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第二章 乗っ取られた国

66 ………許さない

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 「……………?」
 
 コノハはふと目が覚めた。だからといってまだ寝たり無いようで、瞼がまだ重い気がする。
 
 何か胸騒ぎがする。
 そう感じて横を見ると、メリアローズとアーシャが両側でスヤスヤと寝ていた。
 道理であの大きいベットが狭く感じるはずだ。
 
 (…………)
 
 そもそもジークの腕の中で寝落ちしてしまった彼女はベットに入った記憶も無い。
 ジークの話を途中までしか記憶しておらず、あやふやだ。
 二人はそばにいたが、ジークはどこにも見当たらない。
 
 (……あ、教皇の様子も見に行かなきゃ)
 
 あのまま放置されていれば、そろそろ眠りの魔法が切れる頃だ。暴れられても困る。
 はてなマークを浮かべながらも静かにベットから降り、ドアノブに手を掛けたとき。
 
 (────!?)
 
 その瞬間、今まで感じていなかった悪意の持った気配があることに気づいた。
 さっきまでの眠たげな少女は何処へやら。一気に目が覚めたコノハは、落ち着くために一旦ドアノブから手を離す。
 すると、不快な気配が一瞬で感じられなくなった。
 
 (どういうこと────?)
 
 アメジストの瞳を少し大きくして驚いた彼女は、すぐに『探査』の魔法を展開する。
 ドアノブに触れていないと自分と二人の気配しか感じられないが、触れてみるとどうなるか。
 意を決して展開した状態で触ったコノハは多くの異常を感じ取った。
 
 「………っ!?」
 (……この部屋を覆っている結界がある……これのせいで分からなかったのか……あと、家を覆う『第1結界』の消滅…『第2結界』は『第1』が壊れた時の予備だったのに発動していない?何で?……それからリビングに気配が…一、二、……六人か。二人はジークと教皇だとして……って何かおかしい。二人ともこんなに気配小さかったっけ?)
 
 恐らく侵入者が仕掛けたこの結界のせいで分からなくなっていたのだろう。
 それに、『第1結界』が消滅させられていることから向こうに魔法使いがいることがわかる。しかも手練。
 結界の破壊と消滅では難易度、魔力量、その他含めても後者が前者を上回る。
 似ているようで非なるものなのだ。
 
 もしものため、彼女はベットの側にあったマジックボックスから自作ローブを取り出す。
 フードも被りしっかり銀髪を隠して。
 
 そして、一番問題なのはジークと教皇の気配が昨日感じたものよりも遥かに小さいということだ。
 それは命が削られているのと同義である。
 つまり、侵入者に襲われている可能性。
 
 (………まずい)
 
 つぅと背中に冷や汗が流れる。
 これは、まずい。
 
 そう考えたコノハは後先考えずにドアを開けた。
 
 
 まず目に入ったのは足下に流れる恐ろしいほどに赤い血溜り。その横に倒れるジーク。頭と腹から血を止めどなく流し、意識がない。
 
 「っ!?」
 
 すぐに駆け寄り、死んでないことを確認する。気配で危機的状況、つまり死んでないことは分かっていたのだが、こうしないと安心できなかった。
 死んでなければまだ可能性はある。『治療』の魔法を素早く掛けて、
 
 後ろから迫ってきた剣を反射的にジークの側にあった短剣で、見もせず気配だけで弾いた。
 
 コノハはくるりと立ち上りながら振り返ると、その侵入者をギロリと睨む。
 
 その黒髪の男は少し驚いたように目を見開いた。自分の剣が簡単に弾かれたことが意外だったらしい。
 
 「………貴方がこんなことを?」
 
 だが、正直彼女はそんなことどうでも良かった。
 ジークが傷つけられた、それが問題点だ。
 
 男は喋らない。それどころかコノハから視線を反らし、仲間の方へ向かっていく。
 その行動が予想外で、ただでさえ頭に血が上って思考がうまく働かないため、ストップしてしまう。
 
 「なっ………」
 
 彼女が呆然とする中でも男はそのまま行ってしまう。
 その視界の中に、床に何かを描いてる女がいた。
 彼女はふっと顔を上げると、
 
 「準備できたよぉ、さっさと帰りましょー、ノルヴィツ。口封じも出来たしぃ。目的の物も手に入ったしねぇ」
 
 と間のびした声で言った。
 その手にはただ真っ黒な色の魔石がついたネックレスが握られている。
 
 はっ、とやっと我に返ったコノハは、彼らの方に駆け寄ったが。
 それ彼女の様子を見た女は、何が面白いのかニヤリと笑って呪文を口にした。
 
 「『転移』」
 
 その言葉と共に、彼らの姿は蜃気楼のように消えた。
 
 まるでそこに最初から居なかったように──
 
 「…………転移……?」
 
 あとに残されたコノハは、彼らがいた場所を食い入るように見つめ、呆然と呟いた。
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