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第7話 平等について
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幸一は自分のバイトの仕事を完璧にこなすために、1時間早く出勤し、1時間遅く帰って調理の練習をしていた。
もちろんタイムカードは押さない。
最近ではミスも少なくなり、スタッフからの評判も良くなっていた。
「幸一君、バイトなのによく働くね?
どう? ウチの会社に就職しない?」
幸一は店長から入社を勧められるほど、お店の戦力になっていた。
皿洗いでボロボロになった手に薬用クリームを塗っていると、休憩室にあの意地悪な郷田が入って来た。
また何か嫌味でも言われるのかと思っていると、
「洗い物も半端な量じゃねえからな? 俺もそうだったよ。手はいつもボロボロだった。
でもな? コックになると切り傷や火傷はしょっちゅうだ、ほら」
郷田は腕をまくって見せた。
無数の火傷と手は傷だらけだった。
「おまえ、最近よくがんばってるな? 意地悪して悪かったな?
俺、お前の事が羨ましかったんだ。
俺ん家は母ちゃんと俺、そして妹の母子家庭でさ、高校も金が続かずに中退したんだ。
だから幸せそうなチャラついた大学生のバイトを見ると腹が立った」
「僕はそんな裕福な大学生じゃありません。親からは大学を諦めるように言われました。
でも、姉が私の学費を出してくれたんです。
少ないお給料から僕を大学に行かせてくれました。
でも、その姉も亡くなりました。
郷田さんの気持ち、わかります」
「あーあ、金持ちの家に生まれたかったなあー。
小さい頃からいつも腹を空かしてた。
給食費も払えず、それでも給食を食っている自分が惨めだった。
小学校の時、担任から言われたよ、「給食費も払わないのにタダ食いか?」って笑われた。
俺は我慢出来るが、妹は本当にかわいそうだった。
大人は誰も助けちゃくれなかった。
俺はここでバイトすれば、残り物を貰って帰ることが出来たんだ。
その残飯を妹と母ちゃんが喜んでくれた。
だから俺は人一倍働き、そして社員にしてもらえた。
おかげで暮らしも楽になり、妹も今、高校三年生だ」
そして郷田は自分のロッカーを開け、塗り薬を幸一へ渡してくれた。
「これ、結構効くぜ」
「ありがとうございます」
その日から幸一は、郷田と友だちになった。
ソクラテスにその話をすると、
「幸一、その郷田君って、そんなにええ奴やったんやなあ?
良かったなあ、仲良くなれて。
それは幸一の一生懸命さが彼の心を開かせたからや。
ええか幸一、人は口では動かん、人はその一生懸命さに感動するんや。
軽やかに走るウサギよりも、誠実にどん臭く歩くカメの方が人を感動させるもんやで」
「ソクラテス、どうして人は平等じゃないんだろうね?
せめて生まれた時くらい、同じスタートラインだといいのに。
大金持ちの子、貧乏な家の子、親は選べないもんね?」
するとソクラテスは幸一のお尻をガブリと噛んだ。
「何をするんだよ! 痛いじゃないかソクラテス!」
「幸一のアホンダラ! お前は今までワシから何を学んでいたんや?
神様の前では皆、人間は平等なんや!
時間も太陽も水も酸素も同じやぞ! そしてチャンスも平等に与えていただいておるのに、それを活かし切れないだけの話やないかい!
親を選べないやと? ふざけるんやないで! 根拠はないがな、ワシは子供は親を選んで生まれて来る思うとるんや。何が毒親じゃ!
周りを見てみい、身体の不自由な子の親は優しい人が多いやろ?
あれはな、おそらく虐待するような親の元ではすぐに殺されてしまうからやないやろか?
歴史に名前が刻まれた偉人さんたちを見てみい、順風満帆な人生の人など誰もおらんはずや。
ハンデやコンプレックスがあるから頑張れるんと違うんか?
甘えた事ぬかすな!ボケ!」
「ごめん、ソクラテス」
ソクラテスは後ろ足で耳の裏を掻いた。
「ワシもさっきはつい噛んでしもうて悪かったな?
でもな? 幸一。人間は自分の環境に左右されるようではアカンのや。環境は自分で変えなあかん。
そして愚痴や不平不満は絶対に言うたらあかん。
それはせっかく人間として、この世に出していただいた、神様を侮辱するのと同じことや。
幸一、何事も「ありがとう」やで。
でもな、感謝するだけではダメや。感謝して「努力」するこっちゃ。
あのガンジーはんも言うとる、
重要なのは行為そのものであって、結果ではない。
行為が実を結ぶかどうかは、自分の力でどうなるもの
ではなく、生きているうちにわかるとも限らない。
だが、正しいと信ずることを行いなさい。
結果がどう出るにせよ、何もしなければ何の結果もな
いのだ。
ガンジー(インドの首相、弁護士、宗教家)
文句は言わず、愚直にやり続けるこっちゃ」
ソクラテスは大きなあくびをして言った。
「ワシのご飯まだか?」
「ごめんごめん、今、用意するからね?
今日は新しいドッグフードの袋を開けるから、美味しいと思うよ」
「そうか? 楽しみやな、涎が垂れそうや」
幸一はソクラテスの餌皿に、袋を切ったばかりのドッグフードを入れた。
「いっただっきまーす!」
夢中で食べているソクラテスを見て、幸一は目を細めた。
もちろんタイムカードは押さない。
最近ではミスも少なくなり、スタッフからの評判も良くなっていた。
「幸一君、バイトなのによく働くね?
どう? ウチの会社に就職しない?」
幸一は店長から入社を勧められるほど、お店の戦力になっていた。
皿洗いでボロボロになった手に薬用クリームを塗っていると、休憩室にあの意地悪な郷田が入って来た。
また何か嫌味でも言われるのかと思っていると、
「洗い物も半端な量じゃねえからな? 俺もそうだったよ。手はいつもボロボロだった。
でもな? コックになると切り傷や火傷はしょっちゅうだ、ほら」
郷田は腕をまくって見せた。
無数の火傷と手は傷だらけだった。
「おまえ、最近よくがんばってるな? 意地悪して悪かったな?
俺、お前の事が羨ましかったんだ。
俺ん家は母ちゃんと俺、そして妹の母子家庭でさ、高校も金が続かずに中退したんだ。
だから幸せそうなチャラついた大学生のバイトを見ると腹が立った」
「僕はそんな裕福な大学生じゃありません。親からは大学を諦めるように言われました。
でも、姉が私の学費を出してくれたんです。
少ないお給料から僕を大学に行かせてくれました。
でも、その姉も亡くなりました。
郷田さんの気持ち、わかります」
「あーあ、金持ちの家に生まれたかったなあー。
小さい頃からいつも腹を空かしてた。
給食費も払えず、それでも給食を食っている自分が惨めだった。
小学校の時、担任から言われたよ、「給食費も払わないのにタダ食いか?」って笑われた。
俺は我慢出来るが、妹は本当にかわいそうだった。
大人は誰も助けちゃくれなかった。
俺はここでバイトすれば、残り物を貰って帰ることが出来たんだ。
その残飯を妹と母ちゃんが喜んでくれた。
だから俺は人一倍働き、そして社員にしてもらえた。
おかげで暮らしも楽になり、妹も今、高校三年生だ」
そして郷田は自分のロッカーを開け、塗り薬を幸一へ渡してくれた。
「これ、結構効くぜ」
「ありがとうございます」
その日から幸一は、郷田と友だちになった。
ソクラテスにその話をすると、
「幸一、その郷田君って、そんなにええ奴やったんやなあ?
良かったなあ、仲良くなれて。
それは幸一の一生懸命さが彼の心を開かせたからや。
ええか幸一、人は口では動かん、人はその一生懸命さに感動するんや。
軽やかに走るウサギよりも、誠実にどん臭く歩くカメの方が人を感動させるもんやで」
「ソクラテス、どうして人は平等じゃないんだろうね?
せめて生まれた時くらい、同じスタートラインだといいのに。
大金持ちの子、貧乏な家の子、親は選べないもんね?」
するとソクラテスは幸一のお尻をガブリと噛んだ。
「何をするんだよ! 痛いじゃないかソクラテス!」
「幸一のアホンダラ! お前は今までワシから何を学んでいたんや?
神様の前では皆、人間は平等なんや!
時間も太陽も水も酸素も同じやぞ! そしてチャンスも平等に与えていただいておるのに、それを活かし切れないだけの話やないかい!
親を選べないやと? ふざけるんやないで! 根拠はないがな、ワシは子供は親を選んで生まれて来る思うとるんや。何が毒親じゃ!
周りを見てみい、身体の不自由な子の親は優しい人が多いやろ?
あれはな、おそらく虐待するような親の元ではすぐに殺されてしまうからやないやろか?
歴史に名前が刻まれた偉人さんたちを見てみい、順風満帆な人生の人など誰もおらんはずや。
ハンデやコンプレックスがあるから頑張れるんと違うんか?
甘えた事ぬかすな!ボケ!」
「ごめん、ソクラテス」
ソクラテスは後ろ足で耳の裏を掻いた。
「ワシもさっきはつい噛んでしもうて悪かったな?
でもな? 幸一。人間は自分の環境に左右されるようではアカンのや。環境は自分で変えなあかん。
そして愚痴や不平不満は絶対に言うたらあかん。
それはせっかく人間として、この世に出していただいた、神様を侮辱するのと同じことや。
幸一、何事も「ありがとう」やで。
でもな、感謝するだけではダメや。感謝して「努力」するこっちゃ。
あのガンジーはんも言うとる、
重要なのは行為そのものであって、結果ではない。
行為が実を結ぶかどうかは、自分の力でどうなるもの
ではなく、生きているうちにわかるとも限らない。
だが、正しいと信ずることを行いなさい。
結果がどう出るにせよ、何もしなければ何の結果もな
いのだ。
ガンジー(インドの首相、弁護士、宗教家)
文句は言わず、愚直にやり続けるこっちゃ」
ソクラテスは大きなあくびをして言った。
「ワシのご飯まだか?」
「ごめんごめん、今、用意するからね?
今日は新しいドッグフードの袋を開けるから、美味しいと思うよ」
「そうか? 楽しみやな、涎が垂れそうや」
幸一はソクラテスの餌皿に、袋を切ったばかりのドッグフードを入れた。
「いっただっきまーす!」
夢中で食べているソクラテスを見て、幸一は目を細めた。
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