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第四章
第11話 女ともだち
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祥子と直子は銀座の路地裏にある、小さな焼鳥屋で呑んでいた。
「大将、熱燗もう一本ちょうだい」
祥子は杉田から貰った銀のシガレットケースを開くと、直子にも煙草を勧めた。
「私はいいわ」
「そう」
祥子はタバコを1本取り出すと、カルチェの赤いライターで火を点け、薄っすらと煙を吐いた。
「このシガレットケースとライター、社長から貰った物なの。どう? いいでしょう?」
「愛されているのね? 杉田さんから」
「直子は彼から何を貰ったの?」
直子はコップ酒を呷って言った。
「私は物じゃなく、希望を貰った。
生きる希望を・・・」
「希望かあ? なんだかムカつく。
物じゃなく、それはお金では買えない物だから」
祥子はネギ間を食べ、熱燗を飲んだ。
「私は愛人のままで十分しあわせなの。彼を独り占めしようなんて思わないわ」
直子は日本酒からレモンサワーに変えた。
「この前の記者会見の夜、私、杉田に抱かれたわ」
「嘘つき」
「知らなかった? 私は嘘吐きよ。
直子のせいよ、私を嘘吐きにさせたのは。
アンタが会社を辞めてまで彼を愛そうとしたから、だから私、気が変わったの」
「でも祥子なら許す」
「それはどうも」
「どうして惹かれちゃうんだろうね? 彼に」
「あんなに浮気者なのにね?」
「祥子はわかっているんでしょう? 杉田さんと付き合いが長いから」
「直子と同じよ。私たちの恋愛は、恋じゃなくて愛だから」
「あんなにスケベなオヤジなのにね?」
「そうそう。でも惚れちゃうんだよねえー」
「仕事をしている時の彼は別人だもんね?
仕事をしている時の鋭い眼差し、血管の浮き出たゴツゴツとした大きな手。
口は悪いけどやさしい人・・・」
「そして寂しがり屋さんで、時々すごく悲しそうな眼をしている・・・」
「守ってあげたくなるのよねー」
「癒してあげたくなる」
祥子はタバコをふかした。
「でも安心して、杉田とは約束したから」
「どんな約束?」
「もうエッチはしないという約束」
「別にすればいいのに。好きなんでしょう? 彼のことが?」
「好きよ、直子よりもずっとずっと大好き!」
「私はもっともっともっと大好き!」
「いいわね? 直子は?」
「どうして?」
「彼と適度な距離感があるから。私はダメ、奥さんよりも一緒にいる時間が長いから。
愛人というより妹ね?」
「近親相姦じゃないの? 変態!」
「杉田に言われたの、「お前は俺の会社での女房だ」って。うれしかった」
「会社での奥さんかあー。なんだか羨ましいなあー」
「私は直子が羨ましい。私は杉田が好きだけど会社も好き。だから彼とはSEXはしないと決めたの。彼と会社を守るために」
「そういう祥子、嫌いじゃないよ。寧ろ好き」
「あらやだ、私はノーマルよ。男が好きだもん」
「女同士もいいものよ」
「直子ってレズなの?」
「嘘よ。祥子が嘘吐いたからそのお返し」
「もう、ビックリさせないでよねえ」
その時、直子が祥子に軽くキスをした。
「会社と彼をよろしくね?」
「直子、愛人ナンバーワンになってよね?」
「もちろん!」
「おじさん、お酒、もう一本!」
「私もお替わりー」
「あいよ」
ふたりは夜更けまで飲んだ。楽しい酒だった。
「じゃあ気を付けて帰ってね?」
「祥子もね?」
「また飲もうね?」
「もちろん!」
直子は祥子と別れてからすぐ、杉田に電話をした。
杉田はすぐに電話に出た。
「どうした?」
「さっきまで田子倉さんと飲んでたの。銀座の焼鳥屋さんで」
「そうか? 大分ご機嫌だな?」
「会いたい、今すぐに」
「まだ銀座か?」
「うん」
「1時間でそっちに行くから『銀次』で待ってろ」
「待ってる。ねえ?」
「何だ?」
「愛してる?」
「当たり前だ」
「当たり前じゃなくて、愛してるって言って」
「そんなこと、軽々しく言うもんじゃねえだろう? 価値が下がる」
「いいから言って! お願い!」
「月がキレイだな?」
「馬鹿! ふざけないで!」
「後で言うよ」
「ダメ、今言って!」
「愛してるよ・・・、直子」
「嘘でもうれしい・・・。
じゃあ、待ってる」
「気を付けてな」
直子は泣きながら『銀次』へと向かった。
深夜の銀座の並木通りには、夜の女の香りがした。
「大将、熱燗もう一本ちょうだい」
祥子は杉田から貰った銀のシガレットケースを開くと、直子にも煙草を勧めた。
「私はいいわ」
「そう」
祥子はタバコを1本取り出すと、カルチェの赤いライターで火を点け、薄っすらと煙を吐いた。
「このシガレットケースとライター、社長から貰った物なの。どう? いいでしょう?」
「愛されているのね? 杉田さんから」
「直子は彼から何を貰ったの?」
直子はコップ酒を呷って言った。
「私は物じゃなく、希望を貰った。
生きる希望を・・・」
「希望かあ? なんだかムカつく。
物じゃなく、それはお金では買えない物だから」
祥子はネギ間を食べ、熱燗を飲んだ。
「私は愛人のままで十分しあわせなの。彼を独り占めしようなんて思わないわ」
直子は日本酒からレモンサワーに変えた。
「この前の記者会見の夜、私、杉田に抱かれたわ」
「嘘つき」
「知らなかった? 私は嘘吐きよ。
直子のせいよ、私を嘘吐きにさせたのは。
アンタが会社を辞めてまで彼を愛そうとしたから、だから私、気が変わったの」
「でも祥子なら許す」
「それはどうも」
「どうして惹かれちゃうんだろうね? 彼に」
「あんなに浮気者なのにね?」
「祥子はわかっているんでしょう? 杉田さんと付き合いが長いから」
「直子と同じよ。私たちの恋愛は、恋じゃなくて愛だから」
「あんなにスケベなオヤジなのにね?」
「そうそう。でも惚れちゃうんだよねえー」
「仕事をしている時の彼は別人だもんね?
仕事をしている時の鋭い眼差し、血管の浮き出たゴツゴツとした大きな手。
口は悪いけどやさしい人・・・」
「そして寂しがり屋さんで、時々すごく悲しそうな眼をしている・・・」
「守ってあげたくなるのよねー」
「癒してあげたくなる」
祥子はタバコをふかした。
「でも安心して、杉田とは約束したから」
「どんな約束?」
「もうエッチはしないという約束」
「別にすればいいのに。好きなんでしょう? 彼のことが?」
「好きよ、直子よりもずっとずっと大好き!」
「私はもっともっともっと大好き!」
「いいわね? 直子は?」
「どうして?」
「彼と適度な距離感があるから。私はダメ、奥さんよりも一緒にいる時間が長いから。
愛人というより妹ね?」
「近親相姦じゃないの? 変態!」
「杉田に言われたの、「お前は俺の会社での女房だ」って。うれしかった」
「会社での奥さんかあー。なんだか羨ましいなあー」
「私は直子が羨ましい。私は杉田が好きだけど会社も好き。だから彼とはSEXはしないと決めたの。彼と会社を守るために」
「そういう祥子、嫌いじゃないよ。寧ろ好き」
「あらやだ、私はノーマルよ。男が好きだもん」
「女同士もいいものよ」
「直子ってレズなの?」
「嘘よ。祥子が嘘吐いたからそのお返し」
「もう、ビックリさせないでよねえ」
その時、直子が祥子に軽くキスをした。
「会社と彼をよろしくね?」
「直子、愛人ナンバーワンになってよね?」
「もちろん!」
「おじさん、お酒、もう一本!」
「私もお替わりー」
「あいよ」
ふたりは夜更けまで飲んだ。楽しい酒だった。
「じゃあ気を付けて帰ってね?」
「祥子もね?」
「また飲もうね?」
「もちろん!」
直子は祥子と別れてからすぐ、杉田に電話をした。
杉田はすぐに電話に出た。
「どうした?」
「さっきまで田子倉さんと飲んでたの。銀座の焼鳥屋さんで」
「そうか? 大分ご機嫌だな?」
「会いたい、今すぐに」
「まだ銀座か?」
「うん」
「1時間でそっちに行くから『銀次』で待ってろ」
「待ってる。ねえ?」
「何だ?」
「愛してる?」
「当たり前だ」
「当たり前じゃなくて、愛してるって言って」
「そんなこと、軽々しく言うもんじゃねえだろう? 価値が下がる」
「いいから言って! お願い!」
「月がキレイだな?」
「馬鹿! ふざけないで!」
「後で言うよ」
「ダメ、今言って!」
「愛してるよ・・・、直子」
「嘘でもうれしい・・・。
じゃあ、待ってる」
「気を付けてな」
直子は泣きながら『銀次』へと向かった。
深夜の銀座の並木通りには、夜の女の香りがした。
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