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9月30日(水)晴れ 入院25日目
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死んだ親父は食べても飲んでも品格のある男だった。
だらしない酔い方をしているのを見たことがない。
育ちのいい親父は子供の頃の俺の飲食に対して、
「お里が知れるよ」
と諌めてくれたものだ。
女とメシを食いに行くと、
「食べ方がキレイね?」
とよく褒められた。親父のおかげだと思う。
魚は芸術的にすら食べることが出来た。
だが今はもう綺麗な所作が出来なくなってしまった。
飯は箸では食べられなくなった。飯粒が残ってしまうからだ。
酒も飲めなくなった。飲みたくもなくなった。
前はひとりでもよく街に飲みに出掛けた。孤独のドランカー。
行きつけだったショット・バーも今はない。
東北のバーテンダー・コンテストで優勝経験のあるマスターの店だった。
スコットランドの民族衣装である、あのタータンチェックのスカートを履いてマスターは接客をしていた。
最初はマスターのオリジナルカクテルを一杯。
その後はバーボンをチェイサー付きのロックで楽しむ。
ツマミは枝付きのレーズンとドライイチジク、プロシュートとゴルゴンゾーラ。そしてKissチョコ。
流れる大好きなオールディズ。
マスターと私は同じ歳だったが、お互いに敬語で話す。
俺とマスターは決して馴れ合いにならない。
俺たちはお互いに敬意を払っているからだった。
親父の真似をしてタバコを吸い、グラスを傾ける至福の時間。
外国人客も多く、日本にいることを忘れてしまう店だった。
病室が静かな時はベッドで天風会で習得したクンバカのヨーガをする。
早朝、自宅近くの公園のベンチで瞑想をしていると、何者かにどつかれることがあった。
見渡すと誰も居ない。オカルトである。
呼吸を整えることは重要だ。水、塩、食物、そして空気。よく生きるためには不可欠だ。
袈裟に座り全身のチカラを抜く。鼻から出来るだけゆっくりと細く空気を吸い、限界に達した時、息を止めて肛門をキュッと締める。
そして今度は口を少しだけ開けてゆっくりと細く静かに限界まで息を吐く。そして吐き切ったらまた肛門を締めるのだ。
それを天風会の講師の指導の元、ブザーの合図とともにこれを行った。
カラダは壊してしまったが、心まで病になることはない。
心身統一法が天風師の実践哲学である。
心がカラダをコントロールするのだ。
毎日のように続くレーザー治療。
「先生、もう大丈夫ですか?」
「もっとやらなければなりません」
俺も辛いが佐藤医師も大変だ。
早く退院したい。
だらしない酔い方をしているのを見たことがない。
育ちのいい親父は子供の頃の俺の飲食に対して、
「お里が知れるよ」
と諌めてくれたものだ。
女とメシを食いに行くと、
「食べ方がキレイね?」
とよく褒められた。親父のおかげだと思う。
魚は芸術的にすら食べることが出来た。
だが今はもう綺麗な所作が出来なくなってしまった。
飯は箸では食べられなくなった。飯粒が残ってしまうからだ。
酒も飲めなくなった。飲みたくもなくなった。
前はひとりでもよく街に飲みに出掛けた。孤独のドランカー。
行きつけだったショット・バーも今はない。
東北のバーテンダー・コンテストで優勝経験のあるマスターの店だった。
スコットランドの民族衣装である、あのタータンチェックのスカートを履いてマスターは接客をしていた。
最初はマスターのオリジナルカクテルを一杯。
その後はバーボンをチェイサー付きのロックで楽しむ。
ツマミは枝付きのレーズンとドライイチジク、プロシュートとゴルゴンゾーラ。そしてKissチョコ。
流れる大好きなオールディズ。
マスターと私は同じ歳だったが、お互いに敬語で話す。
俺とマスターは決して馴れ合いにならない。
俺たちはお互いに敬意を払っているからだった。
親父の真似をしてタバコを吸い、グラスを傾ける至福の時間。
外国人客も多く、日本にいることを忘れてしまう店だった。
病室が静かな時はベッドで天風会で習得したクンバカのヨーガをする。
早朝、自宅近くの公園のベンチで瞑想をしていると、何者かにどつかれることがあった。
見渡すと誰も居ない。オカルトである。
呼吸を整えることは重要だ。水、塩、食物、そして空気。よく生きるためには不可欠だ。
袈裟に座り全身のチカラを抜く。鼻から出来るだけゆっくりと細く空気を吸い、限界に達した時、息を止めて肛門をキュッと締める。
そして今度は口を少しだけ開けてゆっくりと細く静かに限界まで息を吐く。そして吐き切ったらまた肛門を締めるのだ。
それを天風会の講師の指導の元、ブザーの合図とともにこれを行った。
カラダは壊してしまったが、心まで病になることはない。
心身統一法が天風師の実践哲学である。
心がカラダをコントロールするのだ。
毎日のように続くレーザー治療。
「先生、もう大丈夫ですか?」
「もっとやらなければなりません」
俺も辛いが佐藤医師も大変だ。
早く退院したい。
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