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第6話

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 病院の廊下で葵とすれ違った。

 「今夜、待ってるから」
 「肉を買って行くからすき焼きな?」
 「うんわかった」



 私は肉を買い、葵のマンションを訪れた。
 満面の笑顔で俺に抱きつく葵。

 「耕ちゃん、卒業おめでとう!」
 「もう知っているのか? 今月いっぱいで病院を辞めることにした」
 「そっちじゃなくて奥さんとお別れするんでしょ?
 もうすでにさよならしちゃったりして?」
 「腹減った。すき焼きにするぞ」
 「うん! 準備しておいたよ」


 俺たちはすき焼きを食べながらビールを飲んだ。

 「ねえねえ、これで私を「山本葵」にしてくれるんだよね?」

 俺は肉を卵につけながらそれを頬張った。

 「夕べ、女房に離婚届を渡そうとしたら拒否された」
 「何それ? 自分だって浮気してるくせに」
 「それは俺も同じだ」
 「酷い! 私はただのセフレなの? 本気じゃなくて浮気なの?」

 葵は涙ぐんでいた。

 「そうじゃない、俺は葵も好きだ」
 「葵「も」って何よ!」
 「ごめん、お前とはもう今日でお別れだ。終わりにしよう」

 すると葵は箸を放り投げ、ビール瓶を持つと残っていたビールを俺の頭にゆっくりと注いだ。
 俺の頭を伝い、ビールが床に敷かれた絨毯に流れ落ちて行った。

 「あなた、少し頭を冷やした方がいいわよ」

 俺はビールがなくなるまでじっと我慢していた。

 「相手は誰なの?」
 「患者だ。酷いうつ病の」
 「うつ病だから何! 私はもうそんなのとっくに通り越してるわよ!
 誰のせい? あなたのせいでしょう!」

 今度は髪の毛を鷲掴みにされた。
 精神障害のない人間などいない。それは俺も同じだった。
 俺は葵を平手打ちした。

 「何をするの!」
 「俺はお前を愛してる、脱げ、オペをしてやる」

 葵はうっとりとした目で着ていた服を脱ぎ捨て、全裸になった。

 「抱いて」

 俺たちは激しくキスをしてその場で行為に及んだ。
 ダイニングテーブルに手をつかせ、葵をバックから攻めた。

 「は は は・・・」
 「耕三、べ、ベッドで抱いて・・・」

 けだもののようになって俺は葵を犯し続けた。

 「好きよ好きなの! あなた、が、大好き!」
 「今日から俺はお前とここで一緒に暮らす、いいな?」
 「よろこんで!」

 俺は自分勝手にクライマックスを迎え、葵の顔に精子を浴びせた。
 葵は口の周りに飛んだザーメンを舐めた。

 「セフレはイヤ、あなたの一番になりたいの」
 「バカな女だ」

 俺はその日から葵と同棲することにした。


 
 養成所への合格が決まった。
 受験資格は18才以上の高卒ということだった。
 中卒ではついていけないほどのカリキュラムなのだろうか?
 試験は1次が書類審査で、2次が集団面接だった。


 「ほう? 山本耕三さんは精神科の医師なんですか?
 初めてですよ、そんな人がお笑いをやりたいだなんて、実に愉快」

 面接会場に羨望せんぼうの声があがった。

 「お笑いと医者の二刀流やなんて? 大谷じゃあるまいし、何考えてんの?」
 「いや、二刀流じゃない、俺は医者を辞めた」
 「オッサン、頭どうかしてるんちゃうの? まさかお笑いだけで食っていけるなんて思うてないやろうなあ?」
 「食っていくのが目的じゃない。俺はある人を笑わせたいだけだ」
 「アンタ、お笑いを舐めてんの?」
 「お笑いは物じゃない、舐められるわけがねえだろう」
 「この野郎、俺が偏差値32のバカ高の出身だからって舐めんじゃねえぞ、コラッ!」

 すると面接官とそこにいた生徒たちが笑った。

 「君たちコンビを組んだらどう? 中々いいよ、そのボケとツッコミ。
 ふたりとも合格です。あっ、先に言っちゃった。あはははは」


 入学金115,000円、年間授業料330,000円。
 それから施設使用料として55,000円を支払った。
 すべて前払いである。
 面接の時に一緒だった、大阪から東京に出て来た末永すえなが誠二とすぐに友だちになり、入学式が終わってふたりで焼鳥屋へ飲みに出掛けた。


 「驚いたよ、あんなにお笑い志望の人間がいるなんて。
 東京と大阪で2,000人もいるそうじゃないか? 教室に入り切れんのかなあ?」
 「山ちゃんは何も知らんのやなあ。1ヶ月後には半分になるんやで」
 「半分に?」
 「養成所に絶望してみんな辞めてまうんよ。天才もゴロゴロおるしな? 自分の才能を思い知らされるちゅうわけや」

 そう言って誠二は生ビールを一気に飲んだ。

 「いい商売だな? 2,000人から50万ずつ、辞めてもカネは返さない。流石は浪速の商人あきんどだ。
 年間10億のカネが入るというわけかあ?」
 「なあ山ちゃん、ホンマに俺とコンビを組んでくれへんか?」 
 「コンビかあ? 最初はピンでやるつもりだったがそれもいいかもな?
 よろしくな? 誠二」
 
 その夜から俺たちはコンビになった。
 ボケは俺でツッコミは誠二になった。

 「コンビ名はどないする?」
 「そうだなあ、食べ物がいいかもな? 最初は馴染めないが、食べているウチにやみつきになるような・・・。
 チョコミント・アイスクリームってのはどうだ?」
 「チョコミント・アイスクリームかあ? ちょっと長くないやろか? 舌を噛んでしまいそうやないか?」
 「チョコミントは普通アイスだろう? 誠二がチョコで俺がミント。
 大阪人のお前と東京人の俺、チョコミントだけじゃ差別化にはならん。
 それにチョコプラみたいだろ? いずれにせよどうせ短縮されるよ、『チョコミン』みたいに」
 「それじゃあ「チョコザット」やないかい!」
 「あはははは」

 俺たちはいいコンビになりそうだった。

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