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第7話 女の気持ち
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「明日、銀行の健康診断なんだ。だからご飯もエッチも出来ないの、残念だけど」
「何も引っ掛からないといいね?」
「何だかドキドキする、乳がんとかだったらどうする?」
「それはないな」
「どうして?」
「だってコリコリしたりとかのシコリもないから」
「もう、壮一のエッチ!」
瞳は笑っていたが、その疑いが現実のものとなり、瞳は大学病院での精密検査を受けることになってしまった。
「再検査だってさ、怖いよ、壮一」
「大丈夫、瞳はガンなんかで死んだりしないから」
私は自信たっぷりにそう言った。
なぜなら瞳の頭上には、金色の大きな球体に「62」と、しっかり書かれているからだ。
「そんなの分からないでしょう! 壮一は男だからわからないのよ! 女の気持ちが!
仮に助かったとしてもよ、オッパイがなくなるかもしれないんだよ! 髪の毛も抜けて・・・。
いいかげんなこと言わないで!」
「ごめん」
私は瞳を安心させてあげたいと思い、秘密を打ち明けようとも考えたが、マイケルの顔が頭に浮かんだ。
「壮一、猫にされてしまうよ」
再検査の結果、やはり乳がんと診断された。
幸い発見が早く、初期段階だったので、投薬と放射線治療を併用することになった。
病院に見舞いに行くと瞳はかなりショックだったようで、酷く落ち込んでいた。
「瞳の好きな『プモリ』のモンブランを買って来たんだ、もう秋だね? 気分はどう?」
「いいわけないじゃない。もしもこのまま悪化して、「胸を取ります」なんて言われたらどうすんのよ。
オッパイのない私のこと、壮一は抱いてくれる? 嫌いよね? オッパイのない私なんて・・・」
私はケーキの入った箱を開けながら言った。
「君は女だから、それは死ぬほど辛い事かもしれない。でも俺は君を失うことの方がもっと辛い。
俺は瞳の綺麗な胸だけに惚れたわけじゃない、俺は瞳そのものが好きなんだ、瞳のすべてが好きなんだよ」
「ハーゲンダッツの蓋を舐めるところも? お風呂で都はるみを歌うところも? そしてわがままで大酒飲みで、エッチした後に美味しそうに煙草を吸うのも全部好き?」
「もちろん。だから何も心配するな、瞳は必ず良くなる」
「ありがとう、壮一」
「瞳のすべてを愛しているんだ。だから何も心配するな、俺がついているから」
「壮一・・・」
瞳は大粒の涙を流した。
私は瞳の手を強く握った。
「さあ、一緒に食べよう、モンブラン。
飲物を買って来るね? 温かい紅茶でいいかい?」
「うん」
私は病室を出て、談話室にある自販機で紅茶を買った。
誰でも死に対する恐怖はある。そしてカラダの一部がなくなることは死ぬよりも辛いことだ。
私は考えを変えることにした。
それは、自分が寿命を知ることができない人間だと思い直すことだった。
つまり、普通の人間と同じように、目の前の人がいつ死ぬかわからないという想いで接することを。
死期を知るということは安心であり、悲しみでもある。どんなに数字が大きくても、その時は必ずやって来るのだから。
頭上の数字に関係なく、ただその人に寄り添う勇気とやさしさ。
それは寿命など関係のないことなのだ。
人間には与えられた命を全うする義務がある。
将来を不安に思ってはいけない、私はそう考えることにした。
人はいつ死んでもいいように、「今、この瞬間を大切に生きること」が大切なのだ。
瞳はその後、順調に回復して、無事退院することが出来た。
「よかったね、病気が治って?」
「壮一のおかげだよ、壮一が励ましてくれたからオッパイも切らなくて済んだ。
ありがとう、壮一」
瞳は私にキスをした。
私はそんな瞳をやさしく抱きしめた。
「しあわせになろうな」
「うん」
大学病院の駐車場のクルマの中で、しばらく私と瞳は強く抱き合ったままでいた。
私は瞳との結婚を決めた。
「何も引っ掛からないといいね?」
「何だかドキドキする、乳がんとかだったらどうする?」
「それはないな」
「どうして?」
「だってコリコリしたりとかのシコリもないから」
「もう、壮一のエッチ!」
瞳は笑っていたが、その疑いが現実のものとなり、瞳は大学病院での精密検査を受けることになってしまった。
「再検査だってさ、怖いよ、壮一」
「大丈夫、瞳はガンなんかで死んだりしないから」
私は自信たっぷりにそう言った。
なぜなら瞳の頭上には、金色の大きな球体に「62」と、しっかり書かれているからだ。
「そんなの分からないでしょう! 壮一は男だからわからないのよ! 女の気持ちが!
仮に助かったとしてもよ、オッパイがなくなるかもしれないんだよ! 髪の毛も抜けて・・・。
いいかげんなこと言わないで!」
「ごめん」
私は瞳を安心させてあげたいと思い、秘密を打ち明けようとも考えたが、マイケルの顔が頭に浮かんだ。
「壮一、猫にされてしまうよ」
再検査の結果、やはり乳がんと診断された。
幸い発見が早く、初期段階だったので、投薬と放射線治療を併用することになった。
病院に見舞いに行くと瞳はかなりショックだったようで、酷く落ち込んでいた。
「瞳の好きな『プモリ』のモンブランを買って来たんだ、もう秋だね? 気分はどう?」
「いいわけないじゃない。もしもこのまま悪化して、「胸を取ります」なんて言われたらどうすんのよ。
オッパイのない私のこと、壮一は抱いてくれる? 嫌いよね? オッパイのない私なんて・・・」
私はケーキの入った箱を開けながら言った。
「君は女だから、それは死ぬほど辛い事かもしれない。でも俺は君を失うことの方がもっと辛い。
俺は瞳の綺麗な胸だけに惚れたわけじゃない、俺は瞳そのものが好きなんだ、瞳のすべてが好きなんだよ」
「ハーゲンダッツの蓋を舐めるところも? お風呂で都はるみを歌うところも? そしてわがままで大酒飲みで、エッチした後に美味しそうに煙草を吸うのも全部好き?」
「もちろん。だから何も心配するな、瞳は必ず良くなる」
「ありがとう、壮一」
「瞳のすべてを愛しているんだ。だから何も心配するな、俺がついているから」
「壮一・・・」
瞳は大粒の涙を流した。
私は瞳の手を強く握った。
「さあ、一緒に食べよう、モンブラン。
飲物を買って来るね? 温かい紅茶でいいかい?」
「うん」
私は病室を出て、談話室にある自販機で紅茶を買った。
誰でも死に対する恐怖はある。そしてカラダの一部がなくなることは死ぬよりも辛いことだ。
私は考えを変えることにした。
それは、自分が寿命を知ることができない人間だと思い直すことだった。
つまり、普通の人間と同じように、目の前の人がいつ死ぬかわからないという想いで接することを。
死期を知るということは安心であり、悲しみでもある。どんなに数字が大きくても、その時は必ずやって来るのだから。
頭上の数字に関係なく、ただその人に寄り添う勇気とやさしさ。
それは寿命など関係のないことなのだ。
人間には与えられた命を全うする義務がある。
将来を不安に思ってはいけない、私はそう考えることにした。
人はいつ死んでもいいように、「今、この瞬間を大切に生きること」が大切なのだ。
瞳はその後、順調に回復して、無事退院することが出来た。
「よかったね、病気が治って?」
「壮一のおかげだよ、壮一が励ましてくれたからオッパイも切らなくて済んだ。
ありがとう、壮一」
瞳は私にキスをした。
私はそんな瞳をやさしく抱きしめた。
「しあわせになろうな」
「うん」
大学病院の駐車場のクルマの中で、しばらく私と瞳は強く抱き合ったままでいた。
私は瞳との結婚を決めた。
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