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最終話 帰港

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 帆船日本丸は観音崎の沖にワープした。
 美しく晴れ渡った太平洋は群青の海だった。


 「帆走するか?」
 「いいね? 久しぶりにやるか?」
 「出来まっせ、この船にはAI機能が搭載してあるさかい、号令をかけるだけで大丈夫や」
 「よし、総帆開け!」
 「All's  well, sir(周囲に異常なし)」

 
 日本丸は再び「太平洋の白鳥」となり、翼のように白いセイルを広げた。
 潮風を孕んだセイルは、子供の寝息のようにすやすやと風を受けて進んで行く。

 「Sleeping sail(寝息のように動くセイル) だな?」
 「なつかしいなあ」
 「いいな、帆船は?」
 「ああ、帆船はいい」

 そして俺たちは歌い始めた。



       照りもせず 曇りもせず いたずらに過ぎ行く人生の春を嘆く
       されど歌わん「白菊の唄」


       かすめる美空に消え残る♪ おぼろ月夜の秋の空♪
       身に染みわたる夕風に♪ 背広の服をなびかせつ♪
       紅顔可憐の美少年が♪ 商船学校の校内の♪
       練習船の♪ メインマストのトップの上に立ち上がり♪

       故郷の空を眺めつつ♪ ああ 父よ母よ今いずこ?♪
       我が恋人は今いかに?♪ 少年夢に持つものは♪・・・。
       
       
       

 トビウオが本船と伴走していた。 美しく翼を広げて。


 「帰るか? 横浜へ?」
 「捕まるだろうな? 俺たち?」
 「しょうがねえよ。この場合の罪名は何だろうな?」
 「窃盗罪?」
 「殺人罪?」
 「いや、正当防衛じゃねえか? アイツらから攻撃して来たんだから」
 「国家反逆罪?」
 「俺たちはテロリストじゃねえぞ」
 「そういえば、検事になった先輩がいたな?」
 「いたいた。ロッキードの時の検事だったとか」
 「すげえじゃねえか? 特捜か?」
 「まだ生きてんのかなあ? 先輩」
 「途中で学校辞めて、東大法学部に入ったあの伝説の天才か?」
 「お前もすげえじゃねえか? 同志社中学からウチの学校に来たんだもんな?」
 「俺たちより15才上だっけ? すると今は74才位か?」
 「じゃあ、もう退官して弁護士か?」
 「死んでんじゃねえの?」
 「帰ってから考えようぜ、そんなことはどうでもいいよ」
 「浦賀水道に入る。東京マーチス(東京湾海上交通センター)に連絡だ」
 「Tokyo Marine Traffic Information, this is Sailing Ship "Nippon Maru" , over」
 「Sailing Ship "Nippon Maru" . Please change to channel one-two(船舶無線を12チャンネルに変更して下さい)」
 「Roger. change to channel 12」
 「This is "Tokyo Martis".  How do  you read me ?  over(感度いかが?)」
 「 Loud and clear. I read you with strength 5, over(感度最良好です)」
 「please, go ahead(どうぞ、お話しください)」
 「ETA  quarantine anchorage 1130. Did you get it ? ,over(検疫錨地への到着予定時刻は11時30分です。ご了解いただけましたか?」
 「Roger. 1130.over(11時30分 了解しました)」


 東京湾、伊勢湾、瀬戸内海では船舶交通がかなり混雑している。
 故にそれらには船舶航路が決められており、航空機と同じ様に航路管制がされているのだ。


 「あんな広い海で船が衝突するなんて、不思議よね?」

 だが実際には2点間の最短距離を航行するわけだから、船は集中する。
 ヒヤッとすることなど日常なのだ。
 太平洋のど真ん中ですら、衝突する危険はあるのだ。



 横浜港に帰って来た。
 検疫錨地に錨を下ろすと、海上保安庁や警察、検疫、税関、それに入国審査官らが乗り込んで来た。

 「長旅、ご苦労様でした。
 あなたたちですね? シージャックの人質になっていたのは?
 おケガ等はありませんか?」
 「本庁で事情聴取がありますので、接岸しましたらご同行願います」
 「えっ? シージャック?」
 「人質?」
 「俺たちはただ月へ・・・」
 「そうだ、俺たちは月に行って来たんだ」
 「6年後には世界が滅びるんだ! 核戦争で! 早く核を廃絶させないと!」
 「そうだよな? ジャック? 俺たちはワープして・・・」
 「ジャック!」
 「ジャックがいない? どこにいるんだ? ジャックーっつ!」

 官憲たちは顔をしかめた。

 「薬物を注射されたかもしれないですね?」
 「洗脳かもしれん」
 「取り敢えず、精神鑑定だ。
 消防の救命救急に連絡をしろ」
 「はっ!」



 ジャックはどこにもいなかった。
 俺たちは夢を見ていたのだろうか?
 異常がないことが確認され、俺たちはようやく解放された。

 「俺たちは月に行ったんだよな?」
 「ああ、確かに行った。
 俺たちはジャックに月へ連れて行ってもらったんだ」
 「ジャックにまた、会いたいな?」
 「そうだな?」
 「俺たちは月に行った」
 「それは事実だ、だってほら」

 菊池がポケットから石ころを出して見せた。

 「俺も」
 「俺もだ」
 「ほら、俺も」

 俺たちはポケットから「月の石」を出して見せ合った。

 「この素晴らしい地球をいつまでも守らねえとな?」
 「俺たちの子供や孫たちのためにも、この美しい地球をな?」
 「世界が平和でありますように」
 「それにはこの地球に暮らす人間ひとりひとりが、平和を願う心を持たねえとな?」
 「ありがとう、ジャック」
 「ジャック、ありがとう」
 「またいつかどこかでな?」


 横浜の夜空には美しく月が輝いていた。


             「進め! 宇宙帆船『日本丸』」おしまい

             
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