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第四章

第10話 もうひとりの娘

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 遥からLINEが届いた。


   パパ 回転寿司を
   ごちそうして

            いいぞ 今どこだ?

   パパの会社の近く

            迎えに行ってやるから
            待ってろ

   はーい♡



 俺は遥を角田の運転する社用車ですぐに迎えに行った。

 「乗りなさい」
 
 高校の制服を着た遥はアイドルのようで、かなり目立っていた。

 「忙しいのにごめんなさい。どうしてもパパの顔が見たくなっちゃって」
 「ごめんな? メシにも誘ってやれずに。
 19時までは時間があるから大丈夫だ。鮨なら回らねえ鮨屋でもいいぞ」
 「ううん、回るお寿司でいいの。一度パパと行きたかったんだ」
 「そうか? 角田、一番近い回転寿司屋に頼む」
 「かしこまりました」



 店は夕方ということもあり、混んでいた。
 俺と遥は並んでカウンターに座った。
 遥はうれしそうだった。


 「私、回転寿司って大好き!
 安いし、いろんな物が流れてくるからワクワクしちゃう。
 茶碗蒸し、食べてもいい?」
 「好きな物を食え」
 「パパは?」
 「俺も頼む」
 「すいませーん、茶碗蒸し2つ下さーい!」


 子供たちがまだ小学生の頃までは、回転寿司にもよく連れて行ったが、大きくなってからは外で一緒にメシを食うこともなくなっていた。
 俺は旨そうに寿司を頬張っていた華蓮や信吾を思い出していた。

 「はいパパ、お茶どうぞ」
 「おお、ありがとう」
 「ママも誘ったんだけど、ママ、今日は残業だからよろしくって言ってた。
 今日はパパを独り占めだね?」
 「今日は遥とデートだな? さあ、どんどん食べろ。腹減っただろう?」
 「じゃあ遠慮なく」

 遥はマグロに手を伸ばした。
 
 「パパもマグロ、食べる?」
 「ああ」

 遥はマグロの皿をふたつ取ると、ひとつを俺の前に置いてくれた。

 「はい、どうぞ」
 「ありがとう」

 俺は少し照れ臭かった。
 遥を本当の自分の娘のように感じていたからだ。

 「この前のパパ、すごく格好良かったよ。ママとふたりで泣いちゃった」
 「ママは元気か?」
 「うん、毎日がんばってるよ」
 「そうか?」
 「でもね、パパに会えなくて寂しそう。
 時間が出来たらママを旅行に連れて行ってあげて欲しいなあ」
 「遥も一緒にな?」
 「私はいいよ、お邪魔だから」
 「そんなことはねえよ、俺たちは家族じゃねえか?」
 
 遥の箸が止まった。
 遥は泣いていた。
 遥は紙のおしぼりを取り、涙を拭いた。

 「・・・うれしい・・・」
 「お前たちは俺の家族だ。たとえ離れていてもな?
 いいからたくさん食え。イカ、好きか?」
 「うん」

 今度は俺がイカの皿をふたつ取り、ひとつを遥に渡した。

 「ほら」
 「ありがとう、パパ」
 「今度は沖縄にでも行くか?」
 「飛行機で?」
 「電車じゃ行けねえだろう?」
 「そうだね? あははは」

 その後、俺と遥はまるで父娘のように寿司を食べ、締めにはプリンを頼んだ。



 店を出ると、角田が外で待っていてくれた。
 どうやら寿司屋の近くをグルグルと回っていてくれたようだった。

 「駅まで送ってやるから乗りなさい」
 「大丈夫だよ、近くに地下鉄もあるし」
 「そうか?」

 俺は財布から1万円を取り出し、遥に渡そうとしたが遥はそれを受け取ろうとはしなかった。
 遥はいつも、俺からのカネを拒む。

 「いいよ、私もバイトしてお金あるから」
 「遠慮するな、帰りに本でも買え。お母さんによろしくな?」

 俺は無理矢理、遥にカネを渡した。

 「ありがとうパパ。今日はごちそうさまでした。
 すごく美味しかった」
 「腹が減ったらいつでも連絡しろよ。
 仕事がなければごちそうしてやるからな?」
 「ありがとうございます。今度はママと一緒にね? 家族で」
 「ああ、家族でな?」

 俺は手を振りながら雑踏に紛れて遠ざかっていく遥を見送った。
 角田もクルマから降りて遥に頭を下げた。

 「社長、いいお嬢さんですね?」
 「角田、お前は出来たドライバーだよ」
 「社長の運転手ですから」
 「そうだな? あはははは」

 角田と俺は笑った。

 角田は娘の花蓮を知っていた。
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