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第10話 ヨハネの黙示録
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「Stop,it!(やめろ!)」
片桐はそう叫んで布団から跳ね起きた。
夢を見ていたのだ、アフガンで仲間の兵士が敵兵の目を生きたままサバイバルナイフでくり抜こうとしている夢だった。
「どうしました? 洋介さん? イヤな夢でも見ましたか?」
「すみません、起こしてしまいましたね? ええ、とてもイヤな夢でした」
「どんな夢です? 英語で何か叫んでいましたけど」
「たまに見るんですよ、ヘンな夢を」
片桐は夢の内容については話さなかった。
惨たらしい戦場での話など、この善良な男には到底話すことなど出来なかった。
「それは戦争映画の話ですか?」
そう眉をしかめて言われるのがオチだ。
ジンバブエ、ホンジョラス、ニカラグア、そしてアフガン・・・。
片桐は人間の感情を抹消していた。
だが、いまだに残虐な夢を見ることがある。
所詮、戦争とは殺し合いなのだ。
殺し方にいいも悪いもない。より多く殺した方が勝ちなのだ。
誠二は冷蔵庫から冷たいルイボスティーをコップに入れて持って来ると片桐に渡した。
「よかったらどうぞ。これならノンカフェインですから」
「ありがとうございます」
「ここに来たばかりの頃、私も嫌な夢を毎日のように見ていました。
私は長年勤めた会社をリストラされた時の人事課長の事を思い出しました。そして不安げな女房、子供たちの顔も。
でも今は殆どそんな夢を見なくなりました。
農作業等で疲れているからでしょうね?
それとこの黄昏村の自然と、ここで暮らすみんなのお陰だと思っています」
「ご家族の所に帰りたいとは思わないのですか?」
片桐はルイボスティを飲んだ。
「なるべく考えないようにしています。家族は私には遭いたくないはずですから」
(このような国民を出さない国家にしなければならない)
「そうでしたか? でもいつか、ご家族が誠二さんのお気持ちを理解してくれる日が来るといいですね?」
「ありがとうございます。まだ6時には2時間あります。もう少し寝ましょうか?」
「起こしてしまってすみませんでした。おやすみなさい、誠二さん」
「おやすみなさい、洋介さん」
片桐は家の中の盗聴器を探した。
するとハンガーに掛けてある渋山の作業着の胸ポケットにあるペンから盗聴器の反応があった。
(まさか誠二さんが公安のスパイ?)
それはあり得ない話だった。
だが、公安に協力させられている可能性は十分にある。
外の厠から戻って来た渋山に片桐は声を掛けた。
「誠二さんのこのペン、誰かからのプレゼントですか? いつも大切に身に着けているようですが?」
いつも温厚な渋山の表情が一瞬で強張った。
「研究者としての習慣なんです。突然何かが閃めいた時にすぐにそれを書き留めておくことが出来るようにと。
今でもそのクセが抜けなくて」
それはあまりにも雑な言い訳だった。
「ペンよりボイスレコーダーの方がいいのではありませんか? あるいはスマホとか?」
「図を描くこともあるので・・・」
渋山は明らかに動揺していた。顔が紅潮している。眼も泳いでいた。分かり易い男だった。
だが片桐は逆に安心した。
この会話が公安に筒抜けだとすれば、その方が都合が良かったからだ。
「誠二さん、話しは変わりますが、紅葉のいい季節になりましたのでどうです? この景色を見ながら入る五右衛門風呂でも一緒に作りませんか?」
「五右衛門風呂ですか?」
「ええ、外で入る五右衛門風呂です。ドラム缶の。いいとは思いませんか?」
「それはいいかもしれませんね? 造りましょう! 五右衛門風呂」
「確か空になった要らないドラム缶があったはずですから、まずはそれをきれいに洗いましょう」
「分かりました」
片桐と渋山がドラム缶で五右衛門風呂を作っていると、洋子さんに沙織ちゃん、そして真一君も集まって来た。
「あらいいわねえ。五右衛門風呂?」
「ええ、洋介さんの発案です」
「いいなあ、私も入りたいなあ。ねえ沙織ちゃん?」
「でも洋子さん、覗かれちゃいますよ、私たちのナイスなバディが。あはははは」
「そうだ誠二さん。私たち女子も入れるように塀を作ってよ」
「お任せ下さい。お安い御用です」
片桐が言った。
すると小野塚もその作業に加わった。
「竹でいいでしょうか?」
「そうだね? 建仁寺垣を作ろう」
「わかりました」
そして遂にドラム缶の五右衛門風呂が完成した。
「では僕が実験台になりますね?」
片桐は服を脱ぎ、手でお湯の温度を確かめると、そのまま五右衛門風呂に浸かった。
「どうです? 熱くはないですか?」
「いいカンジです、まるで温泉ですよ。凄く眺めもいい。最高の気分です! ずっとここでのんびり暮らしたいなあ」
片桐は敢えて大きな声でそう言った。
公安にも聞こえるように。
西田二尉から暗号モールスが届いた。
ヨハネの黙示録は開かれたと。
片桐はそう叫んで布団から跳ね起きた。
夢を見ていたのだ、アフガンで仲間の兵士が敵兵の目を生きたままサバイバルナイフでくり抜こうとしている夢だった。
「どうしました? 洋介さん? イヤな夢でも見ましたか?」
「すみません、起こしてしまいましたね? ええ、とてもイヤな夢でした」
「どんな夢です? 英語で何か叫んでいましたけど」
「たまに見るんですよ、ヘンな夢を」
片桐は夢の内容については話さなかった。
惨たらしい戦場での話など、この善良な男には到底話すことなど出来なかった。
「それは戦争映画の話ですか?」
そう眉をしかめて言われるのがオチだ。
ジンバブエ、ホンジョラス、ニカラグア、そしてアフガン・・・。
片桐は人間の感情を抹消していた。
だが、いまだに残虐な夢を見ることがある。
所詮、戦争とは殺し合いなのだ。
殺し方にいいも悪いもない。より多く殺した方が勝ちなのだ。
誠二は冷蔵庫から冷たいルイボスティーをコップに入れて持って来ると片桐に渡した。
「よかったらどうぞ。これならノンカフェインですから」
「ありがとうございます」
「ここに来たばかりの頃、私も嫌な夢を毎日のように見ていました。
私は長年勤めた会社をリストラされた時の人事課長の事を思い出しました。そして不安げな女房、子供たちの顔も。
でも今は殆どそんな夢を見なくなりました。
農作業等で疲れているからでしょうね?
それとこの黄昏村の自然と、ここで暮らすみんなのお陰だと思っています」
「ご家族の所に帰りたいとは思わないのですか?」
片桐はルイボスティを飲んだ。
「なるべく考えないようにしています。家族は私には遭いたくないはずですから」
(このような国民を出さない国家にしなければならない)
「そうでしたか? でもいつか、ご家族が誠二さんのお気持ちを理解してくれる日が来るといいですね?」
「ありがとうございます。まだ6時には2時間あります。もう少し寝ましょうか?」
「起こしてしまってすみませんでした。おやすみなさい、誠二さん」
「おやすみなさい、洋介さん」
片桐は家の中の盗聴器を探した。
するとハンガーに掛けてある渋山の作業着の胸ポケットにあるペンから盗聴器の反応があった。
(まさか誠二さんが公安のスパイ?)
それはあり得ない話だった。
だが、公安に協力させられている可能性は十分にある。
外の厠から戻って来た渋山に片桐は声を掛けた。
「誠二さんのこのペン、誰かからのプレゼントですか? いつも大切に身に着けているようですが?」
いつも温厚な渋山の表情が一瞬で強張った。
「研究者としての習慣なんです。突然何かが閃めいた時にすぐにそれを書き留めておくことが出来るようにと。
今でもそのクセが抜けなくて」
それはあまりにも雑な言い訳だった。
「ペンよりボイスレコーダーの方がいいのではありませんか? あるいはスマホとか?」
「図を描くこともあるので・・・」
渋山は明らかに動揺していた。顔が紅潮している。眼も泳いでいた。分かり易い男だった。
だが片桐は逆に安心した。
この会話が公安に筒抜けだとすれば、その方が都合が良かったからだ。
「誠二さん、話しは変わりますが、紅葉のいい季節になりましたのでどうです? この景色を見ながら入る五右衛門風呂でも一緒に作りませんか?」
「五右衛門風呂ですか?」
「ええ、外で入る五右衛門風呂です。ドラム缶の。いいとは思いませんか?」
「それはいいかもしれませんね? 造りましょう! 五右衛門風呂」
「確か空になった要らないドラム缶があったはずですから、まずはそれをきれいに洗いましょう」
「分かりました」
片桐と渋山がドラム缶で五右衛門風呂を作っていると、洋子さんに沙織ちゃん、そして真一君も集まって来た。
「あらいいわねえ。五右衛門風呂?」
「ええ、洋介さんの発案です」
「いいなあ、私も入りたいなあ。ねえ沙織ちゃん?」
「でも洋子さん、覗かれちゃいますよ、私たちのナイスなバディが。あはははは」
「そうだ誠二さん。私たち女子も入れるように塀を作ってよ」
「お任せ下さい。お安い御用です」
片桐が言った。
すると小野塚もその作業に加わった。
「竹でいいでしょうか?」
「そうだね? 建仁寺垣を作ろう」
「わかりました」
そして遂にドラム缶の五右衛門風呂が完成した。
「では僕が実験台になりますね?」
片桐は服を脱ぎ、手でお湯の温度を確かめると、そのまま五右衛門風呂に浸かった。
「どうです? 熱くはないですか?」
「いいカンジです、まるで温泉ですよ。凄く眺めもいい。最高の気分です! ずっとここでのんびり暮らしたいなあ」
片桐は敢えて大きな声でそう言った。
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