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最終話

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 シアトルに着くと、私はそのまま鈴木が勤務する大学へと向かった。
 タクシー・ドライバーは太った陽気な黒人だった。

 「旦那、シアトルは初めてですかい?」
 「昔、一度だけトランジットしたことがあるだけだ、街には出ていない」
 「大学の先生なんですか?」
 「いや、殺し屋だ」
 「日本人にもブラック・ジョークを言える紳士がいるんですねえ? あはははは」
 
 私はそれ以上話すのを辞めた。



 鈴木の研究室は大学の5階にあった。意外と怪しまれることなく、すんなりと通してくれた。

 「プロフェッサー鈴木の部屋はこちらです」

 案内してくれた女性がドアを三回ノックした。

 「教授、日本からのお客様です」
 「Come in」

 ドアを開けると、その女性は私にウインクすると、静かに戻って行った。
 机に座ってパソコンを見ていた鈴木が顔を上げた。

 「これはこれは嵐山先生、シアトルに来るなら仰っていただければ空港までお迎えにあがりましたのに。シアトルには小説の取材か何かですか?」
 「確かめたいことがあって来ました」

 鈴木の顔から血の気が引いた。どうやら私がここへ来た理由を察知したようだった。

 「何をです?」

 鈴木はとぼけたふりを装った。

 「わかっているはずだ、俺と一緒に俺の泊まっているホテルへ来い。拒否すればお前の女房と子どもにその事実を伝える、お前はこの大学を去ることになり、豚箱行きた」
 「わかりました」

 鈴木は仕方なくそれを承諾した。



 私は鈴木に全裸になるように命じ、手足を結束バンドで縛り、ホテルに監禁した。
 私はスマホを鈴木に向けた。

 「これから俺が言うことを言え。「私は池尻先生をレイプしました」、早く言え」

 鈴木は黙っていた。
 私は鈴木の萎んだペニスをペンチで挟んだ。

 「悪いチンコはこれか?」
 「わ、わかった言うから勘弁してくれ」
 「よし、早く言え」
 
 私はペンチを握る手に、僅かに力を加えた。

 「わ、私は池尻先生をレイプしました」
 「聴こえねえなあ、もっとデカい声で」
 「私は池尻先生をレイプしました!」

 私は保存したスマホの動画を確認した。

 「お前が今後、都に対して不当な扱いをすることがあればこれをネットに拡散するからな?」
 「いくらお支払いすればいいんですか?」
 「カネは要らない。その代わり都を教授にしろ」
 「でも今、教授には今村君が・・・」
 「どっかの大学に飛ばせばいいだろう? それともお前がシアトルの大学を辞めるか?」

 鈴木はそれを渋々承諾した。



 帰国した私に都は尋ねた。

 「シアトルでアイツに何をしたの?」
 「何もしてはいない、ただ大人の話をしただけだ」
 「乱暴なことはしなかったでしょうね?」
 「俺は小説家の端くれだぞ、そんなつまらん真似はしない」



 三ヶ月後、都は教授になり、私たちは結婚した。

 「おめでとう、池尻教授」
 「良かったですね先生、ようやく論文が認められて、そして嵐山先生とご結婚なんて」
 「ありがとう、これからもっと多くのことを解明していくつもりよ、協力してね?」

 
 もちろん今回のことは私と鈴木だけの秘密だった。都は何も知らない。
 うれしそうにみんなから祝福される都の顔を見ていると、私は子どもの頃に潰して回った鳳仙花の種袋を思い出していた。
 これから沢山の美しい鳳仙花が花を咲かせ、私たち夫婦の周りに咲き誇ることだろう。


                                        『鳳仙花』 完

    
 
 
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