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第13話
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「もうすぐ麻里子の四十九日だから、その後、婚姻届を役所に出そう。
花音と純子ちゃんにはまだ内緒にしておいて欲しいんだ」
「花音にも?」
「あの子はすぐに態度や表情に出てしまう。
純子ちゃんにとっては、あまり気分のいい話ではないからな」
「わかったわ」
「明日、市役所で婚姻届の用紙を貰った帰りに、結婚指輪を作りに行こう」
「うれしい・・・」
梢は私にカラダを寄せた。
翌日、私たちは婚姻届を貰いに富山市役所へ行き、総曲輪にある宝飾店で指輪を選んだ。
「これがいい! 私も半分出すからさあ」
「梢が好きな物を選べばいい。じゃあ結婚指輪はこれでいいね?
サイズを測ってもらおう」
結婚指輪は一週間後に出来上がるそうだ。
「もうひとつ、指輪をプレゼントするよ。梢の御守として」
「いらないよ、結婚指輪も結構高かったし」
「いいから選んでご覧」
目を輝かせ、ショーケースの指輪を真剣に見詰める梢は、女の顔になっていた。
「たくさんありすぎて迷っちゃう。指輪なんて久しく買ってないから。
ねえ、あなたはどれがいいと思う?
パーティにしていくわけじゃないから、普段つけていられるのがいいんだけど」
「これなんかどうだ?」
私はエメラルドとダイヤがあしらわれた指輪を梢に勧めた。
「すごくキレイ、でも・・・」
梢は私の耳元に顔を近づけ、囁いた。
「120万円だよ、そんなに高いのはいらないよ」
「この指輪、気に入らないのか?」
「それは素敵だとは思うけど、いいよ、いくらなんでも120万円もする指輪なんて。
しかも税別だよ? 私には勿体ないよ、10万円位ので十分だよ」
「エメラルドはダイヤモンド、ルビー、サファイアと並ぶ世界4大宝石のひとつなのは知っているよな?
エメラルドは『ベリル』という鉱石の一種で、ブルーに近いとアクアマリーンに、そしてピンクに近いとモーガナイトとして加工される。
地中深くで強い圧力をかけられて出来たベリルほど深い緑になる。
だが非常に傷が多く、エメラルドになるベリルは希少価値が極めて高い。
心に沢山の傷を持ち、それでも美しく輝いている梢にはぴったりの宝石だと思う。
エメラルドは不思議な宝石でね? 解毒作用や肝臓、てんかん、ライ病などの万能治療薬でもあったそうだ。
そのために時の権力者たち、シーザーやクレオパトラ、ネロなどもエメラルドを珍重し、集めていた。
女は貞節を守り、男は浮気をしないという言い伝えもある。
伝説ではエメラルドをヘビが凝視すると、ヘビは失明するとも言われている。
俺はエメラルドを見詰め過ぎたのかもしれないな? あははは
すみません、これを下さい」
「かしこまりました。
それではサイズを確認させていただきますので、どうぞお好きな指にはめてみて下さい」
「ちょっと、こんな高価な指輪なんて普段していられないわよ!」
「右手は行動力 左手は精神力を司る。
右手の人差し指に指輪を付けると、何かに迷った時、その人差し指の指輪が進むべき道を示してくれるとも言われている。右手の人差し指にはめてご覧。
見てるだけでもいいじゃないか?」
恐る恐る梢が指輪をはめてみると、それは右手の人差し指にぴったりと収まった。
「いかがですか?」
「ぴったり・・・」
「まるでこのエメラルドの指輪が梢を待っていたようだな? ではこれを包んで下さい、リボンをかけて」
私は店員にカードを渡した。
「お買い上げいただき、誠にありがとうございました。
こちらにお掛けになってお待ち下さい」
「いいの? 売れない作家さんにこんな凄いお買物させちゃって?」
「下宿代の代わりだよ」
梢は大好きなぬいぐるみを離さない少女のように、指輪の入ったお洒落な紙袋を大事そうに抱えていた。
梢の足取りが軽い。
「後はウエディングドレスだね?」
「ドレスはいいよ、もうそんな歳でもないし、それに二度目だし」
「ドレスを売っているところに連れて行ってくれないか?」
「ドレスならレンタルでいいよ、どうせ一度しか着ないから」
「君と花音の服の好みも体型も似ているから、花音の時にもそれを着ればいいじゃないか?
それに知らない人たちが着回わししたウエディングドレスを、梢に着せたくないし、レンタルも買うのもそう変わらないからな」
「うれしい! ジュン、大好き!
今日も帰ったらいっぱいサービスしてあげる! 今日はお店、臨時休業にしちゃう!」
ウエディングドレスを試着した梢が、大きな鏡の前で急に泣き出してしまった。
「お客様、どうされました?」
「ごめんなさい、あまりにもしあわせ過ぎて・・・」
その若い女性スタッフも、もらい泣きしていた。
ゆっくりと終わりが始まろうとしていた。
花音と純子ちゃんにはまだ内緒にしておいて欲しいんだ」
「花音にも?」
「あの子はすぐに態度や表情に出てしまう。
純子ちゃんにとっては、あまり気分のいい話ではないからな」
「わかったわ」
「明日、市役所で婚姻届の用紙を貰った帰りに、結婚指輪を作りに行こう」
「うれしい・・・」
梢は私にカラダを寄せた。
翌日、私たちは婚姻届を貰いに富山市役所へ行き、総曲輪にある宝飾店で指輪を選んだ。
「これがいい! 私も半分出すからさあ」
「梢が好きな物を選べばいい。じゃあ結婚指輪はこれでいいね?
サイズを測ってもらおう」
結婚指輪は一週間後に出来上がるそうだ。
「もうひとつ、指輪をプレゼントするよ。梢の御守として」
「いらないよ、結婚指輪も結構高かったし」
「いいから選んでご覧」
目を輝かせ、ショーケースの指輪を真剣に見詰める梢は、女の顔になっていた。
「たくさんありすぎて迷っちゃう。指輪なんて久しく買ってないから。
ねえ、あなたはどれがいいと思う?
パーティにしていくわけじゃないから、普段つけていられるのがいいんだけど」
「これなんかどうだ?」
私はエメラルドとダイヤがあしらわれた指輪を梢に勧めた。
「すごくキレイ、でも・・・」
梢は私の耳元に顔を近づけ、囁いた。
「120万円だよ、そんなに高いのはいらないよ」
「この指輪、気に入らないのか?」
「それは素敵だとは思うけど、いいよ、いくらなんでも120万円もする指輪なんて。
しかも税別だよ? 私には勿体ないよ、10万円位ので十分だよ」
「エメラルドはダイヤモンド、ルビー、サファイアと並ぶ世界4大宝石のひとつなのは知っているよな?
エメラルドは『ベリル』という鉱石の一種で、ブルーに近いとアクアマリーンに、そしてピンクに近いとモーガナイトとして加工される。
地中深くで強い圧力をかけられて出来たベリルほど深い緑になる。
だが非常に傷が多く、エメラルドになるベリルは希少価値が極めて高い。
心に沢山の傷を持ち、それでも美しく輝いている梢にはぴったりの宝石だと思う。
エメラルドは不思議な宝石でね? 解毒作用や肝臓、てんかん、ライ病などの万能治療薬でもあったそうだ。
そのために時の権力者たち、シーザーやクレオパトラ、ネロなどもエメラルドを珍重し、集めていた。
女は貞節を守り、男は浮気をしないという言い伝えもある。
伝説ではエメラルドをヘビが凝視すると、ヘビは失明するとも言われている。
俺はエメラルドを見詰め過ぎたのかもしれないな? あははは
すみません、これを下さい」
「かしこまりました。
それではサイズを確認させていただきますので、どうぞお好きな指にはめてみて下さい」
「ちょっと、こんな高価な指輪なんて普段していられないわよ!」
「右手は行動力 左手は精神力を司る。
右手の人差し指に指輪を付けると、何かに迷った時、その人差し指の指輪が進むべき道を示してくれるとも言われている。右手の人差し指にはめてご覧。
見てるだけでもいいじゃないか?」
恐る恐る梢が指輪をはめてみると、それは右手の人差し指にぴったりと収まった。
「いかがですか?」
「ぴったり・・・」
「まるでこのエメラルドの指輪が梢を待っていたようだな? ではこれを包んで下さい、リボンをかけて」
私は店員にカードを渡した。
「お買い上げいただき、誠にありがとうございました。
こちらにお掛けになってお待ち下さい」
「いいの? 売れない作家さんにこんな凄いお買物させちゃって?」
「下宿代の代わりだよ」
梢は大好きなぬいぐるみを離さない少女のように、指輪の入ったお洒落な紙袋を大事そうに抱えていた。
梢の足取りが軽い。
「後はウエディングドレスだね?」
「ドレスはいいよ、もうそんな歳でもないし、それに二度目だし」
「ドレスを売っているところに連れて行ってくれないか?」
「ドレスならレンタルでいいよ、どうせ一度しか着ないから」
「君と花音の服の好みも体型も似ているから、花音の時にもそれを着ればいいじゃないか?
それに知らない人たちが着回わししたウエディングドレスを、梢に着せたくないし、レンタルも買うのもそう変わらないからな」
「うれしい! ジュン、大好き!
今日も帰ったらいっぱいサービスしてあげる! 今日はお店、臨時休業にしちゃう!」
ウエディングドレスを試着した梢が、大きな鏡の前で急に泣き出してしまった。
「お客様、どうされました?」
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