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第2話 How to Live
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「どないしたん? 幸一、ぼっーとしてからに」
「別に」
「お前、女のことで悩んでおるんとちゃうの? 見たらわかるで」
「そんなんじゃないよ」
「じゃあなんやの? 言うてみい、ワシに」
「だから何でもないよ」
僕は思っていた、どうせ犬のソクラテスに話しても仕方がないことだと。
「幸一、お前、ホンマにわかり易いやっちゃなー?
違うんやったら別のことを言うはずや? なのにお前は具体的にその悩みを言われへん」
「どこの人間に、犬に恋愛相談するヤツがいるんだよ」
「ほれみい、やっぱ女のことやないかい? 言うてみ言うてみ、相談に乗るでえ」
「大学の同級生に沙織ちゃんって凄い美人な女の子がいるんだよ。頭も良くてスタイル良くてさ、髪もサラサラ、オッパイも小さくて、とてもいい女の子がいるんだけど、沙織ちゃんはみんなのアイドルでマドンナなんだよ。僕じゃどう見ても沙織ちゃんとは釣り合わないんだ」
ソクラテスは幸一の脛をガブリと齧った。
「痛い! 何すんだよソクラテス! 離せコラ!」
「離さへんで! もっと齧ったろか!
幸一、それでもチンコついとんのか? ボケ!
そんな女々しい奴に恋愛なんて語る資格はないで!
ホンマにお前は幸ちゃんの弟かいな?
イラつくわー、ホンマ!」
「だって僕、イケメンじゃないし貧乏だし、成績は中の上で、運動オンチで、それからそれから・・・」
「だって、だって、だって、だって!
言訳ばかりやないかい!
ホンマ、イラつくわー! 今度それを言うたら頭、齧ったるで!
なんで幸一はそんなに卑屈なんや? 何でお前は自分に自信が持たれへんの?」
「だって僕・・・」
「ほら、またゆうた!「だって」って!
今度またそれ言うたらワシ、ホンマに耳食い千切るで!
ウソやない、本気や! ワシはいつも本気の哲学犬や!
いいかよく聞け、女が一番嫌うやつは誰や?」
「イケメンじゃない人? バカでスケベで、足の臭いやつ?」
「このアホんだら! アンポンタン! イケメン好きの女は要注意や!
お前が仮にイケメンだとするわな? それで彼女が出来たとしよう、20年経ってお前が40のオッサンになって禿て腹も出てしまってみい、そしたらお前、あっさり浮気されてまうで!
女が一番嫌うヤツはな? 自分に自信のない奴や! お前みたいにのう!
どうしてだかわかるか?」
「わかんないよ」
ソクラテスは前足でコケた。
ガクッ
「吉本の芸人はんならここでコケなあかん。
そんなこともよう分からんで、よく大学生しとるな? ワレ!
自分に自信がないということはやで、それは弱い男に見えるからや。
女はな? 多少強引な男に惚れるもんや! お散歩の時にグイグイとリードを引っ張るワシのようにな!
女は強い男に憧れるんや!
それは長州力やマイクタイソンになれということやない、意志の強い男になれという意味や」
「僕は優柔不断だからなあ」
「ボケ! そんなことでは一生、彼女なんか出来へんで! 幸一は一生チェリーボーイ、童貞のままや!」
「そん時はそん時だよ」
ソクラテスは今度は僕の尻を齧った。
「痛たたたた、止めろよソクラテス!」
「お前、メス犬と交尾もせんと、一生オナニーばっかりして暮らすんか! たまに風俗とか行って!
情けない、ホンマに情けないやっちゃで! お前という奴は!
人間ちゅうもんはな? ワシら犬より賢いんとちゃうんか?
人間はどうして生きとるんや? 何のために生きておるんや! ゆうてみー! 幸一!」
「どうして生きてんだろうね?」
ソクラテスは寝っ転がってお腹を見せた。
「あんなあ? 生きるということはやで? もっともっと勉強して、色んなことを経験して、たくさん泣いて、笑ろうてそして成長して、そしてその遺伝子を子孫に残す。
つまり自己の進化したDNAを子孫に残し、命を継承してゆくことなんや。
中村天風はんも、天風会の杉山彦一会長はんも言うてはった。
How to Live
人間として「いかに生きるべきか」とな?
ええか幸一、人生はまずそこからや。
女も金も追えば逃げる、それらがぎょうさん向こうから寄ってくる男になるこっちゃ。
幸一、沙織ちゃんがホンマに好きなら、沙織ちゃんが惚れるような男になってみなはれ。
物陰に隠れてストーカーみたいな真似だけはせんとけよ。石川ひとみの『まちぶせ』みたいなマネはすな、情けないよってな?」
「そんなことしないよ」
「ワシはこれでもイギリス生まれの血統書付きの哲学犬や。
幸ちゃんもワシの名前を迷うとった。ソクラテスにしようか? カントにしようかとな?
ワシはショーペンハウエルの考えが好きやったから「ショーペンハウエルはどうでっしゃろ?」言うたら、長いと却下されてしもうた。
それならキェルケゴールはどうやと提案したが、舌を噛みそうだからダメと言われてしもうた。
まだデカルトはんの方がええと思ったが「デカルト! おいで」というのも照れるしな? そこでソクラテスゆうええ名前になったというわけや」
ソクラテスは、よくしゃべる犬だった。
「ちなみにワシ、イングランド生まれやさかい、英語もしゃべれるんやで? 正統派のQueen’s Englishをな。
まあ幸一のTOEICスコアの英語レベルではワシの英語は理解でけへんやろけどな?
ボンジュール、ムッシュー」
「それ、フランス語だろ?」
「いいツッこみやないかい、15点!」
僕とソクラテスは笑った。
「犬でも笑うんだね?」
「当たり前や、犬だって楽しい時やうれしい時は笑うし、悲しい時は泣く。
幸ちゃんが死んだ時みたいにな」
ソクラテスは姉ちゃんのことを想い出したようで、悲しく遠吠えをした。
「わおーん、おんおーん」
「別に」
「お前、女のことで悩んでおるんとちゃうの? 見たらわかるで」
「そんなんじゃないよ」
「じゃあなんやの? 言うてみい、ワシに」
「だから何でもないよ」
僕は思っていた、どうせ犬のソクラテスに話しても仕方がないことだと。
「幸一、お前、ホンマにわかり易いやっちゃなー?
違うんやったら別のことを言うはずや? なのにお前は具体的にその悩みを言われへん」
「どこの人間に、犬に恋愛相談するヤツがいるんだよ」
「ほれみい、やっぱ女のことやないかい? 言うてみ言うてみ、相談に乗るでえ」
「大学の同級生に沙織ちゃんって凄い美人な女の子がいるんだよ。頭も良くてスタイル良くてさ、髪もサラサラ、オッパイも小さくて、とてもいい女の子がいるんだけど、沙織ちゃんはみんなのアイドルでマドンナなんだよ。僕じゃどう見ても沙織ちゃんとは釣り合わないんだ」
ソクラテスは幸一の脛をガブリと齧った。
「痛い! 何すんだよソクラテス! 離せコラ!」
「離さへんで! もっと齧ったろか!
幸一、それでもチンコついとんのか? ボケ!
そんな女々しい奴に恋愛なんて語る資格はないで!
ホンマにお前は幸ちゃんの弟かいな?
イラつくわー、ホンマ!」
「だって僕、イケメンじゃないし貧乏だし、成績は中の上で、運動オンチで、それからそれから・・・」
「だって、だって、だって、だって!
言訳ばかりやないかい!
ホンマ、イラつくわー! 今度それを言うたら頭、齧ったるで!
なんで幸一はそんなに卑屈なんや? 何でお前は自分に自信が持たれへんの?」
「だって僕・・・」
「ほら、またゆうた!「だって」って!
今度またそれ言うたらワシ、ホンマに耳食い千切るで!
ウソやない、本気や! ワシはいつも本気の哲学犬や!
いいかよく聞け、女が一番嫌うやつは誰や?」
「イケメンじゃない人? バカでスケベで、足の臭いやつ?」
「このアホんだら! アンポンタン! イケメン好きの女は要注意や!
お前が仮にイケメンだとするわな? それで彼女が出来たとしよう、20年経ってお前が40のオッサンになって禿て腹も出てしまってみい、そしたらお前、あっさり浮気されてまうで!
女が一番嫌うヤツはな? 自分に自信のない奴や! お前みたいにのう!
どうしてだかわかるか?」
「わかんないよ」
ソクラテスは前足でコケた。
ガクッ
「吉本の芸人はんならここでコケなあかん。
そんなこともよう分からんで、よく大学生しとるな? ワレ!
自分に自信がないということはやで、それは弱い男に見えるからや。
女はな? 多少強引な男に惚れるもんや! お散歩の時にグイグイとリードを引っ張るワシのようにな!
女は強い男に憧れるんや!
それは長州力やマイクタイソンになれということやない、意志の強い男になれという意味や」
「僕は優柔不断だからなあ」
「ボケ! そんなことでは一生、彼女なんか出来へんで! 幸一は一生チェリーボーイ、童貞のままや!」
「そん時はそん時だよ」
ソクラテスは今度は僕の尻を齧った。
「痛たたたた、止めろよソクラテス!」
「お前、メス犬と交尾もせんと、一生オナニーばっかりして暮らすんか! たまに風俗とか行って!
情けない、ホンマに情けないやっちゃで! お前という奴は!
人間ちゅうもんはな? ワシら犬より賢いんとちゃうんか?
人間はどうして生きとるんや? 何のために生きておるんや! ゆうてみー! 幸一!」
「どうして生きてんだろうね?」
ソクラテスは寝っ転がってお腹を見せた。
「あんなあ? 生きるということはやで? もっともっと勉強して、色んなことを経験して、たくさん泣いて、笑ろうてそして成長して、そしてその遺伝子を子孫に残す。
つまり自己の進化したDNAを子孫に残し、命を継承してゆくことなんや。
中村天風はんも、天風会の杉山彦一会長はんも言うてはった。
How to Live
人間として「いかに生きるべきか」とな?
ええか幸一、人生はまずそこからや。
女も金も追えば逃げる、それらがぎょうさん向こうから寄ってくる男になるこっちゃ。
幸一、沙織ちゃんがホンマに好きなら、沙織ちゃんが惚れるような男になってみなはれ。
物陰に隠れてストーカーみたいな真似だけはせんとけよ。石川ひとみの『まちぶせ』みたいなマネはすな、情けないよってな?」
「そんなことしないよ」
「ワシはこれでもイギリス生まれの血統書付きの哲学犬や。
幸ちゃんもワシの名前を迷うとった。ソクラテスにしようか? カントにしようかとな?
ワシはショーペンハウエルの考えが好きやったから「ショーペンハウエルはどうでっしゃろ?」言うたら、長いと却下されてしもうた。
それならキェルケゴールはどうやと提案したが、舌を噛みそうだからダメと言われてしもうた。
まだデカルトはんの方がええと思ったが「デカルト! おいで」というのも照れるしな? そこでソクラテスゆうええ名前になったというわけや」
ソクラテスは、よくしゃべる犬だった。
「ちなみにワシ、イングランド生まれやさかい、英語もしゃべれるんやで? 正統派のQueen’s Englishをな。
まあ幸一のTOEICスコアの英語レベルではワシの英語は理解でけへんやろけどな?
ボンジュール、ムッシュー」
「それ、フランス語だろ?」
「いいツッこみやないかい、15点!」
僕とソクラテスは笑った。
「犬でも笑うんだね?」
「当たり前や、犬だって楽しい時やうれしい時は笑うし、悲しい時は泣く。
幸ちゃんが死んだ時みたいにな」
ソクラテスは姉ちゃんのことを想い出したようで、悲しく遠吠えをした。
「わおーん、おんおーん」
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