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第3話
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早朝の首都高は爽快だった。東京が朝日で黄金に輝いている。
横浜FMから流れて来る軽やかなユーロビート、私はそれに合わせるようにハミングをした。
クルマは東北自動車道へと合流をした。
街を抜けると、広がって行く山々や田園地帯の風景。どうやら私にもノスタルジーが残っていたようだ。
郡山までは比較的近い感じがするが、会津まではここから一時間以上は掛かる。
磐越自動車道のいくつもの長いトンネルを抜けると、左手に猪苗代湖が見え、正面には磐梯山が悠然と現れて来た。懐かしさが一気に込み上げて来る。
「やっとふるさとに帰って来たな?」
私はそう独り言を言った。
途中、磐梯サービスエリアでトイレ休憩をして、私はクラス会の会場である、東山温泉の『御宿 東鳳』へと再びクルマを走らせた。
市内に入ると、意外にも町並みはあまり変わってはいなかった。それには安心もしたが、落胆もした。
会津にかつての活気はなく、今は寂れた地方都市であり、デパートも映画館も消え、会津大学を含めた東北版シリコンバレーとしての半導体工場群も撤退し、限界集落になってしまっていた。
坂を登り、東山温泉街の入口へとクルマを走らせて行った。
『御宿 東鳳』は東山温泉では一番大きなタワーホテルである。私はクルマを駐車場に停めると、ドキドキしながらホテルの正面玄関へと入った。
黒い大きな立て看板には「若松第一中学校 同級会御一行様」と白地で大書してあった。
ロビーに入ると女性スタッフが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
「クラス会に来たのですが」
「はい、受付にご案内いたしますのでどうぞこちらへ」
その時、木下たちに呼び止められた。
「唐沢君、こっちこっち」
「おう、唐沢ちゃんじゃねえか? 相変わらず男前だなあ」
木下と高田が手招きしていた。
「ちょうどクラスメイトもいたようなのでここで結構です、ありがとうございました」
「そうですか? ではごゆっくり」
高田は昔の面影はあったが、街ですれ違ってもおそらく高田だと気づくことはないだろう。
彼はすっかり白髪の老人になっていた。
「かわんねえなあ、唐沢ちゃんは?」
「もう後三年で赤いちゃんちゃんこだよ」
「それはみんなも同じだべ。オラなんか、もう孫が2人もいるべさ。あはははは」
「受付はまだだよね? こっちでの幹事は西川さんが引き受けてくれたんだ」
「西川? 会津に戻って来たのか?」
「アイツも色々あったんだべ」
私たちはそれについて詮索することはしなかった。
受付にはすでに何人かの同級生たちが立ち話をしていた。
「あら、唐沢君? お久しぶり!」
「西川さんだよね? 変わっていないね? 昔のままだ」
「唐沢君もお世辞が言えるようになったんだあ? もう孫がいるのよ、私はもうお婆ちゃん。あはははは」
確かに西川はそれ相応に歳を重ねていたが、それはみんな同じだった。
私たちは各々、出来る限りの若作りをしていたことが微笑ましかった。
めずらしさもあり、私は次々にクラスメイトたちから声を掛けられた。
「唐沢は東京だったよな? この都会者! 垢抜けしてんでねえの? あはははは」
今村が話しかけて来た。
今村は仙台で不動産の仕事をしていると言っていた。
「唐沢、会津にはちょくちょく帰って来てるんだべ? 盆と正月には実家に?」
「もう両親も死んで実家も処分したんだ。こっちに来るのは本当に久しぶりなんだよ」
「にしゃ(お前)クラス会にはずっと来なかったもんな?」
「ああ、今村、お前家族は?」
「子供たちは北海道と東京だ。今は女房と二人暮らしだよ。今日は女房と一緒に来たんだ、旅行も兼ねてな?」
「それは良かった」
「唐沢は?」
「俺はバツイチになっちまったよ」
「そうか? お前、モテるからなあ? あはははは」
私は苦笑いをした。
その時、背後から声を掛けられた。
「唐沢君だよね?」
その声には見覚えがあった。振り向くとそこには後藤祥子が笑顔で立っていた。
横浜FMから流れて来る軽やかなユーロビート、私はそれに合わせるようにハミングをした。
クルマは東北自動車道へと合流をした。
街を抜けると、広がって行く山々や田園地帯の風景。どうやら私にもノスタルジーが残っていたようだ。
郡山までは比較的近い感じがするが、会津まではここから一時間以上は掛かる。
磐越自動車道のいくつもの長いトンネルを抜けると、左手に猪苗代湖が見え、正面には磐梯山が悠然と現れて来た。懐かしさが一気に込み上げて来る。
「やっとふるさとに帰って来たな?」
私はそう独り言を言った。
途中、磐梯サービスエリアでトイレ休憩をして、私はクラス会の会場である、東山温泉の『御宿 東鳳』へと再びクルマを走らせた。
市内に入ると、意外にも町並みはあまり変わってはいなかった。それには安心もしたが、落胆もした。
会津にかつての活気はなく、今は寂れた地方都市であり、デパートも映画館も消え、会津大学を含めた東北版シリコンバレーとしての半導体工場群も撤退し、限界集落になってしまっていた。
坂を登り、東山温泉街の入口へとクルマを走らせて行った。
『御宿 東鳳』は東山温泉では一番大きなタワーホテルである。私はクルマを駐車場に停めると、ドキドキしながらホテルの正面玄関へと入った。
黒い大きな立て看板には「若松第一中学校 同級会御一行様」と白地で大書してあった。
ロビーに入ると女性スタッフが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
「クラス会に来たのですが」
「はい、受付にご案内いたしますのでどうぞこちらへ」
その時、木下たちに呼び止められた。
「唐沢君、こっちこっち」
「おう、唐沢ちゃんじゃねえか? 相変わらず男前だなあ」
木下と高田が手招きしていた。
「ちょうどクラスメイトもいたようなのでここで結構です、ありがとうございました」
「そうですか? ではごゆっくり」
高田は昔の面影はあったが、街ですれ違ってもおそらく高田だと気づくことはないだろう。
彼はすっかり白髪の老人になっていた。
「かわんねえなあ、唐沢ちゃんは?」
「もう後三年で赤いちゃんちゃんこだよ」
「それはみんなも同じだべ。オラなんか、もう孫が2人もいるべさ。あはははは」
「受付はまだだよね? こっちでの幹事は西川さんが引き受けてくれたんだ」
「西川? 会津に戻って来たのか?」
「アイツも色々あったんだべ」
私たちはそれについて詮索することはしなかった。
受付にはすでに何人かの同級生たちが立ち話をしていた。
「あら、唐沢君? お久しぶり!」
「西川さんだよね? 変わっていないね? 昔のままだ」
「唐沢君もお世辞が言えるようになったんだあ? もう孫がいるのよ、私はもうお婆ちゃん。あはははは」
確かに西川はそれ相応に歳を重ねていたが、それはみんな同じだった。
私たちは各々、出来る限りの若作りをしていたことが微笑ましかった。
めずらしさもあり、私は次々にクラスメイトたちから声を掛けられた。
「唐沢は東京だったよな? この都会者! 垢抜けしてんでねえの? あはははは」
今村が話しかけて来た。
今村は仙台で不動産の仕事をしていると言っていた。
「唐沢、会津にはちょくちょく帰って来てるんだべ? 盆と正月には実家に?」
「もう両親も死んで実家も処分したんだ。こっちに来るのは本当に久しぶりなんだよ」
「にしゃ(お前)クラス会にはずっと来なかったもんな?」
「ああ、今村、お前家族は?」
「子供たちは北海道と東京だ。今は女房と二人暮らしだよ。今日は女房と一緒に来たんだ、旅行も兼ねてな?」
「それは良かった」
「唐沢は?」
「俺はバツイチになっちまったよ」
「そうか? お前、モテるからなあ? あはははは」
私は苦笑いをした。
その時、背後から声を掛けられた。
「唐沢君だよね?」
その声には見覚えがあった。振り向くとそこには後藤祥子が笑顔で立っていた。
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