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第5話

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 家に帰り、美沙子からのLINEを開いた。


   ママ友たちと『水山』
   のとんかつ食べてまー
   す
   ママ友のセフレ君の話
   を聞いて私のセフレ君
   を思い出しちゃった
   セフレ君 今どこ? 
   凄く会いたい
   迎えに来て! 
   今すぐ!

 
   どうしたの? 
   お返事は?

   早く迎えに来い! 
   バカバカ

   もういい アンタな
   んか大っ嫌い!

   お世話しました! 
   サヨウナラ!


 私はため息を吐き、返信をした。
 自分勝手な女だと思った。


               ゴメン 気付かなかっ
               た
 
    もっとましなウソ吐け
    女とやってたくせに!

               食事して 帰って寝て
               たんだよ

    私を誰だと思ってんの
    よ(怒)
   そんなウソに騙されるほ
   ど 初心じゃないわ!
   おおかたエロナースにで
   も誘われたんでしょ!
 
   ホントにキライ!
   大っきらい!
   地獄に堕ちろ!
   サヨウナラ!



 女はどうして勘がいいのだろう?
 まるで見ていたかのように。




 翌朝、美沙子から再びLINEが届いた。


   今夜 会いたい

            どこで?

   「あそこ」で


            どこのあそこ?

   いつものホテル
   このボケ!
                
            了解しました



 美沙子はそんなおちゃめで可愛い女だった。
 さて、今日はどんな言い訳をしようか?
 私は朝のエスプレッソを飲んだ。




 クリニックに着くと、理恵がいつものように挨拶をして来た。

 「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
 「おはよう、じゃあ診察を始めようか?」
 「では患者さんをお呼びしますね?」

 私たちは夕べのことも忘れ、仕事に没頭した。



 
 診察も終わり、私が院長に帰宅する旨を伝えると、診察室にいる理恵からLINEが入った。
 理恵は私を見ていた。
  

   今夜も一緒にいたいで
   す
   先生のお家に行っても
   いいですか?

              ゴメン 今日はダメだ
              また今度ね?

   
   わかりました 
   絶対ですよ! 
   乗り逃げはダメですか
   らね!


 私はチラリと理恵を見た。
 彼女は頬をリスのように膨らませ、私を軽く睨んで微笑んでいた。
 面倒な女たちに挟まれ、俺は幸せだった。




 いつものホテルのレストランで美沙子と食事をしていると、案の定、尋問が始まった。


 「夕べは何処にいたの?
 じゃなかった、誰とたの?
 どんな女? その女、良かった?」


 美沙子はセミロングの髪がポタージュスープに入らないようにと左側に寄せ、それを片手で抑えながらスープを飲んだ。
 男も女も品性は食事に出るものだ。
 美沙子の食事はとても優雅なものだった。
 私はそんな美沙子に欲情した。


 「だからひとりで食事して寝てたって言っただろう?」
 「嘘ばっかり」
 「昨日は患者が多くてね? 大変だったんだ」

 銀のスプーンをルージュの引いた口に入れる動作は淫靡だったが、それは品の良いエロスだ。

 「あなたが嘘吐く時、耳を触るクセがある。
 わかりやすい人。
 まあいいわ、後でボディチェックするから」
 
 私は黙秘権を行使することにした。




 その夜の美沙子は一段と激しかった。


 「さあ言いなさいよ! その女とどんなふうにしたの?
 こんなこともしたんでしょう? 私よりも気持ち良かった?」

 美沙子は私の乳首を舐めながら、強くペニスをしごいた。

 私は美沙子の髪を掴み、背骨を指でなぞってみせた。

 ここで負けるわけにはいかない、美沙子の急所は背中だった。
 背骨に沿って背中が汗ばんでいる。感じている証拠だ。


 「背中、舐めて・・・」

 私は彼女の要望に応えた。



 一回戦が終わり、美沙子は私の胸に顔を乗せていた。


 「ねえ、私とその女、どっちが好き?」
 「どっちじゃなくて、俺はお前が好きだよ」

 美沙子は私の耳を甘噛みした。


 「私、負けないわよ」
 「負けるも負けないも、だからお前だけだって言ってるだろう?」
 「別の女の匂いがするわ・・・。 
 私じゃない、下品な女の香りが・・・」

 私は話題を変えた。

 「今度、1泊で旅行に行かないか?」
 「私は人妻でママなのよ?」
 「いつかの話だよ、いつかの話・・・」
 「どこに?」
 「神戸。好きなんだよ神戸。横浜とは違うエレガントな港町だから」
 「神戸かあ? 行ったことないなー。
 お洋服、たくさん買ってくれる?」
 「もちろん」
 「神戸牛も?」
 「当然」
 「行きたいなあ、神戸」
 「いつか行こうよ、神戸」

 私は美沙子にキスをした。

 「またして、今度は後ろから・・・」


 美沙子はいつもよりも激しく喘いで果てた。
 その満足げな表情を見ていると、やはりこの女は別格だと思った。

 そしていつまでもこのままの距離間でいいと私は思った。
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