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第12話
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「幼稚園で着るやつか?」
「そうなの、スモックも親が作るんですって」
瑠璃子はミシンをかけていた。
「それって市販されていないのかい?」
「あるとは思うんだけど、親が作って下さいって。
そうすることで子供に対する愛情を注ぎなさいってことなんじゃないのかしら?
でも私、こうゆうの好きだから楽しくって」
「君のように何でも出来る母親ならいいが、それが得意じゃない親は大変だな?
それに母親がいない子供もいるんじゃないのか?」
「それはないみたい。
お受験には母親が積極的だしね?
それにそれも入園の審査基準になっているのかもしれない。
大学の研究機関としての役割もあるわけだし」
「運、ママが一生懸命に君の服を作ってくれているんだよ。
よかったね?」
「うん、ママ、ありがとう」
「それじゃあ運、パパとレインのお散歩に行こうか?」
「レイン、お散歩だってさ」
「パパと運は夕食には何が食べたい?」
「今日はファミレスで食べよう。君も忙しそうだし」
「ありがとう、いつもごめんね?」
「その方が俺も助かるんだ。
後片付けをしなくて済むからね?」
リビングで寝ていたレインはすぐに起き上がると、ダッシュで玄関に向かい、私と運が来るのを尻尾を振って待っていた。
「今日はボクがレインをお散歩させるから、パパはレインのウンチ係だよ」
「大丈夫か? 運?」
「大丈夫だよ。ボク、もう幼稚園だよ?」
「そうだな? 運は幼稚園だもんな?」
入園式当日がやって来た。
すでに桜は散り、葉桜にはなってはいたが、新緑がとても眩しかった。
私はビデオを、そして瑠璃子はスマホを手にして息子が舞台に出て来るのを待っていた。
だが運の姿が見えない。
すると舞台の袖で、保育士たちに椅子に座るように説得されている運の姿が見えた。
私たち夫婦は息子に駆け寄りたい気持ちを必死に抑えた。
そんなハプニングもあったが、式は無事に終了した。
「写真を撮ろう。
さあ運とママ、並んで並んで」
私は妻と息子を入園会場の縦看板の前に促した。
すると、同じ幼稚園に通う父親から声を掛けられた。
「運君のお父さんですね? 村上さゆりの父親です。
同じひまわり組の。
これからよろしくお願いします」
「小林です。こちらこそよろしくお願いします」
「よかったら押しますよ? シャッター」
「すみません、じゃあお願いしてもいいですか?」
「もちろんです。後でウチもお願いしますね?」
「お互い様ですから」
「じゃあ行きますよー、はい、マルチーズ!」
私たちは思わず笑ってしまった。
「あのおじちゃん、面白いね? マルチーズだって?」
「そうね?」
運には犬と動物の図鑑を見せていたので、犬の名前は殆どわかっていた。
とてもいい写真が撮れた。
村上さんからスマホを受け取る時、彼が言った。
「ようやく授かった娘なんです。感無量ですよ、今日は」
私はそれには答えず、
「じゃあ、お撮りしますね? はい、レアチーズ!」
村上夫妻は微笑んだが、さゆりちゃんは笑わなかった。
「すみませんがもう一度お願いします。
さゆりちゃんが笑ってなかったので。
それじゃあいくよー、さゆりちゃん、笑ってオジサンを見てごらん。
はい、アンパンマン!」
今度はさゆりちゃんも笑ってくれた。
「さゆりはアンパンマンが大好きなんですよ。
なかなかいい写真が撮れました。
さっそくインスタやフェイスブックにあげないと」
しあわせそうな村上親子に、私と瑠璃子も目を細めた。
その夜、運を真ん中にして寝ていると、瑠璃子が声を掛けて来た。
「なんだかホッとしたわ。今日は疲れたでしょう?」
「楽しかったよ。運が出てこない時には焦ったけどね?」
「ホント、一時はどうなるかと思っちゃった」
「これからどんどん大きくなるんだね? 運は?」
「そうね? 運にはずっと元気でいて欲しい。ただそれだけ。
泥んこになって元気に成長して欲しい。
成績なんて悪くてもいいから、みんなから愛される子に育って欲しいの」
「大丈夫だよ、運はやさしくて逞しい大人に成長するよ。
僕たちの子供だからね?」
「ねえ、そっちに行ってもいい?」
「もちろん」
その夜、私たちは久しぶりにお互いの肌の温もりを確かめあった。
「そうなの、スモックも親が作るんですって」
瑠璃子はミシンをかけていた。
「それって市販されていないのかい?」
「あるとは思うんだけど、親が作って下さいって。
そうすることで子供に対する愛情を注ぎなさいってことなんじゃないのかしら?
でも私、こうゆうの好きだから楽しくって」
「君のように何でも出来る母親ならいいが、それが得意じゃない親は大変だな?
それに母親がいない子供もいるんじゃないのか?」
「それはないみたい。
お受験には母親が積極的だしね?
それにそれも入園の審査基準になっているのかもしれない。
大学の研究機関としての役割もあるわけだし」
「運、ママが一生懸命に君の服を作ってくれているんだよ。
よかったね?」
「うん、ママ、ありがとう」
「それじゃあ運、パパとレインのお散歩に行こうか?」
「レイン、お散歩だってさ」
「パパと運は夕食には何が食べたい?」
「今日はファミレスで食べよう。君も忙しそうだし」
「ありがとう、いつもごめんね?」
「その方が俺も助かるんだ。
後片付けをしなくて済むからね?」
リビングで寝ていたレインはすぐに起き上がると、ダッシュで玄関に向かい、私と運が来るのを尻尾を振って待っていた。
「今日はボクがレインをお散歩させるから、パパはレインのウンチ係だよ」
「大丈夫か? 運?」
「大丈夫だよ。ボク、もう幼稚園だよ?」
「そうだな? 運は幼稚園だもんな?」
入園式当日がやって来た。
すでに桜は散り、葉桜にはなってはいたが、新緑がとても眩しかった。
私はビデオを、そして瑠璃子はスマホを手にして息子が舞台に出て来るのを待っていた。
だが運の姿が見えない。
すると舞台の袖で、保育士たちに椅子に座るように説得されている運の姿が見えた。
私たち夫婦は息子に駆け寄りたい気持ちを必死に抑えた。
そんなハプニングもあったが、式は無事に終了した。
「写真を撮ろう。
さあ運とママ、並んで並んで」
私は妻と息子を入園会場の縦看板の前に促した。
すると、同じ幼稚園に通う父親から声を掛けられた。
「運君のお父さんですね? 村上さゆりの父親です。
同じひまわり組の。
これからよろしくお願いします」
「小林です。こちらこそよろしくお願いします」
「よかったら押しますよ? シャッター」
「すみません、じゃあお願いしてもいいですか?」
「もちろんです。後でウチもお願いしますね?」
「お互い様ですから」
「じゃあ行きますよー、はい、マルチーズ!」
私たちは思わず笑ってしまった。
「あのおじちゃん、面白いね? マルチーズだって?」
「そうね?」
運には犬と動物の図鑑を見せていたので、犬の名前は殆どわかっていた。
とてもいい写真が撮れた。
村上さんからスマホを受け取る時、彼が言った。
「ようやく授かった娘なんです。感無量ですよ、今日は」
私はそれには答えず、
「じゃあ、お撮りしますね? はい、レアチーズ!」
村上夫妻は微笑んだが、さゆりちゃんは笑わなかった。
「すみませんがもう一度お願いします。
さゆりちゃんが笑ってなかったので。
それじゃあいくよー、さゆりちゃん、笑ってオジサンを見てごらん。
はい、アンパンマン!」
今度はさゆりちゃんも笑ってくれた。
「さゆりはアンパンマンが大好きなんですよ。
なかなかいい写真が撮れました。
さっそくインスタやフェイスブックにあげないと」
しあわせそうな村上親子に、私と瑠璃子も目を細めた。
その夜、運を真ん中にして寝ていると、瑠璃子が声を掛けて来た。
「なんだかホッとしたわ。今日は疲れたでしょう?」
「楽しかったよ。運が出てこない時には焦ったけどね?」
「ホント、一時はどうなるかと思っちゃった」
「これからどんどん大きくなるんだね? 運は?」
「そうね? 運にはずっと元気でいて欲しい。ただそれだけ。
泥んこになって元気に成長して欲しい。
成績なんて悪くてもいいから、みんなから愛される子に育って欲しいの」
「大丈夫だよ、運はやさしくて逞しい大人に成長するよ。
僕たちの子供だからね?」
「ねえ、そっちに行ってもいい?」
「もちろん」
その夜、私たちは久しぶりにお互いの肌の温もりを確かめあった。
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