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最終話
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「それじゃあ行って来ます」
「山本先生、がんばって下さいね?」
「あなたのためにやるコントです。めぐみさんに笑ってもらえるよう、精一杯お笑いをやります。
僕の人生のすべてを賭けて」
「せっかくですから今日は客席で応援させていただきます」
「待っています。気をつけて来て下さい」
大ライブ会場は立ち観も出るほどの大盛況だった。
めぐみは最後列の席にいた。
香織に葵、親友の井上、両親、妹の茜、そして関口教授を始め、病院のスタッフも来てくれた。もちろん西島先生も来てくれていた。
セットは深夜のコンビニ。
レジの店員役は俺で、大阪人の客の役は誠二が演じた。
私が最初に挨拶をした。
「みなさん、本日はありがとうございます。
私は以前、大学病院で精神科医をしていました。自分で言うのもなんですが、優秀な医者でした」
「自分でゆうなー!」
井上が合いの手を入れてくれた。
「私が精神科医を辞めて、誠二と一緒にお笑い芸人になったのには理由があります。
それはどうしても笑わせたい女性がいたからです」
「知ってるよー! 私、それでフラレたからあ!」
あはははは
今度は葵が叫んで会場がドッと湧いた。
「その彼女はある日、笑うことが出来なくなってしまいました。
私は彼女をどうしても笑顔にしたかった、彼女の笑顔が見たかったんです。
精神科の医者もお笑い芸人も目的は同じです。
人を笑顔にすること。
笑わせること。
今日はこの舞台で一生懸命やらせていただきますので、どうかよろしくお願いします」
誠二も挨拶をした。
「ワテがこの山ちゃんの相方、誠二です。ワテはこの山ちゃんが大好きや。
勘違いせんといてな? ワシは女が好きや。今、流行のアレやないで。手を握ったりキスもしたこともない。一度だけ抱き合って泣いたことはあるけどな?
でも山ちゃんには男として惚れとる。そやから今日までがんばれた。
そしてもちろんこれからもや! 『チョコミント・アイスクリーム』、ほなやるで!」
私たちはコントを始めた。息を潜める観客たち。
ピッ ピッ(バーコードを読み取る音)
「スプーンつけてくれへんのか? カレーやぞ!」
「私、関西弁はわかりません。今、通訳を呼んできます」
あはは
「関西弁がわからんてアンタ、ホンマに日本人かいな?」
「私は父が埼玉県の岩槻出身で、母は秋田県の秋田市生まれの秋田美人です」
「その割にはインド人みたいな顔やな? どう見てもカレーの顔やで」
クスッ
「ボクはその両親の本当の子供ではありません、お父さんがインド人の愛人に産ませた子です。
ボクはその父を頼って日本にやって来ました」
「なんや複雑すぎてようわからんわ」
「ちなみに今の母も父の愛人だったそうです」
あはははは
「愛人が好きなオトンなんやなあ? まあそんなんどうでもええからスプーンをつけてえな、カレーは手では食べられへんからな? おにぎりやサンドイッチやあるまいし」
「ちょっと大阪人さん、カレーだからスプーンは要らないのです。
私の国では手でカレーを食べます。右手でカレーを食べて、左手でウンコを拭きます」
あはははは あはははは
「大阪人さんてお前、関西人を舐めとるんか? 何かカレーは食いとうなくなってきたわ!」
「わかりました。ではカレーは元の場所に返して来て下さい。ではこのアイスにスプーンは必要ですか?」
「この『ガリガリさん』は棒付きアイスやからスプーンは要らん」
「では『ゲロゲロ君』のアイスは手で食べるわけですね? やはり大阪人のインバウンド野郎は下品です」
わあーっ あはははは
「大阪人は外人やないで! ちゃんとしたJapaneseやで! 人種差別やないかい! 同じ日本人やのに! 胸糞悪い! もうええから店長を呼べ! お前じゃ話にならんわ! お前をネットに晒したるでホンマ!
それに何なんやその『ゲロゲロ君』って! ゲロを想像してしまうやないかい!」
「先日、家族で飛騨の下呂温泉に行ってきました。
そこで食べたアイスがあまりにも美味しかったので、ボクはそのお店のお婆ちゃんに言ったのです。
「凄く美味しいアイスですね?」って。
するとお婆さんは自信たっぷりにこう言いました。
「下呂のアイスだからね?」と。
その後、ボクたち家族はアイスを食べるのを止めました」
「アイスも返品じゃ!」
「ところで大阪人のスケベそうなあなたはまさか、18才未満ではありませんよね?」
「見たらわかるやろ? ハゲてる高校生がおるわけないやろ? このボケ!」
「日本の法律はよくわかりません。このエッチな本は18才以上なら買ってもいいのにお酒もタバコもダメ。みんなやっていることじゃないですか? 飲酒もタバコもコンドームなしのセックスも。
競馬もパチンコも駄目、でも選挙権は18歳から。そして成人式は20才でマツケンサンバとバカ殿のカッコで式典会場に乱入する。
インドではそんな法律はありません。聖なるガンジス川の、あのバッチイ川の水で、ミディアムで焼かれた死体が流れてくる川で沐浴をします」
「お前、なんて名前や 店長に言いつけたるさかいな? 名札見せてみい!
何々? 「民自党の悪魔」やと? お前、悪魔やったんか?」
「ボクに魂を売って下さい、民自党に投票するか? もしくは選挙には行かないで下さい。そうすれば民自党は永遠に与党でいられますから。裏金も使い放題、不倫もパパ活も宗教活動もみんな自由ですからあ!」
「そやけどタダではイヤやで」
「流石は大阪人ですね? 言うことがエグいです。
わかりました、ではこれをあなたに差し上げましょう」
「何やコレ?」
パッパカパンパンパー
「忖度シート! ボク、ホリエモン~。フジテレビ買いたい~。
これは今、22世紀で流行っている「忖度シート」です。
これを検察やおまわりさん、税務署員さんや役所の偉い人などの国家権力に貼ると、どんな不正も見逃して許してくれます」
「もうええわ、別のコンビニに行くよって?」
「どちらへ?」
「ちょこっとだけ筋トレしてカラオケやゴルフ、ネイルに洗濯まで出来るコンビニ・ジム、ちょこっと『チョコ・ミントジム』にや」
「ボクもこのコンビニでやろうかなあ? 筋トレマシーンを置いて。
インドカレーを食べられて筋トレの出来るコンビニ、ちょこっと『チョコ・バニラ』コンビニを」
そして私たちは深々とお辞儀をした。
会場は静まり返っていた。
「『チョコミント・アイスクリーム』でしたあ! ありがとうございましたあ!」
パチパチ パチパチパチ
「うおーーーー! いいぞお前らあ!」
「最高!」
「耕三!」
「凄いぞ誠二!」
みんなが総立ちになり、会場にはスタンディング・オーベーションが沸き起こった。
香織も葵も、親父もおふくろも、妹の茜も親友の医者、井上も関口教授も西島先生も、そして病院のみんなも泣いていた。
その中でただひとりだけ、泣きながら笑っている奴がいた。
めぐみだった。
俺は舞台を駆け下り、めぐみを抱きしめて泣いた。
「器用な奴だな? めぐみは?
泣きながら笑えるのかよ、お前は?」
「私、笑っているのね? やっと笑えるようになったのね?
あ、ありがとう、山本先生・・・」
テレビのドキュメンタリー番組でも紹介され、精神科医を辞めてまでお笑い芸人になった私は称賛された。
誠二は葵と結婚した。そしてほどなくして私とめぐみも結婚し、息子の渉が生まれた。
「ねえ、あなたもチョコミント・アイス、食べてみる?」
「俺はいいよ、歯磨き粉を食ってるみたいだから」
『チョコミント・アイスクリーム』完
「山本先生、がんばって下さいね?」
「あなたのためにやるコントです。めぐみさんに笑ってもらえるよう、精一杯お笑いをやります。
僕の人生のすべてを賭けて」
「せっかくですから今日は客席で応援させていただきます」
「待っています。気をつけて来て下さい」
大ライブ会場は立ち観も出るほどの大盛況だった。
めぐみは最後列の席にいた。
香織に葵、親友の井上、両親、妹の茜、そして関口教授を始め、病院のスタッフも来てくれた。もちろん西島先生も来てくれていた。
セットは深夜のコンビニ。
レジの店員役は俺で、大阪人の客の役は誠二が演じた。
私が最初に挨拶をした。
「みなさん、本日はありがとうございます。
私は以前、大学病院で精神科医をしていました。自分で言うのもなんですが、優秀な医者でした」
「自分でゆうなー!」
井上が合いの手を入れてくれた。
「私が精神科医を辞めて、誠二と一緒にお笑い芸人になったのには理由があります。
それはどうしても笑わせたい女性がいたからです」
「知ってるよー! 私、それでフラレたからあ!」
あはははは
今度は葵が叫んで会場がドッと湧いた。
「その彼女はある日、笑うことが出来なくなってしまいました。
私は彼女をどうしても笑顔にしたかった、彼女の笑顔が見たかったんです。
精神科の医者もお笑い芸人も目的は同じです。
人を笑顔にすること。
笑わせること。
今日はこの舞台で一生懸命やらせていただきますので、どうかよろしくお願いします」
誠二も挨拶をした。
「ワテがこの山ちゃんの相方、誠二です。ワテはこの山ちゃんが大好きや。
勘違いせんといてな? ワシは女が好きや。今、流行のアレやないで。手を握ったりキスもしたこともない。一度だけ抱き合って泣いたことはあるけどな?
でも山ちゃんには男として惚れとる。そやから今日までがんばれた。
そしてもちろんこれからもや! 『チョコミント・アイスクリーム』、ほなやるで!」
私たちはコントを始めた。息を潜める観客たち。
ピッ ピッ(バーコードを読み取る音)
「スプーンつけてくれへんのか? カレーやぞ!」
「私、関西弁はわかりません。今、通訳を呼んできます」
あはは
「関西弁がわからんてアンタ、ホンマに日本人かいな?」
「私は父が埼玉県の岩槻出身で、母は秋田県の秋田市生まれの秋田美人です」
「その割にはインド人みたいな顔やな? どう見てもカレーの顔やで」
クスッ
「ボクはその両親の本当の子供ではありません、お父さんがインド人の愛人に産ませた子です。
ボクはその父を頼って日本にやって来ました」
「なんや複雑すぎてようわからんわ」
「ちなみに今の母も父の愛人だったそうです」
あはははは
「愛人が好きなオトンなんやなあ? まあそんなんどうでもええからスプーンをつけてえな、カレーは手では食べられへんからな? おにぎりやサンドイッチやあるまいし」
「ちょっと大阪人さん、カレーだからスプーンは要らないのです。
私の国では手でカレーを食べます。右手でカレーを食べて、左手でウンコを拭きます」
あはははは あはははは
「大阪人さんてお前、関西人を舐めとるんか? 何かカレーは食いとうなくなってきたわ!」
「わかりました。ではカレーは元の場所に返して来て下さい。ではこのアイスにスプーンは必要ですか?」
「この『ガリガリさん』は棒付きアイスやからスプーンは要らん」
「では『ゲロゲロ君』のアイスは手で食べるわけですね? やはり大阪人のインバウンド野郎は下品です」
わあーっ あはははは
「大阪人は外人やないで! ちゃんとしたJapaneseやで! 人種差別やないかい! 同じ日本人やのに! 胸糞悪い! もうええから店長を呼べ! お前じゃ話にならんわ! お前をネットに晒したるでホンマ!
それに何なんやその『ゲロゲロ君』って! ゲロを想像してしまうやないかい!」
「先日、家族で飛騨の下呂温泉に行ってきました。
そこで食べたアイスがあまりにも美味しかったので、ボクはそのお店のお婆ちゃんに言ったのです。
「凄く美味しいアイスですね?」って。
するとお婆さんは自信たっぷりにこう言いました。
「下呂のアイスだからね?」と。
その後、ボクたち家族はアイスを食べるのを止めました」
「アイスも返品じゃ!」
「ところで大阪人のスケベそうなあなたはまさか、18才未満ではありませんよね?」
「見たらわかるやろ? ハゲてる高校生がおるわけないやろ? このボケ!」
「日本の法律はよくわかりません。このエッチな本は18才以上なら買ってもいいのにお酒もタバコもダメ。みんなやっていることじゃないですか? 飲酒もタバコもコンドームなしのセックスも。
競馬もパチンコも駄目、でも選挙権は18歳から。そして成人式は20才でマツケンサンバとバカ殿のカッコで式典会場に乱入する。
インドではそんな法律はありません。聖なるガンジス川の、あのバッチイ川の水で、ミディアムで焼かれた死体が流れてくる川で沐浴をします」
「お前、なんて名前や 店長に言いつけたるさかいな? 名札見せてみい!
何々? 「民自党の悪魔」やと? お前、悪魔やったんか?」
「ボクに魂を売って下さい、民自党に投票するか? もしくは選挙には行かないで下さい。そうすれば民自党は永遠に与党でいられますから。裏金も使い放題、不倫もパパ活も宗教活動もみんな自由ですからあ!」
「そやけどタダではイヤやで」
「流石は大阪人ですね? 言うことがエグいです。
わかりました、ではこれをあなたに差し上げましょう」
「何やコレ?」
パッパカパンパンパー
「忖度シート! ボク、ホリエモン~。フジテレビ買いたい~。
これは今、22世紀で流行っている「忖度シート」です。
これを検察やおまわりさん、税務署員さんや役所の偉い人などの国家権力に貼ると、どんな不正も見逃して許してくれます」
「もうええわ、別のコンビニに行くよって?」
「どちらへ?」
「ちょこっとだけ筋トレしてカラオケやゴルフ、ネイルに洗濯まで出来るコンビニ・ジム、ちょこっと『チョコ・ミントジム』にや」
「ボクもこのコンビニでやろうかなあ? 筋トレマシーンを置いて。
インドカレーを食べられて筋トレの出来るコンビニ、ちょこっと『チョコ・バニラ』コンビニを」
そして私たちは深々とお辞儀をした。
会場は静まり返っていた。
「『チョコミント・アイスクリーム』でしたあ! ありがとうございましたあ!」
パチパチ パチパチパチ
「うおーーーー! いいぞお前らあ!」
「最高!」
「耕三!」
「凄いぞ誠二!」
みんなが総立ちになり、会場にはスタンディング・オーベーションが沸き起こった。
香織も葵も、親父もおふくろも、妹の茜も親友の医者、井上も関口教授も西島先生も、そして病院のみんなも泣いていた。
その中でただひとりだけ、泣きながら笑っている奴がいた。
めぐみだった。
俺は舞台を駆け下り、めぐみを抱きしめて泣いた。
「器用な奴だな? めぐみは?
泣きながら笑えるのかよ、お前は?」
「私、笑っているのね? やっと笑えるようになったのね?
あ、ありがとう、山本先生・・・」
テレビのドキュメンタリー番組でも紹介され、精神科医を辞めてまでお笑い芸人になった私は称賛された。
誠二は葵と結婚した。そしてほどなくして私とめぐみも結婚し、息子の渉が生まれた。
「ねえ、あなたもチョコミント・アイス、食べてみる?」
「俺はいいよ、歯磨き粉を食ってるみたいだから」
『チョコミント・アイスクリーム』完
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