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暗黒のナホトカ(ロシア)

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 タンカーでナホトカに向けて出港する時、ウイスキーにタバコ、ホチキス、ホチキスの針、ジーパン、そしてパンティストッキング等をたくさん仕入れた。

 「キャプテン、こんなものどうするんですか?」
 「貢物だよ」
 
 と船長は笑っていた。



 ナホトカに着くと早速、検疫官や入国管理官、税関、港湾事務職員らが本船に乗船して来た。
 全員、女性だった。しかもすこぶる不機嫌。
 私が苦労して作成した書類を提出しても見ようともしないでそっぽを向いている。
 みんなデブちんで、ナターシャみたいな女性はひとりもいなかった。

 そこへキャプテンが例の貢物を差し出した。
 すると途端に態度か変わり、じゃんじゃんサインを始めた。
 彼女たちはジーパンを重ね履きし、ウイスキーにタバコ、ホチキスとその針、そしてパンストを嬉しそうに抱えてウキウキと帰っていった。
 ホチキスの針すらもない国が、原爆や水爆を何千発も持って、宇宙開発もして、ミグ戦闘機まで造っているのだ。
 特に日本のパンストは大人気だった。


 ナホトカは-28℃の極寒だった。私は本船のパイプラインが凍結して破損しないか冷や冷やしていた。
 その極寒の地で、ロシア人の作業員たちは厚手の油まみれのセーターのみ。
 おそらくウォッカをがぶ飲みながら、中から体を温めているのだろう。


 ソ連に抑留されていた親戚のお爺さんがよく言っていた。

 「ロスケ(ロシア人の蔑称)はバカばっかりじゃった、数字もロクに数えられんのじゃ。
 上官が号令をかける、「番号!」すると「1!」,「2!」,「3!」、「他多数であります!」の有様じゃ。
 それ以上数えることができんから「他多数」なんじゃよ」

 日本の船員の何人かも、逮捕されて強制収容所にいると聞いたことがある。
 当時はゴルバチョフ書記長だったと思うが、暗いロシア民謡の似合う暗黒の港町だった。
 私は「ボルガの舟歌」を口づさんだ。

 ロシアは音楽も文学も暗い。

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