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第2話
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土木作業のアルバイトでも、みんな驚くほど親切にしてくれました。
いつものように、支給された冷えたお弁当をポツンとひとりで食べていると、
「おい、城山。こっちに来て俺たちと一緒に食えよ、そんなところで寂しく食ってないでよお」
勉君は何かまた虐められるのかと、ビクビクしながら作業員さんたちの輪の中に入って行きました。
「お前、深夜のコンビニでもバイトしてるんだってなあ? すげえよ、たいしたもんだ。
困ったことがあればいつでも俺たちに言えよ」
現場の親方さんはそう言うと、勉君にペットボトルの温かいお茶をくれました。
「ほら、飲め。温ったまるぞ」
「いいんですか? こんなの貰っても?」
すると作業員の皆さんが笑いました。
「お茶ぐらいでかしこまるなよ、貰っておけ、親方がくれるってんだから」
するとモロゾフ大尉が耳元で囁きました。
「もらっちゃいなさいよ、ツトム君。折角くれるとおっしゃるんですから」
勉君は親方さんにお礼を言って、素直にお茶を受け取りました。
「ありがとうございます、親方」
親方さんは満足そうに頷きました。
作業中、徳田さんも別人のように優しくなっていました。
「セメントは1体ずつでいいからな?
無理すんな、腰を痛めるぞ。
俺は慣れてるから大丈夫だけどな?」
そう言って徳田さんはひょいとセメント袋を2つ担いで笑っていました。
今日はコンビニのバイトがお休みの日だったので、勉君は久しぶりに寛ぐことが出来ました。
テレビのお笑い番組を見て、笑いながら氷の入った水道水を飲んでいると、簡易テーブルの上にモロゾフ大尉が現れました。
「よかったですね? みんなやさしくしてくれて」
「ありがとう。モロゾフさんのお陰なんですよね?」
「まあ、それが『ガンバ隊』の仕事ですから。
ああ、それから3つ、注意事項がございます。メモのご用意はよろしいですか?
まずひとつは、
人に親切にすること
そして、
嘘は吐かないこと
そして最後は、
いつも笑顔でいること
この3つは絶対にお守り下さい。
これを破ってしまうと、私はツトム君のところから去らねばなりません。
まあ、ツトム君の場合、「親切」と「嘘は吐かない」は大丈夫でしょうが、問題は笑顔です。
ツトム君はあまり笑ったことがありませんからねえ」
モロゾフ大尉は眉間に皺を寄せました。
「僕は笑顔が苦手なんだよ。
僕、あまり笑ったことがないから」
「さっきはナイツさんの漫才を見て、あんなに笑っていたじゃないですか? あの感じですよ、あの感じ」
「あれはナイツのお笑いが面白いからだよ。
楽しい事がないと笑えないよ」
「ツトム君、それは違います。
楽しいから笑うんじゃないんです、笑うから楽しくなるのです。
楽しくしてもらうのを待っていちゃダメです。
自分で楽しくするんです! ほら、笑って下さい!」
ツトム君は笑おうとするのですが、ヘンな顔になってしまいます。
「ツトム君、無理しても笑うことです。
そうすればいつかそれが習慣になりますから。
笑顔には幸福を引き寄せる力があるのです」
「楽しいから笑うんじゃなくて、笑うから楽しくなるんだね?」
「その通りです!
だってそうでしょう? 暗くて陰気な人に人は集まりませんからね?
幸運は人が運んで来るものです。だから幸せを運と書いて「幸運」なんです」
「わかったよ、僕、やってみるよ」
ツトム君は笑顔を絶やさないように努力しました。
すると色んな人から声を掛けられるようになりました。
微笑みながらパン屋さんの前を通り掛かると、焼き立てのパンのいい香りがしていました。
するとお店の中から出て来たパン屋さんのおばさんに声を掛けられました。
「おはよう! ねえ、パン食べない?」
「僕、お金がないので、また今度、買いに来ます。
すみません」
ツトム君はそう言って微笑みました。
「誰も買ってなんて言ってないわよ。間違って作り過ぎちゃったからさあ、持っていかない? このパン」
それは焼き立てのおいしそうな葡萄パンでした。
「いいんですか? こんなにたくさん!」
「いいの、いいの、貰ってちょうだい」
するとツトム君の肩にちょこんと乗ったモロゾフ大尉が言いました。
「ほらね? 笑顔でいるとこんないいこともあるんですよ」
「ホントだね? 僕、いろんな人から話し掛けられるようになったよ」
「ツトム君、しあわせも不幸も人が運んで来るものなのです。
まずは孤独にならないことです。
部屋に閉じ篭っていてはしあわせも災難もやって来ませんからね?」
「しあわせはいいけど災難はいやだよ」
「そうではありません。大変なことは誰にでも起きることです。
そこにヒントがあり、学びが隠されているのです。
人生は良いことも大変なこともワンセットなのです。
コインのように表裏一体なのです」
「良いことだけでいいじゃないの?」
「良いことばかりでは人間は成長出来ません。
人は魂を磨くためにこの世に生まれて来たのですから」
「じゃあ僕の人生は磨いてばかりだね?
親もなく、辛いことばかりだもん」
「ほらほらダメですよ、暗くなってはいけません!
笑顔笑顔!
ツトム君が大変なことばかりだったのは、そういうところが原因なんです。
いじけたり拗ねたり、嘆いたりしてはダメです。
折角人間に生まれることが出来たのですから。
これはチャンスなんです、人間としてのランクをあげるためのね?
ツトム君は前世で悪いことばっかりしていました。
人をイジメたり苦しめたり、嘘を吐いたり、ハンデのある人を馬鹿にしていました。
だからこの世ではどん底からのスタートなんです。
でも悲しまないで下さい。ここからがしあわせの階段への入口なのですから。
そのために私が派遣されたのですから。
ツトム君のしあわせを応援するために!」
「そうなんだね? ヨロシクね? 大尉」
「Yes,sir ! よろこんでお仕えさせていただきます!」
「モロゾフさんも食べる? パン」
ツトム君は貰った葡萄パンをちぎって、モロゾフ大尉に渡しました。
「モグモグ うん、おいしいですね? この葡萄パン!」
「そうだね? あのパン屋さんのおばさんに感謝だね?」
「今、ツトム君、すごく素敵なことを言いました!」
「感謝?」
「そうなんです! それ、ボーナスポイントなんです!
感謝してありがとうって言って、一生懸命努力する。
すると『ガンバ隊』からボーナスが支給されるシステムになっているんです。
今ので100ハッピーが加算されました!」
「じゃあいつも感謝って言っていればいいの?」
「そうではありません。感謝は言うのではなく、「感じる」ことです。
ツトム君が評価されたのは、素直に「こんなにおいしいパンをいただけて、ありがたいなあ」という「感謝の気持ち」があったからです。
それを忘れずにどんどん参りましょう!」
「うん!」
ツトム君は少しずつ、生きる勇気が湧いて来ました。
いつものように、支給された冷えたお弁当をポツンとひとりで食べていると、
「おい、城山。こっちに来て俺たちと一緒に食えよ、そんなところで寂しく食ってないでよお」
勉君は何かまた虐められるのかと、ビクビクしながら作業員さんたちの輪の中に入って行きました。
「お前、深夜のコンビニでもバイトしてるんだってなあ? すげえよ、たいしたもんだ。
困ったことがあればいつでも俺たちに言えよ」
現場の親方さんはそう言うと、勉君にペットボトルの温かいお茶をくれました。
「ほら、飲め。温ったまるぞ」
「いいんですか? こんなの貰っても?」
すると作業員の皆さんが笑いました。
「お茶ぐらいでかしこまるなよ、貰っておけ、親方がくれるってんだから」
するとモロゾフ大尉が耳元で囁きました。
「もらっちゃいなさいよ、ツトム君。折角くれるとおっしゃるんですから」
勉君は親方さんにお礼を言って、素直にお茶を受け取りました。
「ありがとうございます、親方」
親方さんは満足そうに頷きました。
作業中、徳田さんも別人のように優しくなっていました。
「セメントは1体ずつでいいからな?
無理すんな、腰を痛めるぞ。
俺は慣れてるから大丈夫だけどな?」
そう言って徳田さんはひょいとセメント袋を2つ担いで笑っていました。
今日はコンビニのバイトがお休みの日だったので、勉君は久しぶりに寛ぐことが出来ました。
テレビのお笑い番組を見て、笑いながら氷の入った水道水を飲んでいると、簡易テーブルの上にモロゾフ大尉が現れました。
「よかったですね? みんなやさしくしてくれて」
「ありがとう。モロゾフさんのお陰なんですよね?」
「まあ、それが『ガンバ隊』の仕事ですから。
ああ、それから3つ、注意事項がございます。メモのご用意はよろしいですか?
まずひとつは、
人に親切にすること
そして、
嘘は吐かないこと
そして最後は、
いつも笑顔でいること
この3つは絶対にお守り下さい。
これを破ってしまうと、私はツトム君のところから去らねばなりません。
まあ、ツトム君の場合、「親切」と「嘘は吐かない」は大丈夫でしょうが、問題は笑顔です。
ツトム君はあまり笑ったことがありませんからねえ」
モロゾフ大尉は眉間に皺を寄せました。
「僕は笑顔が苦手なんだよ。
僕、あまり笑ったことがないから」
「さっきはナイツさんの漫才を見て、あんなに笑っていたじゃないですか? あの感じですよ、あの感じ」
「あれはナイツのお笑いが面白いからだよ。
楽しい事がないと笑えないよ」
「ツトム君、それは違います。
楽しいから笑うんじゃないんです、笑うから楽しくなるのです。
楽しくしてもらうのを待っていちゃダメです。
自分で楽しくするんです! ほら、笑って下さい!」
ツトム君は笑おうとするのですが、ヘンな顔になってしまいます。
「ツトム君、無理しても笑うことです。
そうすればいつかそれが習慣になりますから。
笑顔には幸福を引き寄せる力があるのです」
「楽しいから笑うんじゃなくて、笑うから楽しくなるんだね?」
「その通りです!
だってそうでしょう? 暗くて陰気な人に人は集まりませんからね?
幸運は人が運んで来るものです。だから幸せを運と書いて「幸運」なんです」
「わかったよ、僕、やってみるよ」
ツトム君は笑顔を絶やさないように努力しました。
すると色んな人から声を掛けられるようになりました。
微笑みながらパン屋さんの前を通り掛かると、焼き立てのパンのいい香りがしていました。
するとお店の中から出て来たパン屋さんのおばさんに声を掛けられました。
「おはよう! ねえ、パン食べない?」
「僕、お金がないので、また今度、買いに来ます。
すみません」
ツトム君はそう言って微笑みました。
「誰も買ってなんて言ってないわよ。間違って作り過ぎちゃったからさあ、持っていかない? このパン」
それは焼き立てのおいしそうな葡萄パンでした。
「いいんですか? こんなにたくさん!」
「いいの、いいの、貰ってちょうだい」
するとツトム君の肩にちょこんと乗ったモロゾフ大尉が言いました。
「ほらね? 笑顔でいるとこんないいこともあるんですよ」
「ホントだね? 僕、いろんな人から話し掛けられるようになったよ」
「ツトム君、しあわせも不幸も人が運んで来るものなのです。
まずは孤独にならないことです。
部屋に閉じ篭っていてはしあわせも災難もやって来ませんからね?」
「しあわせはいいけど災難はいやだよ」
「そうではありません。大変なことは誰にでも起きることです。
そこにヒントがあり、学びが隠されているのです。
人生は良いことも大変なこともワンセットなのです。
コインのように表裏一体なのです」
「良いことだけでいいじゃないの?」
「良いことばかりでは人間は成長出来ません。
人は魂を磨くためにこの世に生まれて来たのですから」
「じゃあ僕の人生は磨いてばかりだね?
親もなく、辛いことばかりだもん」
「ほらほらダメですよ、暗くなってはいけません!
笑顔笑顔!
ツトム君が大変なことばかりだったのは、そういうところが原因なんです。
いじけたり拗ねたり、嘆いたりしてはダメです。
折角人間に生まれることが出来たのですから。
これはチャンスなんです、人間としてのランクをあげるためのね?
ツトム君は前世で悪いことばっかりしていました。
人をイジメたり苦しめたり、嘘を吐いたり、ハンデのある人を馬鹿にしていました。
だからこの世ではどん底からのスタートなんです。
でも悲しまないで下さい。ここからがしあわせの階段への入口なのですから。
そのために私が派遣されたのですから。
ツトム君のしあわせを応援するために!」
「そうなんだね? ヨロシクね? 大尉」
「Yes,sir ! よろこんでお仕えさせていただきます!」
「モロゾフさんも食べる? パン」
ツトム君は貰った葡萄パンをちぎって、モロゾフ大尉に渡しました。
「モグモグ うん、おいしいですね? この葡萄パン!」
「そうだね? あのパン屋さんのおばさんに感謝だね?」
「今、ツトム君、すごく素敵なことを言いました!」
「感謝?」
「そうなんです! それ、ボーナスポイントなんです!
感謝してありがとうって言って、一生懸命努力する。
すると『ガンバ隊』からボーナスが支給されるシステムになっているんです。
今ので100ハッピーが加算されました!」
「じゃあいつも感謝って言っていればいいの?」
「そうではありません。感謝は言うのではなく、「感じる」ことです。
ツトム君が評価されたのは、素直に「こんなにおいしいパンをいただけて、ありがたいなあ」という「感謝の気持ち」があったからです。
それを忘れずにどんどん参りましょう!」
「うん!」
ツトム君は少しずつ、生きる勇気が湧いて来ました。
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