど」と肩をすくめ返した。
 彼が一服盛られる、数日前の話である。
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